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02 ホワイト令嬢との出会い

02 ホワイト令嬢との出会い


 レンプエスは火口に落ちていったGの行く末を見もせず、近くに停めておいた馬車へと向かう。

 ひとりの人間を殺しておきながら、むしろせいせいしているような彼女に取り巻きたちはドン引きであった。


 しかしこの過激な就任パフォーマンスは、彼女への畏怖をさらに強めることとなる。


「さ……さすがレンプエス様! ゴミは焼却というわけざますね!

 役立たずには容赦ないところが痺れるざます! このザマーソルト、レンプエス様に一生ついていくざます!」


 レンプエスは今まで以上のおべんちゃらに包まれていた頃、Gは熱気に包まれていた。

 火口の奥底にあるマグマに向かって、針山のようにギザギザした崖を転がり落ちていく。


 Gはこの時もヒツジの着ぐるみを着ていたが、羊毛はすでにズタズタに引き裂かれ、血が滲んでいた。


 それでもGは手を伸ばして壁を掴もうとしていたが、首と手首は処刑台に固定されているのでままならない。

 いよいよ死を覚悟し、真っ逆さまに落ちていく。


 しかしGはマグマのすぐ上にあった岩棚に叩きつけられる。

 落下の衝撃で、処刑台は粉々に砕け散った。


 九死の一生、そしてようやく自由を得たものの、Gの身体はボロ雑巾同然。

 息をしようにも血で喉が塞がり、水もないのに溺れていた。


 Gは薄れゆく意識の中で、今度こそ本当に死を意識する。

 誰もいないはずの岩棚に人の気配を感じ、いよいよ死神のお迎えが来たのか思う。


 しかし彼を抱擁したのは『死』ではなかった。


「い……いきなりヒツジさんが落ちてくるだなんて……!? し……しっかりするのですわ!」


 Gを揺り動かしていたのは、金髪の少女。

 まるで自分が同じ目に遭っているかのように、悲痛な表情をしている。


 少女は「息が出来ないんですのね!?」と、なんのためらいもなくGに唇を寄せた。

 喉に詰まっていた血を吸い出し、ペッ、と吐き捨てる。


 それを何回か繰り返し、Gはようやく息を吹き返す。

 そしてGは、胸の奥底で燃え尽きていたロウソクに、ふたたび火が灯されたようなぬくもりを感じていた。


 ゆっくりと目を開けると、金髪の少女がGを抱きかかえたまま、治癒魔法を唱えている。

 そのあたたかな光に照らされた少女の顔に、Gは奇跡を見た。


「……迎えに来てくれたのは、天使だったようですね……」


「しゃべれるようになったんですのね? なら、もう大丈夫ですわ」


 ほうっ、と胸をなで下ろすように息を吐く少女。

 Gは数秒前まで死の淵にいたはずなのに、すでに起き上がれるまでに回復していた。


「ありがとうございます。天使に知り合いはいないと思っていたのですが……。

 あなたは、アクヤ・クレイ嬢様ですね?」


 Gが礼を言うと、少女は目をぱちくりさせる。


「わたしをご存じなんですの?」


「はい。ゲッツェラント城におられる方のお顔とお名前は、みなさん存じ上げております」


「そうなんですの? でもわたしには、こんなヒツジの知り合いはおりませんことよ?」


「わたくしはヒツジではなくて執事です。レンプエス様にお仕えしておりました」


「えっ? ということはあなたは聖執事(せいしつじ)なんですの?」


 ゲッツェラント城に勤めている男聖や女聖は、いわゆる王族に相当する。

 庶民に比べて裕福であり、執事やメイドなどの使用人を多く抱えた豪邸に住んでいる。


 ただしゲッツェラント城は、一般開放されているごくわずかなエリアを除き、庶民や使用人は立ち入ることができない決まりがある。

 しかし『聖執事』と呼ばれる執事だけは例外で、城内どのエリアでも主人の補佐をすることが許されていた。


 なお、就任するための試験はとても厳しく、聖執事はこの世界に数人しか存在していない。

 ゲッツェラント城でも聖執事を従えているのは、最高階級に属する女聖だけであった。


 Gは立ち上がり、うやうやしく一礼する。

