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4月10日:罪と罰

 ・誤字を直しました。6/14

 幼稚園である事がブームとなった


 “スカートめくり”だ!!


 何故そんな物が流行ったのか、まったくもって謎だが


 突如男としての本能に目覚めた俺達は


 獲物を見つけては競う様にスカートをめくりまくった


 だが、事態を重く見た父兄や園側に対策をとられ、ブームは収束に向う事となる


 ブルマやスパッツ、短パンの着用である


 まだブルマは許せるが、短パンとかふざけるな!


 子供ながらにそう思った物だ


 一度クラスで一番勝気だった女の子がスパッツをはいて来て


 「見たかったら、好きなだけ見なさいよ!」

 

 などと調子にのって挑発してきたので


 それならと油断している所を近づいて


 スパッツを脱がそうとしたら


 一緒にパンツまで降ろしてしまった


 それからはもう散々だった


 人生初の女の子からの平手打ちを食らい


 先生にはこっぴどく怒られ


 女子からはハブられ


 男達は俺を“スケベ王オーキ”と呼び讃えた


 でも正直その時は


 『挑発してきたアイツが悪い』としか思っていなかった


 もちろん今思うと、彼女にも洒落にならん事しちゃったなと冷や汗物だが……


 


 男子からは不名誉な称号で呼ばれ


 女子からは近付くだけで逃げられるという針のむしろの様な日々に


 俺の心は荒み、色々溜まっていた


 そんな時、ランドセルを背負ったミニスカートの女の子を見かけた


 あのお姉さんの子供の、確か渚ちゃんだ


 ドス黒い衝動が湧き上がる


 まったく知らない子にはさすがに気が引ける


 大人にやれば捕まって怒られるかもしれない


 でも、あの子ならいいんじゃないか?


 年上だがトロそうだし


 後ろから走り抜けざまにめくって、そのまま逃げれば平気だろう


 そう高を括った俺は、早速実行に移した


 「きゃ!」


 十分な距離をとってから、首だけひねって反応を見る


 渚ちゃんは特に怒った様子もなく、ただキョトンとしていた


 「へ……?オーちゃん?」


 教えた憶えも無いのに愛称で呼ばれた


 「こんにちは、オーちゃん」


 笑顔で挨拶された


 調子が狂う


 キャーキャー言って怒るから面白いのに


 俺は今度は前から、アタックを敢行した


 「きゃ!オーちゃん?」


 めくられたスカートがすっかり戻ってから手で押さえていた


 これは面白い


 「ダメですよ、オーちゃん。女の子のスカートをめくったりしちゃダメです」

 

 優しく諭される


 しかし俺は、それでますます調子にのった


 今度はゆっくり近付いていって、堂々とめくる


 「きゃ!?ダッ、ダメですオーちゃん。そんな事をしてはいけません!」



 さすがに顔を真っ赤にして目を瞑り、必死に抗議してきた


 だが、異常にテンションの上がった俺には、もはやその程度の事では止まらない


 「ダメです!やめて下さい!」


 渚ちゃんは前だけを必死に押さえているので、後ろからはやりたい放題だった


 「やめっ……!」


 最後はもう、スカートをめくり上げたままキープし、お尻を丸見えにしていた


 「や゛め゛て゛く゛た゛さ゛い゛……ひっく……や゛め゛て゛…ひっく…く゛た゛さ゛い゛……!」


 やばい!

 

 渚ちゃんの声に嗚咽が混じり始めて、急激にテンションが冷める


 慌てて手を離すも、彼女はそのままへたり込み、顔を両手で覆って泣き出してしまった


 しまった


 困った


 どうしよう?


