4月14日結成!?二年生コミュ
「おい、まさかお前が呼んだのか?」
いくら何でも一度に集まり過ぎだと思った俺は、宮沢に耳打ちする様に訊いた。
しかし宮沢は苦笑しながら首を振る。
「私も少々驚いています。ここ最近は皆さん色々とお忙しいみたいで、あまりこちらには来られなかったんですけど……」
だから今日に限ってこんなに重なったってか?
んなアホな……。
無言で疑惑の視線を送ってみる。
「テメエ、川上!ゆきねぇに何してやがる!?」
「ゆきねぇから離れろ!!」
だがそれも目ざとい奴らのおかげで水を注されてしまった。
そして代わりに、
「……何をしていたんだお前は?」
今度は俺が智代から疑惑の視線を受ける羽目に。
まったく、どいつもこいつも……そんなに俺は信用ならんかね。
「別に話してただけだ……それより、とりあえず座って落ち着こう。な?」
「他校の侵入者が目の前に居るのに、落ち着いてなど居られるか!」
「まあまあ、こいつらは俺の手下だと言ってるだろ?」
「誰がてめえの手下だ!!」
「あっ、コラ!わかったから押すな!」
俺は智代の肩を叩いてなだめながら背後に回ると、騒ぐ雑魚共を軽く無視して半ば強引に背中を押して中央に置かれたテーブルのイスの一つに座らせた。
それに倣う様に門倉は智代の右隣に、宮沢は智代の真向かいにそれぞれ席に着いたので、俺も手近な智代の左隣に陣取る。
「誰がお前達まで腰を落ち着けていいと言った!?」
「あん!?」
だが、ちゃっかり野郎共が宮沢の隣に座ろうとしたのを見咎めた智代は、すぐにまた立ち上がってギロリと敵意に満ちた視線で威嚇しだす。
男達もイスを引いた手を止めて身構え、踏ん反り返りながら、あるいは猫背のまま首を傾け眉を波線にして凄みを利かせ智代を睨みつける。
再び張り詰める空気。
一触触発。
多勢に無勢。
如何にもな厳つい男達vs可憐なヒロイン。
絵になる構図ではあるが、収集がつかないので放ってもおけない。
「何でテメエに指図されなきゃなんねえんだよ!?」
「お前達は部外者の侵入者で、私はここの生徒だ!」
「だから落ち着けっての」
「お前はスカートをめくろうとするな!!」
何気無く手近にあったミニスカートの裾を軽く引っ張って座るように促すと、何を勘違いしたかそんな事を言われてしまった。
って、ちょっと待て!
今は宮沢や門倉も居るんだぞ!
「めくってねえだろ!」
「“今はまだ”だろ?どうせお前の事だ。何だかんだと理由をつけてめくるつもりだったんだろ?お前はすぐ私のパンツを見ようとするからな」
最初は白眼を向けておきながら、しかし最後は“お前のやる事はお見通しだ”とでも言うかの様に誇らしげにぶっちゃけやがった!
二人に誤解されぬ内に否定しておこうとしたのだが……トラップカードかよ!!
クッ、いや、落ち着け!動揺したら負けだ!!
ここは何くだらない事言ってんだ的に流すべきだろう。
「アホな事言ってないで、いいからすわ……」
「智代ちゃん!その話、詳しく聞かせてぇ!」
だがしかし、俺のスルー作戦は、ペンとメモ帳を手にその大きな眼鏡の奥の大きな瞳をギラギラに輝かせながら勢い良く立ち上がった門倉によって遮られ失敗に終わった。
てか、最悪だ!!一番聞かれてはマズイ奴に!!
「ああ。聞いてくれみのり」
「聞いてくれじゃねえ!お前も食いつくな!!」
「え~!だって気になるよぉ。ねえ?有紀寧ちゃん」
「そうですね。私も少し興味があります」
「ミヤザワ、オマエモカ!!」
いつもの舌っ足らずな甘え声で話を引っ掻き回す門倉に、いつもの善良そうな笑顔で乗ってくる宮沢。
やべえ……一人でも厄介な奴が三人同時に敵に……。
「つうかよ、お前等デキてんのか?」
更に、俺達がすったもんだしている間にちゃっかり椅子に座っていやがった、宮沢の友人の中でも一際大柄な男、田嶋が、何とも間の悪い事を訊いてくる。
「デキてる訳ないだろ!!」
だがそれには、肩を怒らせた智代が真っ先に否定してくれた。
良かった……また妙な事を言い出すかと……。
「私達はまだ結婚もしていないし、そもそも高校生なんだ……赤ちゃんが出来てしまっていたら、大変じゃないか!!」
って、やっぱり言いやがった!!
