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4月9日:意外な伏兵

 案の定、色塗りには失敗した。

 自分なりに丁寧にやっていたんだが、絵の具が跳ねて染みを作って終わった。

 後はもう酷い物で、染みやはみ出た所を何とか修正しようとしては、反って傷口を広げていき、ますます凹んでまた失敗するという負のスパイラル。

 まったく、仁科から絵の具を借りてなきゃ、破り捨てているところだ。

 しかも時間だけは無駄にくって、結局寝る暇も無かったし。

 あてつけに提出してやったが、ろくな評価はもらえんだろう。

 まあ、来週も今日の続きらしいから、来週は堂々とサボれるが。

 しかしブルーだ……。

 さらし者にされたのだから、当然だろう?

 仁科にはかける言葉も無いって顔をされ、あの杉坂にすら「本当に苦手なんだ…」と同情される始末。

 こんな時は一人で屋上にでも行って黄昏るか……。

 そう思いつつ俺が向ったのは一階の購買だった。

 昼食は買ってあるが、ドリンクを買いに来たのだ。

 自販機前の列に並びながら、修羅場と化した購買の喧騒を冷ややかに眺める。

 『早い者勝ち』というルールの元、我先にとパンに群がる普段は“品行方正”が売りな優等生達。

 そして、この惨状を知りながら、業者の管轄を理由に放置している教師達。

 どっちも人間性を疑わざるをえない。

 いや、確かに他人を押し退けてでも自分の利益を追求するその姿勢は、ある意味優等生らしいとも言えるし、放置しているのも、きっと生徒達が将来バーゲンセールとかでも勝てる様に、世間の荒波を教えようという教師の深謀遠慮なのだろう。

 まったく反吐が出る。

 いっぺん、見せしめに全員薙ぎ倒していって、本当の地獄絵図にしてやろうか?

 ついそんな考えが脳裏に浮かんでくるので、購買を利用するのをやめて久しい。

 本当に学校って所は、どうしてこう精神安定上良くないのかねえ……。


 

 

 自販機でカフェ・オ・レを購入後、鞄の中の昼食を取りに一度教室に戻ると、非常に面倒な奴が来ていた。

 「あ〜、オ〜キくん、ヤッホ〜!」

 マズイッ!と回れ右をするも時すでに遅く、それまで仁科達と話していた眼鏡をかけた小柄な少女が、まるで飼い主の帰宅を出迎える小型犬の如き嗅覚と俊敏さで寄ってくる。

 彼女の名は『門倉かどくら 実里みのり』 

 聞き込み、記事の執筆から、有事の際の実況アナウンスまでこなす報道部のエースにして、この学園のありとあらゆる情報を握る最も危険な女だ。

 そしてまた、中学からの腐れ縁でもある。

 「生憎と、ネタならないぞ」

 「それならぁ、もう仁科さんから教えてもらったよぉ」

 舌ッ足らずなアニメ声で、ニヤニヤしながら意味有り気な事を言って餌をまいてくる。

 まあいい。あえて食いついてやろう。

 「はっ?」

 「『俺の見ている世界は灰色なんだ! by光坂高校番長 川上央己』“今週の名言”はぁ、これで決まりだよぉ」

 今さっきノリで言った台詞をすでに知っているとは、つくづく恐ろしい女である。

 他でもなく、この女こそ俺を“番長”として広めた張本人なのだ。

 ちなみに“今週の名言”とは、毎週報道部が発行している校内新聞の名物コーナーで、生徒や教師の名言珍言を取り上げる物なのだが、その七割以上が俺の発言とか訳の解らない事になっている。