 どうも出来ない……


 結局俺は


 泣いている渚ちゃんを置いて逃げ出した

 





 4月10日(木)


 2限目が終わると、クラスメート達の多くは移動を始めた。

 3〜6限目にかけて体育館で部活の説明会が有るのだ。

 とは言っても、2、3年は基本的に自由参加で、部活に入ってない奴や、興味の無い奴は教室で自習していても構わない事になっている。

 さすが進学校、どうせなら帰らせろと言いたい。

 「川上君は説明会に行かないの?」

 席を立った仁科が話しかけてきた。

 「ああ。ここで小説でも読んでるよ」

 「そう……」

 当たり前の様に答えると、仁科は何故か残念そうに表情を曇らせる。

 何だろう?確かこいつも帰宅部の筈だが…。

 「あのね、川上君……」

 「ヤッホ〜!オ〜キくん、りえちゃん」

 意を決した様に仁科は何かを言いかけたが、それと同時に教室に入って来た門倉の登場によって再び口を噤んでしまう。

 「こんにちは。門倉さん」

 「みのりんかぁ、もんちゃんでいいよぉ」

 「なんだよモンチッチ」

 「えへへ〜、モンチッチで〜す」

 コイツが来た目的はわかりきっていたので、面倒そうに中学の頃のあだ名で呼んでやったのだが、モンチッチ門倉は嬉しそうにおどけて見せた。

 本人公認の『みのりん』『もんちゃん』から、『モンキー』『モンモン』『サル』『メガネザル』『出目金』『ファンキーモンキーベイべー』『ミノ○ンタ』まで、彼女のあだ名は挙げるとキリがない。