その衝撃的な発言に、男達は沈黙する。
そして、
「ブッ!ワッハッハッハッハッハ!!中々面白れえ事を言うじゃねえか!!」
「ゲラゲラゲラ!!あの坂上が、赤ちゃんだってよ!!」
「ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!あー腹痛え~!!」
男の一人が噴出した瞬間、堰を切った様に巻き起こる大爆笑。
だが当然それは、巨大な火山を噴火させる呼び水にしかならない。
「お・ま・え・た・ち……」
大真面目に答えた物を笑われ、冗談の通じない智代は屈辱でわなわなと身体を震わせる。
その怒りはゴゴゴゴと大気をも震わせ、暗雲が日光を遮り教室は急速に照度を落としていく。
最早、インドの暗黒女神カーリーが如く、全ての敵を屠るまでその怒りは解ける事は無い。
……かに思われた。が、
「でしょう?智代ちゃんはぁ、とっても面白くて、素敵な女の子なんだよ~」
今まさに智代の怒りが沸点を超えようかとした瞬間、横から門倉が緊張感の無い声でそんな事を言いながら抱きつき、文字通り水を注さしてくれた。
ナイスだ門倉!
「み、みのり……」
「それでぇ、オーキ君とはぁ、もう赤ちゃんが出来る様な事しちゃったのかな?」
ドサクサに何を訊いてやがる!?
「だ、だから、そんな事まではしていない……そもそも、私達はまだ出会って間も無いんだぞ?いくらなんでも、それは早すぎるだろ……」
「そんな事は無いと思うよぉ?出会ったその日にぃ、あげちゃったって子もいるしぃ」
「「「あ、あげちゃった!?」」」
智代と共に驚きの声を上げたのは、ガールズトークに聞き耳を立てていた野郎達だ。
見るとあからさまに興奮している奴、背けた顔やら耳やらが赤い奴がちらほらと居る。
普段はエロトークなんてしない程こいつ等は硬派なのか、それともやはり女の口から聞かされるのは格別刺激的なのか。
とにかく、そろそろ話を本題に移したい。
「てか、別に付き合ってる訳じゃねえし、俺達にはまずやらなきゃならねえ事が有るしな」
さらりとより大きな大義を掲げて、俺は健全さをアピールしつつ智代には自重を促す。
「何だよ?やらなきゃならねえ事って?」
「お前らにもいずれ分かる事だ」
「まさか、テメエと坂上でこの町をシメようってんじゃねえだろうな?」
「さてな……それより宮沢、こいつらの事説明してやれ」
男達の挑発を歯牙にもかけず、俺は宮沢に話を振った。
これでようやく話が進むだろう。
「はい。坂上さん。この方達は、私のお友達なんです」
「お前の……?こいつらはどう見ても不良じゃないか」
「なんだと!?」
素直過ぎる智代の反応に、またも男共がいきり立つ。
そう言いたい気持ちは解るが、もう少し空気読んで欲しい。
「それとも、普通そうに見えるが、実はお前も不良なのか?」
「えっと……」
「有紀寧ちゃんはとっても良い子だし、成績もかなり良い方だよ。この教室も、資料室の管理人さんとして先生から特別に任されてるの」
答えに困る宮沢の代わりに、すかさず門倉が助け舟を出す。
こいつは本当に気の利く女だ。
「……つまり、教師からも信頼されていると言う事か……なら、どうしてそんな奴がこんな不良共と友達なんだ?実は脅されているだけじゃないのか?」
「ざけんなゴラ゛!!ゆきねぇにそんな事する訳ねえだろうが!!」
「俺等がゆきねぇとダチじゃ悪いのかよ!?」
「いちいちいきり立つなよ。お前も暫く黙って聞いてろ」
片手を突き出して男達を制止ながら、智代をたしなめる。
「しかしだな……」
「いいから!もし宮沢が脅されていたら、俺がそれを許す筈ねえだろ?」
「それは……そうか……」
「こいつ等は元々……宮沢の兄貴のダチなんだよ……な?」
「はい。そうなんです」
何とか智代をなだめつつ、一番最もらしいであろう事実を説明し宮沢に同意を求めた。
兄貴の事を持ち出す事は若干躊躇われたが、宮沢の表情に影の無い事を見て胸を撫で下ろす。
「……なるほど。私と会いたがっていたのも、そういう訳か……お前達が宮沢の友達だと言う事は解った。だが、いくら友達だからと言って、他校の生徒が勝手に校内に侵入していい訳が無いだろ!」
「俺は中退したから他校の生徒じゃねえぜ!!」
「部外者は部外者だ!!」
アホな揚げ足取りに、智代は逆鱗を逆立て一喝する。
ここは俺が話すべきか。
俺も立ち上がると、智代の背中を優しく叩いてなだめながら口を開く。
「もちろん俺も今まで散々注意してきたけど、こいつらいくら言っても来ちまうんだよ」
「だからって……お前はそれで納得出来るのか?大体、こんな事が教師にバレたら、ただでは済まないだろ?」
「俺等の中に、センコーに見つかるようなヘマする奴は居ねえんだよ!」
「黙れ!!もしそうなったら、処罰されるのは宮沢だと言ってるんだ!!」
智代の本気の一喝に、さすがの不良達も口を閉ざす。
それは俺も何度も言ってきたし、実際に一度あった事だ。
こいつらも流石にまったく考えた事が無い訳では無いだろう。
しかしそこで、当の本人がいつもの慈愛に満ちた微笑みを浮かべて台無しにしてくれた。
「ありがとう御座います坂上さん。でも、いいんです。私も、こうして皆さんが来てくれる事が、とても嬉しいんです」
「「「ゆ、ゆきねぇ!!」」」
聖母の如き御言葉に、涙を流しそうな勢いで感激する哀れな子羊共。
この娘は……いい筈なんて何も無いのだが……。
前に俺の知り合いって事にして切り抜けた事を忘れたんだろうか?
