6話 エアコンはどんな武器?
……そろそろ怒られそうなので、次の村に行く準備をし始める。カバンに……交換日記と……あとは回復薬を入れて……あと着替えの服。とりあえずこんなもんでいいかな?
簡単に身支度をして家を出ようとする。おっと、その前にお母さんに……。
「お母さん、私次の村に行くことにしたの」
「あら! 分かったわ。次の村でも気を付けてね!」
「うん!」
「リノンがこんなに成長して……お母さんは……お母さんは……」
いきなり泣き込むお母さん。いや……私これでも勇者だから……。次の村に行けってせかされてるし……。
「辛くなったら、いつでも帰ってきてね?」
「うん、分かった!」
「忘れ物無い? ハンカチ持った? そうだ! お弁当も……」
「……遠足じゃないから、私一人で何とかなるから……」
家を出ると、お母さんが名残惜しそう、に私の姿が見えなくなるまで見送ってくれた。……いや、辛いなら私勇者やめてもいいんだけど……。家の手伝いでお魚捕ってる方が幸せなんだけど……。
街を出て次の村に向かう。途中で遭遇するスライムやプチデビルを惨殺しながら、一路次の村へ。正直わくわくする。街からはお魚捕るために、川に行くぐらいだったから隣の村に行くのは新鮮。
レベルが高いからみたいで、苦も無く次の村にたどり着く。そして第一村人を発見する。私は恐る恐る声を掛けてみる。
「こ、こんにちは!」
「おぉ、ようこそ! ここはマルクスの村じゃ」
「ありがとうございます!」
村の名前を教えてもらった。マルクスの村って言うのね? で、次にやることは……そうだ、宿屋を探さなきゃ。私は気ままに村を散策する。程なくして宿屋の看板を見つける。私は宿屋に入り恐る恐る宿屋の人に声を掛ける。人見知り特性全開。
「いらっしゃいませ!」
「あの……しばらく宿を取りたいのですが……」
「はい、でしたらこちらにサインをお願いします」
私は店の台帳を貰うと、私の名前を記入する。そして宿屋の人に返す。
「……リノン様……ですね。勇者様の」
「はい、そうです」
「失礼いたしました。宿代は10ゴールドになりますがよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
「ありがとうございます。この村に滞在されるのでしたら、こちらの宿をご利用くださいませ」
「あの……」
「はい、何でしょう?」
「服を洗濯したいのですが、どこで洗えば……」
「そんな! 滅相もございません。お客様……いえ勇者様。お手を煩わせないように私達にお洋服渡していただければ、洗濯しますので」
「え? いいんですか?」
「はい! どの宿屋でもこのようなサービスはありますよ? 特に勇者様でしたら、なおの事長旅になるでしょうから。この世界では皆勇者様の見方でございます。何なりとお申し付けくださいね!」
「あ、ありがとうございます……」
「では、お部屋にご案内させていただきますね」
宿屋……初めて泊ったけど、致せりつくせりだなぁ……。私が勇者だから? 部屋に案内されて私は……って、お風呂入りたい……。もう一度宿屋の人に話に行く。
「あのぉ……」
「はい! 勇者様」
……そういえば、「勇者様」ってむず痒いなぁ……。今後旅を進めて行くと、こんな感じなのかしら?
「お風呂に入りたいんですけど……」
「あぁ、でしたらお風呂場は共用になってます。宿代に含まれてますのでご自由にどうぞ。こちらになります」
「あ、私一人で行きますので、案内は大丈夫です。あの目印を辿りますので」
そそくさと部屋に戻る私。今後こんな会話が繰り広げられると思うと、憂鬱になる。勇者の肩書……結構重いなぁ……。着替えを取り出してお風呂場に行く。脱衣所で服を脱ぎ、汚れた服を別に置いて浴場に入る。とっても広かった。私にとっては初体験。宿屋のお風呂っていいもんだなぁ……。
私はお湯をたらいでくみ上げ、返り血を流して体を洗う。旅を進めて行くのに心配だったけど、これだけのお風呂ならこの先も心配無さそう。
お風呂で泳いだりして遊んで堪能してから、脱衣所に向かい着替える。汚れた服を袋に詰めて宿屋の人のところまで持っていく。
「すみません。これ洗濯お願いします」
「分かりました。明日の夕方には仕上がりますので」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
一人旅もなかなか良いものだなぁ……って感じた。さっぱりしたところで交換日記を取り出す。開いてみるとすでにユウスケからの返事が届いていた。私は読みふける。
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【両親と戦ってます!】
こんにちは。
夏バテは最強クラスのモンスターです。
今の僕では太刀打ちできません。
対抗手段はエアコンなんですが、これが高くて手が出ません……。
今、両親と戦っています。
カジノ、散財しないことだけ祈ります……。
眠りの魔法は、出来れば先生に使いたいところです……。
どうしても、自分にかけてしまいます……。
僕がパーティーに入っても、お役に立てるかわかりませんよ?