 「却下」

 「え〜、何で〜?番長としての孤高な感じとかぁ、男の悲哀が出てて格好好いのにぃ」

 横を通り抜けながらつれない態度をとるも、すぐ後ろをちょこちょことついてくる。

 男の美学を解するのは善いが、それをネタにされてはたまらない。

 「だから俺をネタにするなと、いつも言ってるだろ」

 「それはしょうがないよぉ。オ〜キくんより面白い人ってぇ、なかなか居ないもん」

 「つまらない人間ばかりだって事は認めるが、さらし物は御免だ」

 「偉そうに。たんにアンタが変人なだけじゃない」

 また俺の席を占領している杉坂が、待ち構えて居たかの様につっこんできた。

 「人の事を売っておいてその言い草か」

 「ごめんなさい。つい…」

 謝りながらも仁科はクスクス笑ってるし。

 お前がそんな風に笑ってると、「まあ、いいか」って気になってしまうじゃないか。

 てか、さっきも楽しそうに話していたが、仁科と門倉も知り合いだったのか?

 「オ〜キくんの台詞が使えないとぉ、また今週みたく校長先生か会長さんの新入生へのコメントとかになっちゃうよぉ?」

 「それでいいだろ?」

 「え〜、つまんないよぉ。今週の新聞イマイチだって評判悪かったしぃ」

 新年度特集号として校長の言葉と春季大会の結果を載せた物だったが、確かに無難過ぎて面白みには欠けていた。

 「そんなモンだろ?校内新聞なんて…」

 「そんな事ないよぉ。それにオ〜キくんのファンの子って結構いるんだよぉ」

 「おい、川上。ちょっと面貸……」

 いきなり教室に入ってくるなり、チンピラ風に声をかけようとしてきた金髪の男が、俺の置かれている状況を見てフリーズした。

 春原先輩だ。

 多分今の門倉の台詞を聞いて誤解をしたんだろう。

 ドアの外を見ると岡崎さんも来ていたので、とりあえずそちらに頭を下げておく。

 「どうも、春原さん。何すか?」

 「……面、貸してもらえませんか?」

 動き出した先輩は何故か敬語だった。

 まあ、丁度いいか。

 門倉から早々に退散したかった俺は、渡りに船と鞄をとって歩き出す。

 「あっ、オ〜キくん、記事はぁ?」

 「好きにしろ。でも、番長は無しだ」

 「は〜い。ありがと〜」

 ああっ、俺もつくづく甘いな……。

 嬉しそうに手を振る門倉に見送られながら、俺は春原さんと教室を後にした。




 「クックックッ、ここで会ったが百年ぶりだな」

 人気の無い特別教室棟につくと、不敵な笑みとともに春原さんは前口上を述べ始めた。

 どうやらこの人とは前世からの因縁があるらしい。

 とても嫌な因縁だ……。

 「お前いくつだよ?てか、ここで会ったも何も、お前が連れてきたんだからな」

 さすが岡崎さん、早いツッコミだ。

 しかし春原さんは、それを無視して口上を続ける。

 「お前さあ、最近チョーシにのってんじゃないの?」

 「それ程でもないだろ?俺らにも一応敬語だし」

 「さっきも女の子に囲まれてたし」

 「それはたんにお前が羨ましいだけだろ」

 「そもそも先輩の僕らを差し置いて、勝手に番長を名乗るって、どういう事ですかね?」

 「いや、俺は別にそんなモンに興味ねえし。あと、お前が敬語になってるからな」

 「岡崎、話の足折るなよ!」

 「足なら折ってもよくね?」

 「よくねえよ!話が先に進まないだろ!」

 なるほど。こじ付けだろうが意味は通じる。

 「とにかく、川上、学園最強の座をかけて僕と勝負しろ!そして僕が勝ったら、今日から僕が番長だ!」

 「いいですよ」

