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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第4巻 天狗の羽団扇

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108話 空気の変化

「賀茂さん、おはようございます。重役出勤というやつですね」

「まあな。A級陰陽師が国に出向すると、将補とか警視長の扱いらしいぞ。だけど校長と、どっちが偉いのかは知らん」


 二学期の開始から数日遅れて、一樹は花咲高校に登校した。

 まずは脳天気な柚葉の挨拶を軽く受け流して、席に着く。そして鞄から教科書や、ノートを取り出して、机の中に放り込んでいった。

 一樹の重役出勤に関して、欠席の理由を問うクラスメイトは居ない。

 なぜなら欠席の理由が、誰の目にも明らかだからだ。


 8月13日にA級と目される蜃が出現して、一樹を含むA級陰陽師4人が、対応に駆り出された。

 依頼内容は『蜃の勢いを弱めること』であり、それは果たしたが、依頼の達成直後に魔王が出現して、敗退に追い込まれている。

 A級陰陽師は1人が殉職、1人が負傷引退に追い込まれた。

 その両名は、陰陽師として世間への認知度が高い、花咲と五鬼童である。

 そして10日後には、魔王の領域の周囲に煙鬼が発生。半径60キロメートル以内の300万人に、レベル7の避難命令が出された。

 学校には欠席を連絡したが、一樹が「魔王が出て対処しているので」と言ったところ、担任からは「分かった、頑張れ」と即座に了承されている。


「賀茂、煙鬼の対処方法を教えてくれ」


 机の中が教科書とノートで半分埋まったところで、クラスメイトの一部が一樹に群れてきた。

 心なしかクラス内の話し声も小さくなって、周囲の意識が一樹のほうへと向けられている。

 だがそれは無理からぬ話で、現在の日本人にとって、煙鬼は目下最大の関心事項なのだ。


「対処方法か。そうだなぁ……」


 煙鬼の恐ろしさは、ゾンビのように、被害者が新たな煙鬼になる点にある。

 最初に出現した煙鬼達は、使役者の傍から離れられない。

 だが使役されていない二次感染以降の煙鬼は、呪力が独立している。倒されれば復活しない代わりに、呪力と陸地が続く限り、地の果てまでも歩いて行ける。

 本州に住んでいる者であれば、突然目の前に煙鬼が現れて殺される事も有り得るのが現状だ。

 ただし、元が人間である煙鬼は、ゾンビと同様に水中までは移動できない。

 万が一にも日本が煙鬼に支配された際には、一樹が使役した幽霊巡視船が、大活躍することになるだろう。


 ――その時は、蒼依と沙羅は連れて行くとして、柚葉は龍神様のところに帰すべきか。


 龍神の神域と化した中禅寺湖の一帯であれば、怨霊である煙鬼は神気に阻まれて近付けない。

 神気の元となるエネルギーは地脈から得ており、それを龍神が神聖な気に変換して発しているため、龍神が在る限りにおいて中禅寺湖は安全だ。

 そして1000年も経てば、龍神の娘の誰かが、神域を継承できるレベルに達するだろう。

 安全性や将来性を総合的に鑑みれば、巡視船と中禅寺湖では、中禅寺湖のほうが良い選択だ。


 ――香苗は、豊川稲荷に送るべきか。


 豊川稲荷にも、中禅寺湖並の自衛手段がある。

 獅子鬼が豊川稲荷に攻め込んだ場合、豊川と良房を中心とする狐の戦闘集団が迎撃して、逆に獅子鬼を倒してしまいかねない。したがって煙鬼ごとき、豊川稲荷の敵ではない。

 そして狐のクォーターで、豊川稲荷の狐霊から魂の欠片を5つ継承した香苗であれば、豊川稲荷に受け入れられると考えられる。

 そのように日本には、いくつかの神域や安全地帯がある。

 いかに獅子鬼や煙鬼が暴れたところで、日本が壊滅することはない。


 ――だからこそ神仏も、一々介入などしないのかもしれないが。


 安全地帯を思い浮かべた一樹は、それらを教えることが先方への迷惑になると考えて、口には出さなかった。

 どこの神域でも、安全や衣食住を与えられる人数は、無限ではない。

 であれば、普段から関わりを持っていた者を優先したいだろう。

 危険になってから飛び込んで来た者を受け入れて、従来の懇意な関係者が締め出されるようでは、将来の懇意な者を失って組織や集団も潰える。

 国が税金で運用する施設には逃げ込んでも構わないだろうが、政府の傘下には、陰陽師が居ない。したがって煙鬼に襲われた際の対応能力には、あまり期待できない。


「テレビでは、対策を報道していなかったか」


 一樹が裏技を避けて、一般的な対処法について振ったところ、男子の1人が不満げに訴えた。


「避難範囲から離れて、煙鬼を見つけたら逃げて通報しろという話ばっかりだけど」

「その対処方法は、間違っていないぞ」


 テレビの報道について、一樹は肯定した。

 政府が一般人に望むのは、新たな煙鬼にならないために、命令範囲から逃げてもらうことだ。

 御殿場市から半径60キロメートルは、使役されている煙鬼が移動できる限界距離であって、そこから離れれば復活する煙鬼は出ない。

 そして防衛ラインを突破した、獅子鬼に使役されていない煙鬼を通報してもらえれば、潰して個体数を減らせるので有り難い。


「怨念である煙鬼は、物理攻撃では倒せない。だからゾンビのように、一般人が野球バットなどで頭を潰しても倒せたりはしない。一般人は、危険な場所には近寄らないのが正解だ」