 なりはヒツジの着ぐるみだったが、その洗練された仕草は間違いなく聖執事のものであった。


「はい、わたくしはレンプエス様の聖執事だったのですが、数刻前にお暇をいただきました。

 ところで、アクヤ様はなぜこのような場所におられるのですか?」


 Gは尋ねながら岩棚を見渡す。

 そこは広々とした空間で、奥の風穴から出入りできるようであった。


 そして床には巨大な羊皮紙が広げられており、その傍らには引き綱をされた子ヤギが繋がれている。

 敷物のような羊皮紙の上には、魔法陣が描かれていた。

 それだけで、Gは事情を察する。


「悪魔召喚の魔法陣に、子ヤギ……。アクヤ様は、魔界から悪魔を呼び出すおつもりだったのですね」


 アクヤは恥ずかしそうに目をそらす。


「……さすがは聖執事だけあって、ひと目でわかるのですね。その通りですわ」


「悪魔召喚はゲッツェラントでは極刑となるほどの重罪です。

 よろしければ、そのワケをお聞かせ願えませんか?」


 アクヤ・クレイは、この城いちばんの美貌と呼ばれるレンプエスに劣らぬ容姿をしている。


 金髪の長い髪を赤いリボンでツインテールに結い、顔立ちはクールビューティー。

 レンプエスは冷たいばかりの印象であったが、アクヤはその中にも不思議な温かみを感じさせる。


 愛用の深紅のドレスはやや時代遅れの古風なものであったが、とてもよく似合っていた。

 その美貌とドレスから、『赤きバラの女王』という二つ名がある。


 彼女はその呼び名のせいで、『白きバラの女王』と呼ばれるレンプエスとは何かと比較される立場にあった。

 そのせいでレンプエスたちの取り巻きからは嫌がらせにあい、ありもしない悪い噂を流されていた。


「他人のミスはわたしのせいにされ、悪事はすべてわたしがやったことにされ……。

 そしてわたしは悪の権化のような扱いを受けるようになりましたわ……。

 しかも前回の神事で、わたしが小王(しょうおう)にランクダウンしてしまったことで……。

 この王都には、わたしの味方は誰ひとりとしていなくなってしまいましたの……」


 女聖には、12段階の階級が存在する。

 その階級の変動を発表するのが『神事』、いわゆる人事発令のことである。


 階級は、最高位が『女神(じょしん)級』で、最下位が『小王(しょうおう)級』。

 女聖は敬われる存在だが、最下位の小王級は、ほぼ一般市民と変わらない扱いを受けてしまう。


 Gは事情を察し、「なるほど」と頷く。


「それで何もかも嫌になって、悪魔に魂を売って願いを叶えてもらおうとしたのですね」


 アクヤは「ええ、その通りですわ」と立ち上がり、繋いでいる子ヤギのほうに向かう。

 しゃがみこんで、子ヤギを撫でていた。


「でも、儀式は迷信だったようですわ。魔法陣を描いて祈りを捧げても、なにも起りませんでしたから。

 まあ、迷信で良かったのですわ。生贄として買ったこの子にも、なぜか懐かれてしまいましたし……」


 子ヤギは嬉しそう「メェ~」と鳴くと、アクヤの頬をペロペロと舐めはじめる。

 それだけで、Gはアクヤの人となりがわかったような気がした。


 Gは魔法陣の一箇所を指さして言う。


「アクヤ様の描かれた魔法陣は、そこの表記が間違っていますね。これでは、悪魔は呼び出せませんよ。

 間違った魔法陣を残すのは縁起が良くないとされていますから、直してしまいましょう」


 Gは破けた着ぐるみの懐に手を突っ込むと、もぞもぞやって羽根ペンを取り出す。

 間違っている箇所にしゃがみこみ、サラサラとペンを走らせていた。


 途端、魔法陣は紫色の光を放ち、呼応するようにマグマが大いに沸き立つ。

 やがて魔法陣の中心から、ヒツジのツノを生やした異形の巨人の顔が現われる。


 アクヤは度肝を抜かれ「ひいっ!?」と腰を抜かしていた。


「まっ……まままっ、まさか、本当に悪魔を呼び出すだなんて……!?

 あなた……いったい何者なんですの!?」

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