 大半が男子に門倉の“モン”と眼鏡と目が大きい事をからかわれてつけられた物で、本人は嫌がっている物も多いが、俺のつけた『モンチッチ』は可愛いからいいらしい。

 「そういえばぁ、りえちゃんも今日の説明会出るんでしょう?がんばってねぇ」

 「え?ええ。ありがとう」

 「何だ、仁科も部活はじめたのか?」

 「うん…実は合唱部を作ろうと思うの。と言っても、まだ部員数も足りないし、顧問の先生も決まって無いから、本当に立ち上げられるかどうかは分からないけど……」

 「へえ…!」

 正直、かなり意外だった。

 何しろ彼女は、つい半年ぐらい前までずっと塞ぎこんでいたのだ。

 その彼女が、まさか自分から部を立ち上げようなんて挑戦的な事をしようとは…。

 いや、むしろやりたい事を、目標を見つけたからこそ、か。

 だとしたら……良かったな仁科。

 「そっか…がんばれよ」

 「はい!ありがとう!」

 ありきたりな言葉に、心からの祝福を込める。

 すると仁科には伝わったのか、少し頬を紅潮させながら力強く応えてくれた。

 「あの…それでね、川上君。その…もしよかったら……説明会に来てくれませんか?」

 そして何故かさらに赤くなりながら、そんな事を言ってくる。

 「…順番は何時頃なんだ?もう決まってるんだろ?」

 「あっ、うん。新規の部は最後の方だから…」

 「じゃあ、6限から行けばいいか?」

 「うん、ありがとう!それじゃあ、私行ってるね」

 「ああ」

 「行ってらっしゃ〜い」

 ただ説明会に顔を出すだけだというのに、仁科は本当に嬉しそうに待っていた杉坂と教室を出て行った。

 そういや杉坂の奴も、今日は遠目から観てるだけだったな…。

 まあいい。それより問題は……。

 「お前も記事書くのに説明会行くんだろ?始まっちまうぞ」

 「平気だよぉ。報道部は私だけじゃないしぃ」

 体よく厄介払いをしようとするも、やはりこの程度で追い返せる相手ではないか。

 まあ仕方あるまい。

 昨日の騒ぎが起きた時点で、記事にされるだろうとは覚悟していた。

 「昨日の事なら、たんに他校の生徒を平和的にあしらっただけだ」

 「うん。ウチの女子がしつこくナンパされてたのを智代ちゃんが助けたら、逆恨みされちゃったんだよねぇ」

 真実のみを簡潔に答えてやると、微妙に噛み合わない無い核心をついた話が帰ってくる。

 それはつまり……。

 「一限の後にでも、坂上の所に先に行ってきたか?」

 「えへへぇ」

 「たく……なら別にわざわざ俺のトコ来なくてもいいだろ?記事にしてもいいから、あんま“アホな事”は書くなよ」

 笑って誤魔化すモンチッチに、念のために釘だけさしておく。

 まあ、コイツは他人を貶める様な記事は絶対書かない“仁義”をわきまえた奴だし、だからこそ、一歩間違えば嫌われ者に成り得るポジションでやっていけてるのである。

 「うん。だから、騒ぎの事はいいよぉ。それよりぃ……智代ちゃんとの関係を訊きたいなぁ」

 ついにモンチッチの皮を被った小悪魔が、ニヤリと本性を現す。

 って、訊きたかったのはそれかよ!

 「関係も何も、昨日あの場でたまたま会っただけだ」

 「え〜、その割りにぃ、じゃれあったりして、すご〜く仲良さそうだったよぉ?」

 どうやらコイツもあの場に居合わせた様だ。

 やはり他からはそう見えたか……。

 実際は、ハンマーで殴られた様な一撃を食らい、死にかけたと言うのに……。

 「てか、アイツにも聞いたんだろ?」

 「えへへぇ…でも、智代ちゃんはオーキくんに興味津々みたいだったよぉ?」

 何!?

 って、いかんいかん、動揺するな。これがこの小悪魔の手なのだ。

 「そりゃあ俺みたいな人間はなかなか居ないだろうからな……珍しかっただけだろ」

 「うん。“変わった奴だ”って言ってた」

 「だろうな……てか、変な事教えてないだろうな?」

 「え〜、教えてないよう」

 そんなにニコニコしながら言われても、まったく説得力がなかった。

 「じゃあ、そろそろ私もいくねぇ」

 そう言った途端、計った様に3限の開始を告げるチャイムが鳴りだす。

 これも小悪魔の魔力だろうか?

 「ああ」

 「まったね〜」

 大げさにブンブンと手を振る門倉にチョットだけ手をあげて応え、それが見えなくなると、ドッと疲労感に襲われ溜息をついた……。




 4限目も中頃にさしかかり、時計は正午を指していた。

 それまで教室で大人しく読書していた俺だったが、変なタイミングで読み終えてしまい、暇を持て余し始める。

 まさか訳の解らん第三者の解説が20ページ以上もあるとは……。

 それを読む気にもなれず、寝てようかとも思ったが、別の本を借りるべく図書室に行ってみる事にした。

 ウチの図書室は基本的に休み時間と放課後しか開いていないので、授業中である今は閉まっている可能性が高いが、ひょっとしたら自習する生徒の為に開放してあるかもしれないと思ったのだ。

 しかし、やはりドアには『閉室中』と書かれた札がかけられていた。

 諦めて出直すか…と思いながら戸の端に目を向けると、ほんの少し開いている。

 司書の先生でも居るのだろうか?

 だとしたら、彼女とは“大体の本の好みまで覚えられている゛程度の仲だ。

 注意はされるかもしれんが、特別に貸してもらえる可能性は高い。

 ロマンチストな文系タイプとは比較的相性がいいのだ。

 まあ、“番長”なんて物自体すでに“幻想種”だしな。

 引き戸を開け、中に入る。

 一応人影を探して、ざっと見渡してみた。

 少なくとも閲覧席やカウンターには居ない様だ。

 これはたんなる閉め忘れの線も有り得るな。

 そんな事を思いつつ窓際まで歩を進めると、そこに床に座って本を読んでいる子供が居た。

 ……いや、ウチの女生徒か。てか、あの腕章は三年!?

