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第二章 4月24日 実は重力使い!?

 繁華街には原色の光が溢れ、雑踏もスーツ姿ばかりが目立つ様になってきた。

 息がつまりそうな居心地の悪さを感じながら目印の建物を頼りに路地に入ると、途端に辺りは薄暗く人もまばらになる。

 脇道に入っただけで、まるで違う世界のようだ。

 その物寂しい世界の方が落ち着く自分を、ふっと鼻で笑う。

 「ここか……」

 目的地らしい店をみつけ、街灯の灯りを頼りにもう一度メモの切れはしを取り出し確認する。

 こんな所で客が来るのかと疑問に思ったが、だからこそたまり場には丁度良いんだろう。

 黙想……。

 目を閉じて、これから起こるであろうあらゆる事態を想定し……。

 最後にそれらを全て忘れて、俺は扉を開けた。

 「あんたが赤壁あかかべさんか?」

 店の一角を占領しているガラの悪そうな一団をみつけて、リーダー格らしき男に声をかける。

 炎の様に逆立てた赤い髪に尖がったサングラス。

 間違えようの無い風貌のこの男は名は『赤壁』。“この町の底辺”“不良率120%”などと揶揄されるこの町の工業高校の実力者の一人だ。

 あそこは不良が多いだけに一つにまとまっておらず、いくつかの派閥が出来ており、こいつはその中の一つのトップと言うわけだ。

 「何だぁテメエは?あん!?」

 ジロリと一睨みしただけの男の代わりに、手前に座っていたデカイ角刈りが立ち上がり威圧してくる。

 しかし俺は一瞥くれただけで、真っ直ぐリーダーを見据えて名乗った。

 「光坂の川上だ。須藤から話は聞いてないか?」

 「ああ、テメエが川上か……思ってたより小せえから、わかんなかったよ」

 グラスの中身を飲みながら言った赤壁の軽口に、どっと下卑た笑いが起こる。

 「まあ、よく言われるよ。聞いてるなら話は早い。今後はウチの生徒、特に坂上との揉め事は無しにしてもらいたい」

 それを一笑で受け流し、俺は単刀直入に用件を切り出した。

 とたんに笑いが止み、再び敵意しかない視線を集める。

 「何勝手な事ほざいてんだコラ!」

 「さ、坂上だぁ!?あんな女眼中にねえんだよ!」

 「ちょっと勉強が出来るからって、工業高校なめてんじゃねえぞ!?」

 しかし、凄みながらも皆一様にその額には冷や汗が滲んでいた。

 やはりまだ、俺より『坂上』の名の方がはるかに効き目があるのか……。

 その事に対する複雑な思いを込め、しみじみと諭す様に言う。

 「この中には、あいつと何かしらの因縁がある奴も居るとは思う。でも、そいつは水に流してもらいたい。ウチにはあんたらと揉める気は無いんだ。もちろん坂上にもな」

 「水に流せだと?俺達が坂上にどんな目に遭わされたかわかってんのかよ!?」

 「そんな与太話、信じると思ってんのか?この前も坂上がバイクに乗った奴等をボコッたって聞いたぞ?大体、テメエだって宮沢のトコとやりあってんじゃねえか」

 「ああ。だからなんだ?」

 奴等の負け犬根性が露呈したのを見て、俺はここが勝負所と視線に力をこめ声を低くして居直る。

 「やりあう気は無くとも、ウチにちょっかい出す奴等は当然潰に決まってるだろ?宮沢のトコとの経緯は、須藤から聞いてねえのか?」

 「し、知るかよ……ただ、テメエがあいつらとやりあったとしか……」

 「なら、あいつらに言った事と同じ事を言ってやる……坂上智代と戦いたいなら……この俺を倒してからにしろ!」

 



 


 4月24日(木)

 

 バイトが無いと朝は随分余裕が有る。

 夜は9時くらいに寝て、朝は5時くらいに起き、外で軽く汗を流す。

 おおっ、凄まじく健康的だ!

 あまりに健康的なので、余った時間を布団に寝っ転がりながらゲームをして過ごす。

 まあ、こうしてのんびり出来るのも、今週いっぱいだからな……。

 来週からまたバイトが始まる事を考えると、気が重くて溜息が洩れる。

 しかしまあ、ここ最近入院費とかで出費がかさんでるから、稼がない訳にもいかない。

 ああっ……どうして俺の家は大地主とか大財閥とか石油王じゃねえんだろ……?

 「おはよう、オーキ!あっ……さだぞ……」

 「……」

 いつもの様にノックも無く元気にドアを開けて顔を出した少女は、寝転がる俺と目が合うなり何故か表情を曇らせる。

 「なんだ……起きてたのか」

 「起きてちゃ悪いのかよ……」

 「そう言う訳ではないが、お前の寝顔はなかなか可愛いからな。どうせなら見たかったんだ」

 智代は相変わらず勝手な事を言いながら勝手に入ってきて、寝ている俺を他所に立てかけてあるテーブルを組み立て始めた。

 短い制服のスカートがヒラヒラとゆれ、眩しい太ももが男の邪心をくすぐる。

 しかし、今の体勢からはどんなに首を引いたり捻ったりしても肝心な物が見えそうで見えない。

 クソッ……チラリズムとは智代のくせに生意気だぞ!

