Ⅴ
移動しようと身体に力を入れた瞬間。
『アイリス様。』
急に名前を呼ばれた。
「っ!」
「ーーーーー誰かいるの。」
驚いて周りの木々にあたり、ガサッと音を立てた。
その直後、想像していたよりも澄みきっていて美しい、開いた瞳が私を貫いていた。
ば、れた…?
いや、魔法は、……とけてない。
『お食事こちらに置いて置かせて頂きます。』
『ありがとうございます。』
(いつもの部屋に置いてきた分身に、話しかけてる声ってこっちにまで聞こえてくるシステムなの。そんなの今の今まで知らなかったよ…!)
びっくりしたけど風の魔法は継続できてるっていう自分のメンタルの強さに感心しながらも、まるで見えてるんじゃないかと疑いたくなるくらい私の瞳を的確に射てくる目の前にいる男の人。
(見えてないなら、逃げるが勝ち…!)
ぐっと全身に力を込める。
木の重なったところにいるから多少風で揺れて音がなるのは承知の上で逃げ出すようにその場から飛び去った。
(大変なことになったっ、)
ばくばくと、どこでこんなに大きな音を立ててるんだ、と言いたくなるような心臓を抱えて私は一目散に逃げ出した。
さらりとふいた風に、少しだけ、キラキラと木々の間が煌めいた気がした。
「…あの魔法。」
ザックと別れた場所に急いで戻ると、そこには何やら話し合いをするザックと同じ髪色をした人たち。
その中には、ザックもいた。
(やっぱり終わってたんだ。)
私は上空から観察をしながら、一人の護衛の人が台車に乗せて運ぶ荷物の中に見慣れたザックの鞄を見つけた。
私が入ってきたところが空いてる。
…今のうちに入っておこう。
するりと入り込むと、静かに内側から鞄をしめた。