「……本当に校内で悪さをしたりしないのか?」
門倉に気勢を殺がれはした物の、全然まったく納得はしていないのだろう。不満一杯の顔で智代は俺の耳元に顔を近付け訊いて来る。
「ああ、多分な。教師だけでなく、他の生徒にも極力見つからない様にはしてるみたいだし」
「そうか……しかし、それでもやはりこんな事は善くは無いだろ?部外者を招くなんて、校則以前の問題じゃないか!」
「まあでもぉ、それ程悪い人達じゃないと思うよぉ」
「みのり!?」
何時の間にか俺達の背後に回り、間に割り込んできた門倉。
俺達二人にまったく気付かれる事無く背後を取るとは……相変わらず恐ろしい女だ。
「……お前は、あいつ等が怖くは無いのか?」
「ん~、まったく怖くないかって言えば嘘になるかな……でもぉ、ちょっと普通の人より不器用なだけだと思うよぉ」
「不器用って……不器用ならルールを守らなくていいと言う訳では無いだろ?」
「もちろん悪い事は悪いけど……でもぉ、世の中隠れてもっと悪い事をしている人なんていっぱい居るしぃ、優等生だからって、影でタバコ吸ったり、万引きしてる子は居るしね」
「なっ!……この学校の生徒にも、そういう事をやってる奴がいるのか!?」
「うん。誰とは言えないけどぉ、結構やってるらしいよぉ」
俺はそんな情報まで握っているお前が一番怖いわ!
「人は見かけや表面的な事だけじゃ本当の所は中々解らないし、それだけで判断しちゃったら、本質が見えなくなっちゃうって私は思うの。もちろん、不良さんの中にも本当に悪い人も居ると思うけどぉ、大体は真面目な良い子でいるのが巧く出来なかったり、照れ臭いだけじゃないかな?だから有紀寧ちゃんも、あの人達と一緒に居られるんだと思うよぉ」
「……そうか……」
門倉の言葉に感じる所があったのだろう。
ようやく智代は神妙になって奴等に対する敵意を収めた。
結局、宮沢ダチが居た所為で、大した話は出来ないまま俺達三人は資料室を後にする羽目に。
まあ、仕方あるまい。
ある意味別の難関がクリアー出来た訳だし、正式な仲間にするのはまたの機会でいいだろう。
「それじゃあ、私は部室に寄っていくねえ」
教室の片付けが有ると言う宮沢を残して資料室を出ると、門倉も忙しなく他に行こうとする。
「ああ……悪かったな。付き合わせちまって」
「なあ……みのり」
「ん?なあに?智代ちゃん」
「ひょっとして……お前も知っているのか……?昔の私の事を……」
どこか思い詰めた表情で智代は門倉に訊いた。
しかし門倉はあっけらかんと言ってのける。
「うん。智代ちゃんの事は昔から知ってたよぉ。気付いたのは、この前他校の人達がお礼参りに来た時だけどね」
「……そうか……」
何処か寂しそうに、何かを諦めたかの様に智代は呟く。
だが、それを見た門倉はにっこりと人懐っこい笑みを浮かべる。
「でも、さっきも言った様にぃ、私は智代ちゃんはとっても面白くて、凄く素敵な女の子だと思うよぉ。ねえオーキくん?」
「そうだな。確かに面白え奴だ」
「ムッ、素敵はどうしたんだ?お前はそう思ってくれて無いのか?」
「面白いは褒め言葉だと何度も言ってるだろ?」
「それはもう分かっている。でも、そういう事じゃないんだ!」
「クスクス、智代ちゃん、オーキくんはぁ、きっと照れてるんだよぉ」
「なっ!?」
「照れてる?そうか。オーキは照れ屋さんだからな」
俺をネタにして小悪魔チックに笑う門倉の言葉に、ようやく智代は満足そうに頷いた。
何か納得がいかない展開だが、智代が笑顔になったので善しとするしかないか……。
「それにぃ、オーキくんが居るから大丈夫だよぉ」
「……うん。そうだな」
俺が居るから……?
よく解からんが、智代には門倉の言った意味が理解出来た様だった。