 「スケベ」

 そして、白眼と侮蔑と共にドンと目の前にテーブルが置かれた。

 「黒」

 「白だ!って、乙女に何を言わせるんだお前は!?」

 「見えてないから安心しろって事だよ」

 「そもそも女の子のスカートの中を覗こうとするな!どうしてお前はそうHなんだ?」

 「エロイ男が嫌なら来るなよ!てか、何で来てんだ?今日から選挙が始まるんじゃないのか?」

 「そんな言い方はないだろ?今日の昼休みに説明会があるんだ。それで明日の朝に立候補者の告知がされるから、本格的な選挙活動は明日からだな」

 「あのな……」

 今日の朝からじゃないのかよ!

 いや、まあ、色々あった事もありスケジュールを把握してなかった俺も迂闊だったのだが……。

 「だから、朝一緒に登校出来るのも今日までかもしれないんだ……今日ぐらいいいだろ?」

 「なら、パンツくらい見せろ」

 「どうしてお前は……そんなに女心がわからないんだあぁぁぁっ!!」

 「うおっ!!」

 俺の冗談を間に受けたのか、智代は怒りの咆哮と共に跳んだかと思うと、寝ている俺の顔面めがけ蹴りを放ってきた。

 智代の固有スキル“グラビティージャンプ”発動!!

 ドッシーン!!

 ギリギリ転がって避けた所にハイソックスの足が踏み下ろされ、布団が足型にめり込み衝撃でビリビリと一軒家が揺れる。

 布団の上からこの威力……食らってたらやばかった。

 「何すんだ!?」

 「そんなにパンツが見たいなら見せてやる!だから避けるな!」

 なるほど!って、完全にブチ切れてやがる。

 どうする?

 あの蹴りを力の逃げ場の無い寝ている状態で受ければ、マジで死にかねない。

 まさにデス・オア・グローリー。

 いや、デス・オア・パンツ。

 などとアホな事を考えている間に、再び智代は宙を舞う。

 ベキッ!!

 「グッ!?」

 鈍い音が鳴った。

 咄嗟に両腕をクロスして蹴りを受けた物の、その衝撃で右手のギプスが粉々に砕けたのだ。

 それでも凄まじい衝撃が俺の身体を貫く。

 まったく、なんつう破壊力だよ!

 てか、病院行ったら怒られるんじゃないかコレ?

 そう思いながら見上げると、智代は呆然としたまま固まっていて。

 確かに白だった。

 「ちょっとオーキ!何ドタバタしてるの!?」

 ドンドンと扉が叩く母の苦情で互いに我に返り、智代は後ろに跳び、俺は転がって離れる。

 そりゃ、あんだけ家が揺れれば、お袋も来るわな。

 「何でもねえよ!ゲームしてただけだ」

 「ゲームしてて家が揺れる訳無いでしょ!!坂上さんの声も聞こえたけど、あんた何かしたんじゃないでしょうね!?」

 「ウィーだよウィー!!体動かす奴あるだろ?ゲームで興奮しただけだって。わかったから、行けよ!」

 「……時間もそんなに無いんだし、早くゲームは切り上げて学校に行きなさいよ」

 何とかお袋を撃退して、階段を下りていく音にほっと一息つく。

 するといつの間にか寄ってきていた智代に、すっと右手を取られた。

 「すまない!!お前は怪我人なのに、つい本気で蹴ってしまった……頭に血が上って、見境が無くなってたんだ……どうしよう?怪我を悪化させてしまったかもしれない……うわぁぁぁ!!私は何て事をしてしまったんだぁぁぁ!!」

 「大声だすなって!」

 包帯の巻かれた俺の右手を抱きしめ取り乱し始めた智代の口を、慌てて左手で塞ぐ。

 お袋が戻ってきたらどうすんだよ!

 何気に右手がとても気持ちよかったが、それ所では無い。

 「大丈夫だ。ギプスが壊れただけだから」

 そして外の気配を探りお袋が来ない事にほっとすると、不安気にみつめる智代をなだめながら手を放す。

 「でも、ベキッって凄い音がしていたじゃないか……本当に大丈夫なのか?」

 「大丈夫だって……ほら」

 俺は智代の胸に押し当てられていた手の指をわきわきと動かしてみせた。

 「あっ!こらっ!何処を触ってるんだ!」

 「元々大袈裟にギプスさせられただけだからな。別に何ともない」

 それで惜しくも開放されてしまった手をそのまま彼女の目の前にかざし、改めてグーパーをして健在さをアピールしてから、用済みになった包帯を解きにかかる。

 「いいのか?包帯を取ってしまって」

 「いいだろ?もう意味ねえし。あ、ゴミ箱取って」

 智代が取ってくれたゴミ箱の上で包帯を解いて、改めてまっさらになった右手を智代に見せた。

 それでようやく安心したのか、智代の顔に笑顔が戻る。

 「じゃ、さっさと食って行くか」

 「うん」

 そうして、俺はようやくテーブルについたのだが、そこでギョッとなる。

 恐らく先程衝撃による物だろう。味噌汁やおかずがこぼれ、ご飯茶碗が倒れていた。

 改めてその破壊力にゾッとしながらも、まあ仕方無いかと箸を取った俺の手と、横から伸ばされた智代の手が何故か重なる。

 「……何だよ?」

 「お前は手が不自由で箸が使えないだろ?私が食べさせてやろう」

 「いや、もう右手普通に使えるし」

 「あっ……しまった!折角、食べさせてやろうと思って箸にしたのに……!」

 うわ……そんな魂胆かよ……!

 明らかな自爆によって策が破れ、少女が両手をついて落ち込んでいる隙に、俺は飯をかきこんだ。

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