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第二章 5月8日 リコール リコール

 失念していたが、生徒会長は罷免させる事が可能だ。

 総会で生徒の三分の二の支持が得られれば、不信任案が可決される。

 そして空いた役職には、選挙で次点だった奴が繰上げ当選となるらしい。

 つまりだ……選挙戦はまだ終わっていない。

 生徒の多くが智代の敵に回るような事があれば、引きずり降ろされる可能性だってある。

 そう、例えば……創立者祭で騒ぎが起こり、その原因があいつにあるとすれば……。

 にじみ出てきた嫌な汗を、足を止めることなく腕で拭って払う。

 まさかな……。

 まさか、たかが高校の生徒会長に、そこまでする奴なんか居ないだろ。

 まして、その為に高い金出してチケットを買いあさり、雇った人間を使って自分のトコの創立者祭をぶち壊しにしようとする奴なんて、実際に居るわけが無い。

 そう思いたいが……今手を打たねば、悪い予感が当たった時に手遅れになる。

 当日まで3日しかない今、既にやれる事は限られているが……。

 いや……相手だって本格的に動いたのは、選挙後からのはず。

 後手に回っている事を嘆いていても仕方が無い。

 まずは実態の把握と、やはりこういう時に物を言うのは“ペンの力”だろう。

 選挙直後で、今から別の記事を差し込むのは厳しいかもしれんが……。

 そう思いつつも、ダメもとで門倉に記事要請のメールを打つ。

 すると、5分と経たず返信が来た。

 しかも、報道部でもチケット売買のネタを掲載する予定だったらしい。

 これはつまり、俺以外にも問題だと思った奴がいるって事だろう。

 早くも一手浮いたのはデカイ。

 智代にはまだツキが有る。

 それを確信しながら携帯をしまい、俺はノックをして目的地のドアを開けた。

 「失礼しまーす」

 「あれ?オーちゃんどーしたの?」

 返事もまたずに勝手に入ると、眼鏡だがあまり知的に見えない男・山崎が気付いてパソコン越しに声をかけてくる。

 学校でネット絡みの事と言えば、やはりパソコン部だろう。

 「ネットしにきた」

 「いやいやいや、今みんな出し物の準備で忙しいから」

 「創立者祭のチケット売れるらしいじゃん」

 「あー、うん。何?売りたいの?」

 「いや、まあ、どんなもんかと思って……」

 適当に目的を濁しつつ話を振ると、忙しいと言いながらも容易に食いついてくる。

 やはりな……やはりこいつなら売っただろうと思っていた!

 空いていたPCを立ち上げ教えられたワードをネットで検索すると、チケット売買をしているサイトや掲示板がいくつかヒットした。

 その一番上のサイトに飛んでみる。

 「ここ?」

 「うん。俺はそこで売ったけど」

 「ほぉ……」

 まず、TVでもCMをやっていた劇団公演のバナーがまず目に飛び込んできた。

 販売、購入、ガイダンス等項目ごとわかり易いレイアウトと、画面の所々にあるバナー。

 手の込み具合から、それなりに信用できそうなサイトだと思える。

 とりあえずチケットが有るのか探してみたが、ヒットしなかった。

 これは完売してるって事なんだろうか……?

 さて、どうしよう?

 もう少しここのガイダンスとかを読んでみたりして、仕組みを知るべきか?

 それとも他を探してみるべきか?

 「あれ、オーちゃんじゃん。来てたのか」

 どうするかと迷っていると、同じくパソコン部の井村が背後から声をかけてきた。

 「よっ」

 「ん?何?チケット?ウチのやつ?」

 イムラーの奴も画面を覗き込みながらそう訊いて来る。

 もうそれだけで、パソコン部でチケット売買がどれでけ横行しているかが理解できた。

 「ああ」

 「それなら、そこは大手だから、期日近過ぎるのは売れないよ」

 「ああ、なるほど」

 「アングラな掲示板やオークションで売りさばくしかないね。まあでも、駆け込み需要でかなり高騰してるから、今が一番売り時かも。俺ももっと吊り上げときゃ良かったと、少し後悔してる」

 「えっ!?あそこからまだ上がってたの!?」

 井村の話を聞いていた山崎が、素っ頓狂な声をあげる。

 「うん。今相場の5倍くらいじゃない?」

 「ええ~っ!!5倍ってなんだよ~!?こっちは2倍で売っちゃったよ~!!」

 「だから大手サイトなんかで早々と売るなっつったじゃん」

 「でも、トラブッたりしたら嫌じゃん。金返せ!!とかさー」

 2倍でも十分だろ……。

 しかし、こいつらの口ぶりからしても、そこまで高くなったのは予想外なのだろう。

 井村に誘導されて向かった先は、飾りっけの無い普通の掲示板だった。

 題字と『トラブルには一切関与しない』という簡潔な注意書き。

 それと、取引方法だけが書かれたシンプルな物だった。

 「出品側に直接レスして交渉するのか……方法は手渡しか代引きのみ……」

 「まあ、今ならぎりぎり間に合うし、代引きでいいんじゃない?」

 「代引きでこっちが損する事ってある?」

 「相手に受け取り拒否されたら、手数料と送料がパアだね」

 「ああ、そっか……」

 大手サイトは、その辺を保障してくれるらしい。

 ただ、その程度だとも言えるので、代引きは買う側のリスクの方が高いんじゃなかろうか?