あと、次の村のこと行けたら聞かせてくださいね。
レベル、やっぱり上がり辛そうですね……。
無理してやられないようにしてくださいね。
また返事しますね。
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「んっと……」
またわからない言葉が出てきた。エアコン……って? あと夏バテはモンスターで戦ってるんだ。その夏バテってモンスターと戦うために、ユウスケは両親と戦ってるの!? 両親は大切にしなきゃ! カジノは当分先だから良いとして……ユウスケは自分に魔法をかけるんだ……。
またユウスケの世界について知らないことが出来ちゃった。そしてユウスケの知らない一面も見えたような気がする。明日の返事に備えて私はベッドに着く。ほんのりと楽しい夢を見た。そんな気がする。
「たぁぁぁぁ!!」
次の日、村の近辺で私はプチデビルの屍を積み上げてた。早くレベルを上げて魔法を使えるようになりたい。何度も何度も日が暮れるまで、プチデビルの討伐を続ける。そして私の腕が光りレベルが刻まれた文字が、レベル9を指す。正直レベル上げるのもしんどくなってきた……。日も暮れて宿屋に帰る。
「いらっしゃいませ。あ、リノン様。ようこそ! 服の方は仕上がってます」
「ありがとうございます」
「今日もお泊りでよろしいですか? 申し訳ございませんが、10ゴールドお願いします」
「はい、わかりました」
とりあえず一泊10ゴールドの代金を支払う。プチデビルの財産もせしめているので、10ゴールドは痛くない。私はそのまま浴場に向かい、返り血を流す。そして部屋に戻って交換日記を開く。今度は私の番。
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【私もエアコン欲しい……。】
こんにちわ~☆
ユウスケ、ダメだよ? 高い武器が欲しいからって、両親と戦っちゃ……。
そりゃ、経験値とお金が入るかもしれないけど……。
両親は大切にね☆
私もエアコン欲しいなぁ……。
エアコンあると、スライムとか楽に倒せそう……。
あ、もしかして、魔王も倒せちゃったりする?
そうそう、次の村に到着したよ!
周りはプチデビルばかりだから、経験値の効率も良いの♪
今日でレベル9になっちゃった☆
明日には魔法が使えるかも。
じゃあ、またね~☆
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うん! いくら強力な武器が貰えるからって、両親と戦っちゃダメだよね? エアコンってなんだかよくわからないけど、強そうな武器ね。私も欲しいなぁ……魔王も倒せるなら、この旅もすぐに終わらせられるんだけどなぁ……。
交換日記を閉じると、仄かに光りだす。ユウスケに届いたと思う。そして私は明日に備えてベッドに入る。次の返事を楽しみにしながら……。
「おはようございます」
「あ、おはようございます」
「そういえば、村長に会われましたか? 実は村では困ったことが起きていて……」
「いえ、まだです」
「わかりました。では、私が案内しますので恐れ入りますがよろしいでしょうか?」
正直、面倒事に巻き込まれるのは嫌だ。でも断りづらい……仕方なく村長の所に行く。
「村長殿、勇者様をお連れしました」
「おぉ、ありがとう! 勇者様。この村は今大変な危機にあります。お話し聞いてくださいますでしょうか?」
「は、はい……」
いや、断りたい。全力で断りたい。……でも断れる雰囲気じゃないわよね……。これも勇者の定めなのかしら。仕方なく話しを聞く。……眠らないように。
「ありがとうございますじゃ! 実はじゃな。村を庇護する宝がモンスターによって盗まれてしまって……。村の結界は日毎に弱くなっておるのじゃ……。どうか、其の宝を取り戻して欲しいのじゃが、頼まれてくれんかのぅ……」
「はぁ……」
「おお! ありがたい! 流石は勇者様。お心が広い! 早速なのじゃが、この村の西に洞窟があるんじゃ。そこに盗まれた村の宝があると思うのじゃ。その宝を取り戻してほしいのじゃ。頼みましたぞ。勇者様!」
……別に了解したわけじゃないけど……まぁ、仕方ないかぁ。洞窟はモンスターが強そうだから、またレベルをあげなくちゃ……。村長の話しを聞いて村の外に繰り出す。そしていつものように、プチデビルと戯れる。そろそろ日が沈むころ、私の腕が光りだす。レベルアップ。今回は10になった。そして……念願の魔法!! ファイアーを覚えた!