 しかし一瞬子供に見えたのは、可愛らしい顔や髪飾りが子供っぽいからとか、裸足で床に座っているからとか、でも胸は結構大きいとか、いやそれは違うかとか、それだけではない気がする。

 何と言うか……“在り方が゛とでも言おうか。

 あくまで、直感的にそう感じたというだけだが……。

 まあいい。

 興味は無くは無いが、相手は一応三年の女子だし、軽々しく声をかけたり出来ないだろ。

 そう思い離れようとした所で、その違和感に気付く。

 彼女の手には何故かハサミが握られており、何故かそれを読んでいる本に当てていた。

 まさか…!?

 じょきじょきじょき。

 「ちょ、まった!」

 咄嗟に駆け寄り、本を切り始めたその手を掴む。

 「一体何……を……!?」

 彼女が正気でない事は明らかだった。

 その虚ろな瞳には、目の前に居る俺の事すら映ってはいなかったのだ。

 そして見知らぬ俺に右手と左肩を掴まれているにも拘らず、微動だにしない。

 そう、まるで“にんぎょう”の様だった。

 「………………きゃっ!!いやぁ!!離して!!」

 虹彩がもどった。

 途端、俺から逃れようと手足をばたつかせて暴れだす。

 仕方なく手を離すと、敷いていたクッションに座ったままズルズルと後退していき、背後の棚にぶつかるとそこで身を竦めて小動物の様に震えだした。

 「……いじめる?いじめる?」

 さすがに唖然とする他ない。

 とりあえずパニクっているのを落ち着かせて、話を訊くべきか?

 それとも、余計に怯えさせるだけかもしれないし、このまま立ち去るべきか?

 それとも……本当に苛めちゃう?

 いやいや、図書室の本を切っちゃうような悪い子に、ちょっとだけお仕置きを……。

 「あっ、いや…、驚かせてすみません。ただその…この本に興味があった物で……」

 馬鹿な妄想をうっちゃり、俺は活路を見出すべく、ハサミが挟まったまま床に落ちた本を拾い上げ、彼女が切ろうとしていたページを確認する。

 「!」

 郷愁が心を満たしていく。

 奇しくもそれは、俺もよく知る人について書かれた物だったからだ。


 『真理を探究する者は、傲慢であってはならない


  科学の言葉で語り得ないからといって、奇跡を嘲笑してはならない


  この世界の美しさから、目を背けてはならない』


 この町に住んでいた世界的にも高名な理論物理学者『一ノ瀬教授』の残した至言である。

 きっかけは、中学の時に視たTVの特集。

 初めは教授が研究していた『超統一論』に惹かれ、調べていく内にその人となりを知り、アインシュタインやホーキング等と並んで最も尊敬する科学者の一人になった。

 俺が小学生の頃にはすでに亡くなっていたのだが、それが『世界の成り立ちその物を、一番綺麗な言葉で表した論文』を発表するべく海外へ向う途中の飛行機事故だったと知った時には、酷く落胆した物である。

 「…俺も、超統一論には興味があって、一ノ瀬教授の事は尊敬しているんです。本当に…あんな事故さえなければ、今頃あの論文も発表されて、教授がどんな言葉を選んだのか知る事が……」

 「……ごめんなさい……」

 害意の無い事が少しでも伝わればと、俺は自分の感傷をそのまま口にしていたが、それは突然の謝罪の言葉で遮られた。

 上から見下ろす形の俺からは、座って俯く彼女の表情はわからない。

 だが次の瞬間、彼女は両手でバッと顔を覆うと、

 「ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!」

 謝罪の言葉を何度も何度も叫びながら立ち上がり、そのまま外へ走り去ってしまった。

 後に残された、積まれた沢山の本と、彼女のクッションと弁当箱。

 訳がわからない……。

 いや…、だからこそ、その特異性からすぐに思い当たるべきだったのだ。

 例えそれが自分にとって特別な物であったとしても、軽々しく口にせず、彼女との関連性にまで考えが及んでいれば、推理出来た筈だったのだ。

 彼女こそが、この学校一の才媛であり、他でもなく一ノ瀬教授の遺児である『一ノ瀬 ことみ』である事に……。

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