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第二章 5月9日 ウィークポイント

話の不整合があったので、後半直しました

 ガバッ


「起きろ。そろそろ時間だ」

「ん……」

 かぶっていた布団をはがされて、浅い眠りから覚める。

 膝枕から体を起こして目覚ましを見ると、丁度いい時間だった。

 どうやら今日はちゃんと起こしてくれたらしい。

 「朝食を持ってきてやるから、お前は顔でも洗ってくるといい」

 俺が頭を退けるや、立ち上がった智代が部屋を出て行く。

 暫しぼ~っとしながら、その残り香の余韻に浸る。

 「いくか」

 鋭気充填完了。

 今日もやる事、やるべき事が待っている。

 振り子の要領で立ち上がると、その勢いのまま部屋を出た。

 「ちっ……」

 だが、部屋を出た所で聞こえてきた舌打ちに足を止める。

 弟だ。

 食事の盆を持った弟の奴が、丁度階段を上ってきていたのだ。

 「チッ……」

 わざとらしく舌打ちを返し、奴が隣の部屋に入ってくるのを終始睨みつけながら待つ。

 ああ、クソッ……智代とも顔合わせちまっただろうな……。

 親なんかより、はるかに会わせたくなかった存在だったんだが……。

 折角のやる気が削がれ、一気に胸糞悪くなった。

 嫌悪感で痒くなった頭を掻きむしりながら、階段を下っていく。

 「ん?オーキ、まだそんな所に居たのか」

 残り数段という所で、朝食を持って戻ってきた智代と鉢合わせする。

 いや、そんな早足で常時高速移動してるお前が早過ぎるんだろう……。

 しかも、何の躊躇もなく上ってきたので、仕方なく端に寄ってやった。

 「どうかしたのか?」

 「いや、別に……」

 俺のやれやれ顔が気にでもなったか、上半身を横に倒して覗き込む様に訊いてきた。

 その頭を持ち上げてどかしながら、歩みを止めることなくそのまま通り過ぎる。

 が、下りて少し進んだ所で何となく数歩後退したくなり、何となく身体をそらしてみた。

 「……何をしているんだ?」

 首だけ捻ってこちらを向いた彼女が、冷淡に訊いてくる。

 「背骨の体操」

 「そんな所でか?そんなに体操がしたいのなら、後で私が手伝ってやろう」

 「いや、別にいい……」

 「遠慮をするな」

 これ以上は危険と判断し、体操を断念した俺は洗面所に向かう事にした。




 「まったく、どうしてお前はそんなにHなんだ!」

 顔を洗って部屋に戻ると、案の定智代は朝食の乗るテーブルの前でプンプン怒っていた。

 「そうじゃない。お前に隙が無いか試しただけだ」

 予め用意しておいた言い訳をしつつ、朝食が並べられている彼女の隣ではなく、対面に座り皿を引っ張って持ってくる。

 「パンツを見ようとする事がか?」

 すると、智代さんはスックと立ち上がり、ムッとしながらこちらにやってきた。

 まさか、体操をする気か!?と、思わず身構えたが、何もするでもなく無言で隣に座られる。

 とりあえずは助かったか……だが、凄いプレッシャーだ。

 隙を見せたら何かされそうで怖いんだが……飯を食って紛らわせつつ押し通そう。

 「ああ。直接見られるだけじゃなく、盗撮とかもあるだろ?何食わぬ顔しながら、下に持ってる携帯でこっそり撮ってたりとか」

 「居る様だな。私も実際被害にあったと言う話を聞いた事がある。女の子が無防備な所を狙うなんて、卑劣な話だ」

 うっ……!!

 グサリときて思わず箸を止める。

 いやいや、俺のは“ある意味”不可抗力ではあるし……。

 ここらで方向性を変える意味でも、この話の本題に入るとしよう。

 「まあ、お前の場合、別の意味での盗撮にも注意しないとだけどな」

 「別の意味での盗撮?」

 「あるだろ?パパラッチ的なのが……」

 「私なんかを撮っても、お金にはならないだろ」

 こいつなら、そこらのアイドルよか絵になりそうだが……。

 隠し撮りされた写真が話題になって、一躍トップスターになる姿を想像したが、今話したいのはそういう事ではない。

 「もちろん本職じゃない。でも、お前の何らかの落ち度を狙ってつけ回してくる奴は居るかもしれない」

 「ああ、ひょっとして、ここ最近また後をつけてくる連中が増えてきたのは、それが理由なのか?」

 「……」

 えっと……どっから突っ込もう?