 「何ぃ!?」

 あっさり承諾すると、何故かひどく驚かれた。

 しかしすぐに体裁を取り繕うと、髪を掻き揚げる仕草で気取って見せる。

 「フッ、面白い。この僕と戦うと言うんですね」

 「戦えと言ったのはお前だからな」

 「ああ、いや、今のは春原さんが番長でいいですよって意味です」

 「「へっ・・・・・・!?」」

 俺の言葉がそんなに意外だったのか、これには岡崎さんも少し驚いているようだった。

 「い、いいの?」

 「ええ。別に周りが勝手に言い出しただけなので・・・。先輩がやりたいならどうぞ」

 元々、俺を番長と言い出したのは、宮沢のダチ達だった。

 それで、宮沢までがたまにそう呼ぶようになり、それをうっかり門倉の前で口を滑らせ、あのメガネっ子が記事にしやがったのだ。

 別に番長への拘りも未練も無い。

 春原さんは脳の処理速度が追いついていないのか、暫く神妙な顔をして長考に入っていたが、

 「クックックッ・・・ハーッハッハッハッ!!やったぞ!!今日から僕が番長だ!!これで杏やラグビー部の奴らにもデカイ顔させねえぜ!!」

 と、とても小さな野望を高らかに宣言した。

 しかし彼は知らない。

 番長になったところで、別に強くなる訳では無いことを・・・。

 「バカ、番長なんてやめとけよ」

 春原番長の首に腕を回し、たしなめながらも岡崎さんはニヤリとした。

 あの顔は、何か思いついたに違いない。

 「何でだよ!?これで僕は学園最強になったんだぞ!怖い物無しじゃないか!

 ははーん、さては岡崎、興味が無いとか言いつつ、本当は羨ましいんだろ?」

 「んな訳あるかよ。つうか、そもそもお前、免許持ってんのかよ?」

 「免許?何の?」

 「番長の免許に決まってるだろ」

 そう来ましたか!

 「えっ!そんなのあんの!?」

 「当たり前だろ?医者や教師になるのと同じように、番長になるのにも免許が要るんだよ」

 「そんなの聞いた事ねえよ」

 「数年前に法律で決まったんだよ。最近番長をほとんど見かけないのは、その為だ」

 「た、確かに・・・川上以外に番長なんて漫画でしか見たことがない」

 「昔は各校に一人は居たんですが、あまりにも番長の名に相応しくない輩が多くて、それで免許制になったんですよ」

 春原さんが信じ始めていたので、俺も悪ノリしてもっともらしい事を言ってみる。

 「そうなんだ。だが、あまりに試験が難しくて、受かるのは年に数人らしい」

 「ねっ、年に数人!?」

 「ああ。ある意味川上は、この学校の誰よりもエリートなんだ」

 「なっ、何ですってぇ!?確かに、僕よりチビなくせに妙な迫力が有る方ですねと思っていましたけど・・・・・・」

 余程驚いているのか、すっかりおかしな敬語になっていた。

 てか、言うほど身長差は無いですよ!!同じくらい…じゃないかな……?

 「試験てそんなに難しいの?」

 「ああ。まず面接な。どう見てもその筋の人にしか見えない強面のオッサン達が壁際にズラリと並んだ部屋で、親分の様な試験官とメンチを切りあいながら質問に答えていくんだ。当然、ビビッて目をそらしたり、おかしな受け答えをしたら即失格な」

 「うっ……」

 その状況を思い浮かべているのか、春原さんは渋い顔をして冷や汗を流していた。

 しかし、まだ完全に闘志は萎えていないらしく、更に続きを訊いて来る。

 「まっ、まあ、それはどうにかするとして…他にはどんな試験があんのさ?」

 「実技は当然あるわな。実戦形式の」

 「おっ!僕の得意なヤツだね!」

 得意!?

