Ⅲ
「余計な雑念無く聞いていたとおっしゃるんですね。今私は炎の国の説明をしておりましたが、どうして貴方様の髪の毛は黒色なんでしょうね。魔法学の授業であって、実践の授業ではないのですが。」
(……まじか。)
黒がかっこいいとは思ったけど、黒になれ、とは言ってなじゃんか。
素直かよ俺…安直すぎるだろ。
がっくりと肩を落とす。
「アイザック様は王の血筋をひかれる形で魔力が強力な分、想像したものをすぐに生み出すことが出来るので…きっちりと制御できるよう、実践の教師に伝えておきますからね。」
今度はがっくりどころじゃない。
実践担当もめちゃくちゃ怖いんだってば…。
カサンドラとはまた別の、ガツガツくるタイプ。
終わったじゃん明日の俺。
そこからは余計なことを考える暇もないくらい(スピードアップした気がする)カサンドラの授業を頭に叩き込んで、1時間を終えた。
「お疲れ様でした。」
授業終わり、荷物を片付けるカサンドラに声をかける。
「この後、…行くのか?」
「いえ。今日の私の授業の予定はアイザック様で最後ですわ。」
「そうか。……。」
この国には秘密がある。
幻影の国少人数の、本当に限られた人間しかしらない秘密が。
俺とカサンドラはその極少ない人間で、あとは国王である親父と妃であるおふくろ、その二人が信頼をおける数人のみに明かされている秘密。
「………………。」
「………………。」
口にすることを禁じられる程の、秘密。
この部屋は俺の勉強部屋で、一応私室扱いになってるから警備もいるし防音防護の魔法ももちろんかかっているけれど、それでも易々と口に出せるものでは決してない。
「次のアイザック様の面会は、当分先の予定です。くれぐれも、妙な、お考えは、おやめ下さいね?」
「…………………はい。」
俺がとことん単純な奴なのか、カサンドラが最強の魔法使いなのか。
俺は後者だと最近よく考える。
(何があっても敵に回すべきじゃないな。)
カサンドラが荷物をまとめ終わって部屋を出て行った後、窓の閉まりきった部屋の中で、ひゅ、と小さな風のようなものが吹いた気がした。
(……さっき言われたばっかりなのに。まあ、カサンドラがいなくなったあとでよかった…危ない。)