 聞いて正解だったなこりゃあ……。

 「昔はよくあったって事か?」

 「よくと言う程ではないが、何度か後をつけられたり、待ち伏せされたりはあったな」

 「それで、その時どうしたんだ?」

 「無論、返り討ちにしてやった」

 無論ですか……。

 「で、最近また現れ始めたと」

 「ああ。昨日も学校帰りに一人居たな」

 「で、どう始末したんだ?」

 「人聞きの悪い言い方をしないでくれ。一度尾行を振り切った後に背後に回って声をかけてやったら、尻尾を巻いて逃げていった」

 「……他の奴も追い払っただけなんだな?」

 「ああ。と言っても、まだ2~3人だがな。2~3人と言うのは、恐らく最初と二度目の奴は同じ人間だからだ」

 安堵やら呆れやら嫉妬やらが色々ない交ぜになった溜息をつく。

 とりあえず、並みの奴じゃこいつに奇襲もかけられない事はよく分かった。

 まったく、人が長い時間をかけてようやく使えるレベルになった物を、生まれながらに標準装備しているのだからたまらない。

 「まあ、それならいいが……くれぐれも油断はするなよ?」

 「ああ。わかっている」

 念を押すと、智代はいつもの自信に満ちた表情で大きく頷いた。

 一抹の不安はなくはないが、事情を全て話す訳にもいかない。

 彼女に対してはこれでよしとするしかないか。

 それにしても、既に何者かの監視がついてるかもしれないと言うのは、由々しき事態だ。

 これが一人であったのなら、ただのストーカーの線もあるが……複数人となると、やはり何らかの組織が背後に有る可能性が高いだろう。

 そして、一人についてると言う事は、他にも……。

 「今後はおまえと二人きりの時も油断せず、パンツを見られない様にしないとな」

 えっ、そっち!?




 二人並んで学校に向かいながら、早々に手を打つべき事案を考えていた。

 こと戦闘においては、坂上智代がそう簡単に遅れを取る事は無いだろう。

 怖いのは、それを逆手にとられて暴力沙汰を起こしてしまう事。

 そしてもう一つは、ウィークポイントの存在だ。

 こいつにとっての最大の弱点とは“家族”。

 特に弟の鷹文の存在だろう。

 智代が家族を大切に想っている事は、選挙演説を聴いた者なら誰でも知っている。

 それだけに、もし人質にでもとられれば、どんな要求でも飲みかねない。

 足の悪い鷹文は、拉致監禁するには打って付けでもあるし。 

 抑止の為にも護衛を付けたい所だが……問題はその人選だ。

 登下校がメインになる訳だから、なるべく同じ学校の奴の方が目立たないだろうし。

 当然、腕っ節も立たないと護衛にならない。

 そうなると、もう該当者は一人しかいないんだが……。

 「なあ、鷹文と河南子って、より戻したりしてないよな?」

 「鷹文達か……?あれから私からはその話題に触れていないし、鷹文もしてこないから、疎遠のままなんじゃないか?」

 「だよなぁ……」

 やはり難しいか。

 そもそも、巻き込む人間は少ないに越したことは無いし、頼めたら頼めたで心苦しくもある。

 とは言え、アレはアレで得難い人材だからな……今回の事を抜きにしても、二人がより戻してくれた方が都合が良いのもまた事実だ……。

 「なら、河南子にはチケット渡ってないかもか……」

 「ん?河南子を創立者祭に招待したいのなら、チケットは不要だ。あいつも中学三年生だからな。受験生とその保護者は、生徒手帳さえ提示すればチケットが無くても入場が可能だ」

 「ほう、そうなのか」

 そんな抜け道が有るとは……。

 それにしてもそうか……進路の問題があるよな……。

 「あいつらの進路の事も考えると、なるべく早く手を打った方がいいんだろうな」

 「確かに学校の成績は直ぐにどうこう出来る物ではないからな……復縁したなら、なるべく同じ高校の方がいいだろうし……」

 自分も体験したであろう進路の話をすると、思う所があったかぶつぶつと考え出した。

 俺は俺で、またやらなきゃならん事が増えた事に溜息をつく。

 さて、どうした物か……?

 護衛の件が最優先だろうが……復縁も進路の事も、みんなまとめて片付けられるといいんだが……。

 「そういえば、鷹文ってもう何処の高校にするか決めてんのか?」

 「ああ。私と同じ学校、つまり光坂を目指すと言っていた」

  とてもとても誇らし気なお姉さんの返答に、俺は蒼ざめた顔を背けた。

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