8 佳澄の絶望
ちちち・・・・・・と表から鳥の声がして、佳澄は我に返った。
窓から朝の光が差している。
眠ってはいなかったと思う。
ただ、泣きすぎて、何もかもよくわからない。
魔道士が鎖で捕らえた阿津麻を連れて出て行って、何時間が経っただろう。
魔道士は、阿津麻は変化熊なのだと言った。
変化熊は殺すのだ、と言った。
阿津麻が変化熊だなんて、そんなことはありえないと佳澄は思う。
けれど魔道士は聞く耳を持たなかった。
もしかしたら途中でちがうと気づくかもしれない、そう思ったけれど、もしも気づいたら、阿津麻を連れて家に戻ってくるはずだ。
阿津麻は強い。
普通なら、あんな小さい男に負けるはずなんてない。
なのに、あんな魔術を使うなんて卑怯だ。
阿津麻はあの魔道士に、手も足も出なかった。
あの男は阿津麻より強い。
阿津麻は勝てない。
そのまま、阿津麻は殺されるしかない。
阿津麻はもう、殺されてしまったのだろうか。
阿津麻はもう、この世にいないのだろうか。
もう、二度と帰っては来ないのだろうか。
もう、二度と会えないのだろうか。
部屋の中に座り込んだまま、佳澄は窓の外を見た。
明るい光の差す庭で、小鳥が数羽跳ねている。緑がきらきら輝いている。
阿津麻がいないのに。
なのにどうして朝が来て、当たり前のように世界が明るくなって、小鳥はあんなに楽しげなのだろう。
どろり、と何か黒くて重い塊が喉から胸に滑り落ちるような感じがする。
自分の身体は真っ黒いものでいっぱいなようで、なのに世界は変に明るくて耐えられない。
こんなところに一人残されるのは、耐えられない。
佳澄はゆらりと立ち上がると、フラフラと台所へと向かった。
棚の扉を開けて、包丁を取り出した。