 「最初の内は受験者同士でやるんだが、3勝すると次はクマとかトラとか血に餓えた猛獣を相手に戦う事になる」

 「クッ、クマァッ!?……それって、食べられちゃいますよねえ?」

 「血に餓えてるからな」

 「死んじゃいますよねぇ!?」

 「心配するな!即死じゃなきゃ、ワンさんが中国四千年の秘術で治してくれる」

 「誰だよワンさんて!?」

 「まあ最初の面接の時に、『死んでも文句言いません』て書かれた紙にサインさせられますので、問題無いです」

 「こっちは問題有り過ぎだろ!!」

 「おいおい、番長目指す奴がクマぐらいでビビってんなよ。最後の相手はクマをも一撃で倒す達人だぜ」

 「クマ殺しぃ!?」

 誰もクマ殺しとは言って無いが、おそらくそう連想したのだろう。

 「そんなのどうやって倒すんだよ!?」

 「いや、さすがにコイツは一発でも当てれたら合格になる」

 「なんだ。それなら…」

 「オーラで生半可な攻撃は跳ね返されるけどな」

 「オーラ!?」

 「“氣”って、本当に飛ばしたり出来るんですよね」

 「氣!?それって波○拳みたいなやつですか!?」

 「いえ、むしろ○メハメ波に近かったですね」

 「ハメハメ波!?」

 何ですかその卑猥な響きの技は?いや、確かにそう憶えている奴は他にも居たけど。

 春原さんは目を瞑って再び長考に入った。

 諦めようか悩んでいるのだろうか?

 俺からすれば、こんな話を信じてる事が信じ難いのだが、岡崎さんは楽しそうだった。

 きっと毎日こんなアホな話をして、春原さんをからかっては暇を潰しているのだろう。

 少しだけ懐かしさと羨望を覚える。

 今の俺には、そこまで何の気兼ねもなくアホな事を言いあえるダチはいない。

 付き合いは長くとも、やはり秋生さんにはどうしたって気を使うし、今だって岡崎さんの話に合わせているだけだ。

 まあ、そこから背を向けたのは、俺の方なのだが……。

 「じゃ、じゃあ、その実技試験に受かれば合格出来んの?」

 そんなに番長になりたいのか、春原さんはまだやる気の様だ。

 「いや、まだ他にも試験の科目はあるぜ」

 「どんなの?」

 「それはだな……川上、お前の時はどうだったんだ?」

 無茶振りキターーー!!

 岡崎さん考えてなかったんかい……。

 「えっと、俺の時は実技の前に“男気”の試験がありましたね」

 俺は咄嗟に思いついた出任せで誤魔化す。

 「男気?何だ、僕の為に有る様な試験じゃん」

 えっと……そうなの?

