表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/34

6 読んだら人間が消える本

 どうせいつものように、先輩が作ったホラ話に違いないと思いながらも、俺は話を聞いていた。


「本が嫉妬して、擬態するって、どんなメルヘンの世界ですか」


 真っ白な髪で赤い瞳をした、アルビノの先輩が言うと、なんだか本当にありそうに思えてくるから困る。


「まるでカッコウが、他の鳥の巣に、卵を産み付けるみたいに、中身だけ本物にすり替わろうとするんだよ。迷惑な本でしょ」


 俺はさっきまで読んでいた本に目をやった。

 確かに、勝手に中身が違っていたら、それは困るだろう。


 だがこれから読む本の内容が、本物かどうかなんて、読むまでわからないのでは。そう思ったが、つっこむのはやめておいた。


「きっとその白い本は、誰かに読んでもらうのを、ずっと待ってることに疲れたんだろうね」


 待ちぼうける本という構図は、なかなかのパワーワードだなと思った。そんなことを言い出したら、全国、いや、それどころか全世界にある、ほとんどの本はみな、待ちぼうけをしていることになるのではないだろうか。


「白い本は、誰かに読んでもらうために、本棚から抜け出して、勝手に別の本に擬態をするようになって、いろんな学校の図書室にこっそり隠れてるんだってさ」


 その白い本は、やけにアクティブな変わったやつみたいだ。そういえば先輩は、こういうへんてこなタイプの話が好きだったなと思い出す。


「その『異世界放課後』って本、実は、ある学校の生徒が、学生デビューする予定だった作品らしくて」


「学生で作家デビューとか、格好いいじゃないですか」

「だよね」


 なぜか先輩が自分の手柄みたいに、ドヤ顔をしている。いや先輩を褒めたわけじゃないんですが。


「でも、やっと完成して製本されたものに、致命的なミスが見つかって、発売が延期になったんだって」

「それはまた、がっかりしたでしょうね」

「……だろうね」


 またしても先輩が、自分のことのようにしょんぼりしている。そんなに感情移入しなくても。


「しかも、その作者、発売前に死んじゃって」

「え、じゃあ、その本は」


「正式には発売されずに、世の中から消えたはずだったんだけど」

「だけど?」


「なぜか処分されたはずの本が、あちこちの図書館に現れて。知らずに読んだ人が、次々と消えるって事件があったんだってさ」


 先輩の瞳は獲物を見つけた動物のように、赤く光っているように見えた。

 普段は大人しくて、口数が少ないくせに、俺にそういう話をする時だけは、饒舌になる。そんなに俺を翻弄するのが楽しいのだろうか。


「読んだら人間が消えるなんて、そんな物騒な本、あるわけないでしょ」


 なんでもない振りをしていたが、俺の声は震えていたかもしれない。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