試したい気持ちもあったけど、日もそろそろ落ちるので我慢して宿屋に向かった。お風呂に入って返り血を流して……部屋に戻る。わくわくしながら交換日記を手にする。今日はユウスケからもう返事が来ていた。早速私は読みふける。
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【ディベートなんです!!】
こんにちは。
両親と戦う……って言っても、倒さないよ?(笑)
討論です、ディベートなんです!
ただ、経験値が入るかは、知らないけど……。
リノンは武器に頼ってはいけません。
エアコンは確かに魔王を倒すくらいの、破壊力があります。
けど、使用者が育ってないと、高価な武器も役に立ちません。
だから、リノンにはもっと成長してほしいなって、思ってます。
経験値効率よくなって、良いなぁ……と思います。
僕も経験値で成長したいな……とか。
レベル10到達楽しみですね!
また、返事しますね。
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「あ……」
またわからない単語……ディベートって? 魔法かしら? エアコン……魔王倒すぐらいの破壊力あるんだ。欲しかったなぁ……そして旅を終わらせて平和に過ごしたかった。確かにユウスケの言う通りで、使用者が育ってないと強力な武器は使いこなせない。ユウスケしっかりしてるな……それにエアコン使いこなせるなんて、きっと強いんだろうな……。もしこっちの世界でユウスケに逢えてたら……きっと私の旅も楽で楽しいだろうなぁ。
返事は明日の楽しみに取っておいて、今日は寝る。
朝。勇者の朝は早く忙しい。……な~んて。悠々自適にレベル上げしてる私が、言うセリフでもないか。心地の良い朝だったので、人見知りな私でもなんか挨拶したくなる。村から出ようとすると、この村での第一村人、おじいちゃんがいつものように村の入り口に居た。朝の気持ちの良さに後押しされて、おじいちゃんに挨拶する。
「おはようございます!」
「おぉ、ここはマルクスの村じゃ」
「今日は気持ちの良い朝ですね!」
「ここはマルクスの村じゃ」
「おじいちゃんは、いつもここに居るんですか?」
「ここはマルクスの村じゃ」
「……」
「ここはマルクスの村じゃ」
会話が成り立たない……おじいちゃんボケちゃってるのかな……。それはともかく、私は村から飛び出して、昨日覚えたてのファイアーを試し打ちしたい欲求に駆られる。そして本日初めのプチデビルと遭遇。私はプチデビルの目の前に躍り出て、悪役風に言ってみる。
「……不運なプチデビルよのぅ……」
「!?」
「ファイヤー!!!」
「ギヤァァァァ!!」
プチデビルは炎に焼かれ、断末魔と共に焦げ済みになる。そして炎に焼かれなかったお金が落ちる。
「これ! 便利!!」
私は嬉しさのあまり独りつ呟く。魔法最高! レベルアップ最高! 私は調子に乗って魔法を……ファイヤーを連発する。そして……。
「ファイヤー!!」
しゅぼっと、情けない音で煙だけ出る。あれ? あ……。調子に乗ってて気が付かなかったけど、魔力は空っぽだった……。初めて魔法を使うから、魔力が空になる感覚も覚えなきゃだめね……。
仕方がないので、普段のナイフを使った肉弾戦に切り替える。……服汚れるから嫌いなんだけど……。そして日が落ち、宿屋に帰る。一通り寝る準備も済ませて、私は交換日記を広げて筆を執る。今度は私が日記を綴る番。
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【レベル10になったよ~☆】
こんにちわ~☆
ディベート……なんか、強そうな魔法ですね。
そんなの両親に使って大丈夫なんですか?
エアコン……むぎゅう……。
確かに、私は成長しなきゃね。
経験値一杯稼がなくちゃ♪
今日はな~んと、レベル10になりました!!
魔法覚えたよ! ファイアーの魔法を覚えたの!
敵単体なんだけど、結構便利で覚えてから私、使いすぎちゃった……(´Д⊂ヽ
そうそう、村の入り口の人に話しかけると、毎回必ず「ここはマルクスの村じゃ」っていうの。
おじいちゃんボケっちゃった?
マジウケるんだけど~。
じゃあ、またね~☆
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あのおじいちゃんはネタになるから書いてみた。ディベートの正体も知りたいのでそれも書く。今日はこんなもの。交換日記を閉じて優しい光を見送る。返事に心を躍らせながら私は眠りについた。