 もっとも、手渡しで発生する可能性の有るリスクよかはマシだと思える。

 にもかかわらず、出品側も購入側も手渡しを指定している奴が結構居た。

 「買う奴もこの辺に住んでるだろうからか、手渡しってのも多いな」

 「面倒な手続きや、余計な金かかんないからね。人通りの多い所で会えば、まず平気だろうし」

 「ふむ……売れたのが前日とかだと、代引きも出来ないしな」

 これで購入者を特定出来ないだろうか?

 売った奴に聞き込みをして、どんな奴が買ってるのか訊くとか……。

 罠を張って買った奴と直接接触するのも……。

 う~ん……。

 どっちも確実に敵に当たる確証はないし、代役を使われてたら意味無いか。

 てか、そもそも尋問とかする訳にもいかないし。

 ドラマとかでよく痛めつけて吐かせたりしてるけど、あんなん違ってたら訴えられるだろ。

 掲示板では、4桁では即座に、5桁の物もじょじょにレスがつきはじめていた。

 何か異常が起きている事は確かなんだが……ネットじゃ相手まで見えてこないか。

 行き詰ってしまい、痒くなった頭を掻きながら溜息をつく。

 「何でこんな高くなってんだ……?」

 「あれ?ひょっとして、買うつもりだった?」

 「いや……」

 独り言のつぶやきを井村に拾われ、返答につまる。

 まてよ。

 山崎はともかく、井村はネット方面にも詳しいし頭も結構切れる。

 こいつなら何か知っているかもしれない。

 「ん~、知り合いで欲しいって奴が居るんだけど、券が足らないからさ」

 「それなら、ネットとかやらなそうな奴に直接交渉した方がいい。ここに出品してるのは、高く売れるって知ってる奴だから」

 「だな……けど、こんだけ高いの知っちゃうと気が引けるっつうか、悪い気がする」

 「まあ、それは仕方ないよ。どんなレア物だって、知らない人からすればガラクタかもしれんし」

 「だよな……でも、元々ただの物にコレは異常じゃね?何か理由でもあんの?」

 「どうだろ?ただ、昨日まで割と落ち着いてきてたのが、今日って言うか、ここ数時間で倍くらい相場が上がったから、やっぱ選挙結果が影響してんじゃない?主に坂上のだけど」

 それはその通りなんだろうが……。

 「芸能人でもないのに、そんなに見たいか?」

 「そりゃ、オーちゃんは付き合ってるから見慣れてんじゃん!」

 「坂上って、この辺じゃ十分有名らしいじゃん。過去とのギャップ含め、興味があるって感じじゃない?」

 『付き合ってない』と否定しようかと思ったがやめておく。

 確かにそういう奴も多そうだけど……。

 本当に、そういう奴等だけだったら良いのだが……。




 

 パソコンでの情報収集が一段落したので、ここらでもう一度門倉にタレこみをしておく。

 かなりの人数が既に売ってしまっているっぽい事や、更に高騰している事。

 そして、要請しておいてなんだが、記事にするデメリットも有る事も。

 仮に明日発表した場合、学校もしくは生徒会、と言うか智代が過剰に反応して、急遽、生徒の確認が取れない奴の入校を拒否するとなったらどうだろう?

 その場の安全性だけで言えば最も安全だが、買った奴等が騒ぎ出すのは間違いない。

 校門前で詐欺だ何だと騒がれたり、怒りの矛先が会長のあいつに向く可能性も有る。

 それだけは避けたいシナリオの一つだ。

 かと言って、対処できないタイミングで出しても「どうしろと?」って感じだし、終了後は文字通り後の祭りにしかならない。

 もっと早くだせてれば良かったんだが……まあ、“前”会長様の事だから学校が動かない限りスルーしそうだし、ある意味このタイミングしかないとも言えるか。

 “何かしら手は打つが、今回は入場拒否はしない”が落とし所だろう。

 と、結論付けてメールを締めくくった。 

 すると、また直ぐに返信が来る。

 礼と参考にさせてもらうと書かれていた。

 ふうっと携帯をしまいながら一息つく。

 新聞の方は、こんなもんだろう。

 後は彼女達の判断に任せる。

 俺は俺でやれる事をやるべきだ。

 そう、例えば……新聞のネタをリークするとか……。

 その上で、『身元確認出来ないと入場を拒否されるんじゃね?』とか書いておけば……。

 くっくっくっ……と邪悪な笑みを浮かべながら、俺は策を実行すべくキーボードを叩いた。

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