 煙鬼の呪力はF級の下で、G級にでも分類すべき怨霊だ。

 そのためF級の呪力を持ち、符呪も使えると国家試験で確認できているF級陰陽師であれば、単独でも対処できる。

 だが一般人は、そこまで呪力を持っていない。

 今年の陰陽師国家試験では、13万1739人中8293人が一次試験に合格した。

 すなわち100人中94人ほどは、呪力の時点で煙鬼を倒せない。

 一樹は国家試験の合格率について説明する。


「一般人は、100人中94人が煙鬼に対抗できる呪力を持たない。1クラス30人中28人は、対処できる呪力に達していない。だから付け焼き刃で術を覚えても、煙鬼には対抗できない」


 一樹は言外に、一樹達を除くクラスメイトの呪力では、対処は不可能だと告げた。


「術を覚えられるなら、陰陽同好会に入ろうと思ったんだけどなぁ」

「止めてくれ。教える人数が多くなりすぎて、俺が過労死する」


 学校中の生徒が同好会に入会する様を想像した一樹は、ウンザリとした声を上げた。

 そして同好会から部活への昇格基準を思い出す。


【部活の昇格に関する規定】

 ・生徒10名以上と、教員の顧問1名を以て構成する。

 ・昇格願いと活動実績を提出する。

 ・部長会で審議し、承認基準に沿って承認を得る。

 ・職員会議で審議し、校長の承認を得る。


 煙鬼の脅威が世間の話題を席巻した現状ならば、生徒10名以上の達成は容易い。

 花咲高校は1学年300名だが、来年度の新入生にはF級の呪力を期待できる人間が18人いるはずだ。

 水仙に調べさせて、陰陽師になれる呪力があると言って勧誘すれば、きちんと活動できる人間だけでも10人以上の部活を成立させられる。


 活動実績については、小太郎、柚葉、香苗の3人が国家試験に合格している。

 現役陰陽師は1万人ほどで、医師に比べて30分の1、弁護士に比べて4分の1。高校生の同好会に求める実績としては、おそらく充分だ。

 申請に関しては、問題が無いはずである。


 ――部長会の審議が、一番よく分からないな。


 各部の部長達に、霊符1枚ずつの賄賂でも渡すべきなのだろうか、と、一樹は妄想した。

 A級陰陽師の一樹が作成する霊符は、市場に流すと億単位の値が付いてしまう。税務署が動き出さないか心配したところで、一樹は我に返った。


「煙鬼は数が多くて、活動範囲も広くて、根拠地も魔王の領域にあるから潰せない。あの辺りは、妖怪の領域になったと思ったほうが良い」

「何とかならないのか?」

「A級4人で行って、全滅しかけたんだぞ」


 一樹の視線が、空席になっている小太郎のほうに向かう。

 殉職したのは小太郎の父で、死後2週間は経っているが、小太郎は登校どころではないはずだ。


 花咲家の当主は、花咲家に代々憑いてきた氏神の犬神が憑くことで決まる。

 花咲グループは売上高1兆円規模を誇るが、それらの資産は犬神が築いてきたようなものだ。

 横取りしようとする者の末路は、民話『花咲かじいさん』に登場する隣の老夫婦が示している。

 したがって花咲一族は、犬神の選定を受けている真っ最中のはずである。


 ――小太郎が選ばれる可能性は、どれくらいだろうな。


 花咲家の犬神は、術者がD級であろうとも、A級下位の力を発揮できると評価されている。

 そのため小太郎に犬神が憑けば、小太郎は御方から、A級陰陽師だと認められる。ほかの花咲一族であろうとも、呪力がD級であれば、やはりA級陰陽師に任命されるだろう。

 小太郎自身は、犬神を継承する意志があって、自ら陰陽師になっている。

 一樹としても、全く知らない人間がA級陰陽師になるよりも、小太郎がなってくれたほうが連携しやすくて有り難い。

 だが現状でA級になることは、国民から大きな期待を受けることでもある。A級に就任だけして、高校卒業まで殆ど活動しないという訳には、流石にいかないだろう。

 花咲グループ全体の会長に就任することにもなるので、小太郎には大きな負担が掛かる。


 ――せめて高校卒業後なら、会長職も務まっただろうに。


 一樹は不意に、11歳で征夷大将軍になった四代将軍の徳川家綱の話を思い浮かべた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 安全地帯は有るのか。だが、だからこそ絶滅はしないから神々の介入もそうそう起こらない、と。 一般人からしたら煙鬼でも恐ろしいからどうにかしてほしいってなるか。とはいえあまり効果的な方法ないか…
[良い点] 神域という基地は日本各地にやはりあるんですね。 しかし、列島霊的要塞というわけはなくこの国の中で陣地の取り合いと。 そりゃ攻め込む魔王もモチベーションが高いわ。 魔界に居がある獄卒の方が幾…
[一言] それでも、1クラスに二人は居るならその分だけでも宿題形式で鍛えるのもありかもですね。
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