 「で、何すんの?」

 「迫り来る暴走トラックから、子犬を助ける試験です」

 「えっ…!?ハッ、ハハ……何だそれくらいなら楽勝じゃん。轢かれる前に子犬拾えばいいんだろ?」

 「ええ。ただ、助ける物はクジ引きで決まるので、クマとかの場合もあります」

 「またクマ!?それってどうやって助けるんだよ!?」

 「担いで」

 「担いで!?クマ担げるかよ!てか、助ける前にクマにやられちまうよ!!」

 「もちろん、自分でクマを殺したら失格なので、巧く当身で気絶させて下さい」

 「そんな心配してねえよ!!」

 「まあ、俺の時は可愛いチャイナ服の女の子でしたけど」

 「えっ!?女の子の時もあんの!?」

 「はい。お姫様抱っこで助けたら、ほっぺにキスして貰えました」

 「お姫様抱っこでキス……」

 春原さんは息を荒くして鼻の穴を大きくしていた。

 自分がやっている場面を想像しているんだろう。

 鞭だけでは単調になるので、ここらで少し飴もあげておくのも必要だ。

 「お前、ラッキーだな」

 「ええ。俺が試験に受かれたのも、たまたま運が良かっただけですから……」

 岡崎さんの言葉に謙遜しつつ、さり気無く春原さんに期待を持たせる。

 狙い通り、希望の光を見出した春原さんに生気が戻った。

 でもこれは、あくまで次への布石だ。

 「他には試験あんの?」

 「えっと、次は“忍耐”の試験ですね」

 「「忍耐…?」」

 途端に二人の眉が寄った。やはりこの言葉は嫌いな様だ。

 「10分間座り続けていられれば合格です」

 「何それ?まさか正座してればいいとか?それなら、僕らは説教でもっと長い時間座らされた事があるもんね〜。なあ、岡崎」

 「俺の名前まで出すんじゃねえ!」

 恥ずかしい過去を友人に自慢気に語られ、岡崎さんはゲシッ!と尻を蹴り上げた。

 「何すんだよ!!割れたらどうするつもりだよ!?」

 「もう切れ痔にはなってるだろ」

 「なってねえよ!!なってたら今頃大惨事だよ!!」

 痔だけにですか。

 「別に正座でなくてもいいんですが、ただ数人がかりで“袋”にされます」

 「はい!?」

 得意気な表情が一変青ざめる。

 「何ですかそれは?」

 「やったじゃねえか!お前毎日ラグビー部とかにボコられてるし、一番得意だろ!」

 「毎日じゃなくて、たまにだよ!!つうか、得意じゃねえよ!!」

 たまにボコられてるんだ…。

 「ボコられる相手はクジ引きで決まります。当然、クマや達人もいますよ」

 「またかよ!!てか、抵抗出来ないんじゃ、今度こそ喰われちまうよ!!」

 「ああ、“眼で殺す”のはありなので、むしろ猛獣多いと楽ですね。奴ら自分より強いと思った相手には寄ってきませんから」

 「どんな眼力だよ!!」

 「ここまで来る奴は、それぐらい出来て当たり前のレベルって事か」

 「俺の時は、前の試験で助けた女の子でした」

 「Ohー!!プリチーガールモ居マシタカ!!」

 興奮し過ぎて片言になっていた。

 「お前どんだけラッキーなんだよ」

 「実はその子、暴走するトラックを蹴りで破壊する程の中国武術の達人でした」

 「トラックを蹴りで!?」

 「まあ、失敗して女の子が轢かれたらシャレにならんしな」

 「永遠とも思える10分間でした。百を超える蹴りを浴びせられ、特大の気功を食らい、さすがに何度も意識が飛びかけました」

 「あ…う……」

 やられている所を想像しているのか、何故か春原さんは呻き声をもらしていた。

 「耐え切った時には、『よく頑張ったな』てキスしてもらえましたけどね」

 「アンタやっぱラッキーボーイですね!!」

 「俺はそれでもやりたいとは思わねえけどな…」

 「でも、いくら達人と言っても所詮女の子じゃん。我慢出来ない事も無いと思うんだよね」

 「慣れてるしな」

 「慣れてねえよ!せいぜい毎日杏の投げた辞書や、美佐枝さんのプロレス技食らってるだけだよ!!」

 毎日食らう様な事してるのか…。

 「僕にもなれそうな気がしてきたよ。結構、運次第でどうにかなりそうじゃん」

 「コイツもう女の子の事しか憶えてねえな……」

 凄いな…自分に都合の悪い情報はすぐ忘れるのか…羨ましい…。

 しかし、まさかやる気になってしまうとは…女の子ネタは失敗だったか?

 このまま放っておくと後々面倒そうだし、奥の手を出そう。

 「後は、ペーパーテストに合格すれば、晴れて合格です」

 「ふうん、後はペーパーテストかあ…………今何て?」

 「一般常識の筆記試験ですよ。ウチの学校に入れるくらいの学力が有れば問題ないです」

 「うっ…………!!」

 まったく予想していなかったのか、春原さんが絶句する。

 彼は元々スポーツ推薦でウチに来ているし、勉強なんかしていないだろう。

 少々意地が悪いが仕方あるまい。

 「そうだな。仮にも番長が常識も知らないんじゃ、恥ずかしいからな」

 「……諦めます……」

 その言葉が聞けて、岡崎さんと二人内心ホッとする。

 番長目指して勉強するぜ!とか言われたら、もうバラすしかなかったからな。

 先輩がヘタレでいてくれて本当に助かった。

 「んじゃ、そろそろ俺はメシ喰いにいくわ。じゃあな川上、春原」

 「どうも」

 「じゃあな岡崎…って、僕を置いてくなよ!!」

 慌てて春原さんが、すでに歩き出した岡崎さんを追いかける。

 まったく、いいコンビだ……。

 二人の背中を微苦笑で見送って、俺は一人屋上へと向った。

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