5話 カジノ?
私の日々はスライムの虐殺と交換日記になる。何気なく始めた交換日記だけど、反応が返ってくるのは嬉しい。今日もスライムと戦い、経験値とお金を稼ぐ。
「そろそろ、スライム飽きてきた……」
独り呟く。そういえばもう少し奥に行くと、プチデビルと言うモンスターが居ると聞いてたな……。今度はそっちに行ってみようかな。
今日も一仕事終えて帰宅。いつものように体を洗ってから、自室に戻る。見計らったかのように交換日記は光りだす。待ちかねたように私は交換日記に手を伸ばす。
------
【ナイフ羨ましいです!】
こんにちは。
お返事ありがとう!
ゲーセン、確かにカジノっぽい感じもしますね。
どちらかというと、対戦ゲームとか音ゲーにハマってます。
バイトは……まあ、報酬って話だとそんな感じですね。
ファミレスで仕事をしてます。
時々、失敗をして先輩に怒られたりしてますが、なんとかお客さんには顔を覚えてもらえました。
宿題は……勉強と言えば通じますか?
なんか……ソロで行くなら止めません……。
武器、おめでとうございます。
今まで木刀で戦ってたんですね?
確かに、木刀だとスライムが飛び散って大変そうですね。
ナイフ、活用してくださいね。
また、ご返事します。
------
「うーん……」
またよくわからない単語が出てきた……。ゲーム……トランプとかスロットみたいなやつ? カジノにあるような……。でも「音ゲー」って何だろう? バイトは……ギルドみたいなところで良いのかな? 「ファミレス」ってわからないけど……。お客さんを相手にする仕事みたい。顔覚えられるって、それ凄いような……私には出来ないや。やっぱりユウスケの居る世界はこことは大分違うみたい。そういうのが知れてなんだか楽しい。
明日はどうしようかな……ナイフも便利でスライムも飽きてきたし……。
そして翌日。
私はスライムが居るところから、プチデビルの居る所まで散策をしてみることにした。初めて遭遇するからちょっと緊張するけど……。スライムを倒しながら進んでいくと、見慣れないモンスターを発見する。きっとプチデビルだ……。私はナイフを構えて躍り出る。
「せいやぁぁぁ!!」
掛け声とともに、プチデビルを襲う。プチデビルもこちらに気が付いたようで、不意打ちをかけた一撃は空を切る。よけられた!? そしてプチデビルからの攻撃。爪をむき出してこちらに襲い掛かってくる。
「った~い!!」
流石にスライムとは一味違う。体力は削られ、私の柔肌に傷が出来る。……乙女の肌に傷つけるなんて……許せない!!
「たぁぁぁ!!!」
攻撃で体勢が整わないプチデビルに攻撃する。渾身の一撃。プチデビルの胸にナイフが突き刺さる。プチデビルは悲鳴と血しぶきを上げてその場に倒れ込む。血しぶきは私に降りかかる。プチデビル初戦は私の勝ち。……いや、負けたらシャレにならないから。
「……」
スライムもそうだったけど、飛び散る体液で服が汚れるのは、なんか嫌だ。プチデビルの返り血を拭いながら思う。
「……お風呂大切」
次の獲物を探しながら、血に汚れた服を見てため息をつく。これから先もこんな戦いをしなければならないのだろうか。先が思いやられる。正直、家の手伝いでお魚を捕まえてる方が数倍良いと感じる。まったく……思春期真っ盛りの乙女に何やらせるんだか……。若干街のしきたりを恨む。日が暮れるまでプチデビルと戯れ帰宅する。
「お帰り。リノン」
「ただいまぁ……疲れたよ……」
「あら! 血じゃない? 怪我してない?」
「あぁ、大丈夫。プチデビルの返り血だから」
「そう……。なら大丈夫ね? お風呂入って食事して休みなさいね?」
「はーい!」
お母さん……娘が血まみれになって帰ってきてるのに、普通に接するなぁ……。うーん……勇者になると普通なのかしら? 確かにモンスター駆除で生計を立ててる人も居るって聞くけど……私にはこりごり。
お風呂と食事を済ませて、自室に向かう。今度は日記を私が書く番。交換日記を開いて筆を執る。
------
【カジノ行きたい( ;∀;)】
こんにちわ~☆
元気にしてますか?
私は元気いっぱいです♪
やっぱりカジノだったんですね?
カジノがある街もあるみたいだから、そこでいっぱい遊んでみたいって、思ってるの!
対戦って、ユウスケさんも戦うんですか?
職業教えてくれると嬉しいです。
勉強は分かりますよ!
魔法とか使うんですか?
勉強で魔法が使えるって話も聞いたことあるけど、私はレベル上げにしようかなって思ってるの。
やっとレベル7になって、プチデビルが倒せるようになりました(^_-)-☆
ナイフ、やっぱり便利♪
また、返事するね♪
------
「ふふふっ」
やっぱりこの時間が一番、心が安らぐ。今日は血みどろになりながら、プチデビルの屍を積み上げた。
そうね……私だって遊びたい盛り。なんとなくユウスケの日常が羨ましく感じる。私も勇者って言われなければ、ユウスケのように遊べたのかな……。
今日の出来事も添えて、交換日記を閉じる。また明日も返事が届きますように。その願いを叶えるかの様に、交換日記は優しく光る。
そして、もう日課になっている街の外を散策。プチデビルの屍と返り血を沢山もらう。返り血で血みどろになりながら、帰路を急ぐ。
「ただいま~」
「お帰り。お風呂湧いてるわよ?」
「ありがとう! 先入るね~」
「あ、それとね」
「なあに?」
「王様から早く次の村に行けって連絡があったわよ?」
「……」
ちょっと痛い言葉……。私まだこの街離れたくないんだけどなぁ……。仕方なくお母さんに頷き、お風呂とご飯を済ませる。そして楽しみの交換日記の返事を待つ。今日はまだ来てなかったみたいで、私は交換日記が光り輝くのを楽しみに待っていた。
そして交換日記が光りだす。今日はどんなことが書いてあるのかしら……期待に胸を躍らせながら交換日記を手に取り、新しいページを読む。
------
【兵長になりました!】
こんにちは。
お元気で何よりです。
こちらは夏で暑くて、夏バテしてます……。
まぁ……カジノと言えば、カジノです。
でも、お金を賭けたりはしてませんよ。
リノンはお金を賭けて遊びませんよね??
もちろん、戦いますよ!
今は兵長までいきました!
魔法と言えば……そうですね、すぐに自分を眠らせることが出来ます。
勉強すると、いつの間にか寝ています。
レベル7おめでとうございます。
ナイフが役に立ってるんですね。
プチデビル討伐おめでとうございます。
また、返事します。
------
「兵長!?」
兵長ってあれ!? 騎士団の……。ユウスケすごい!! もしかして私の交換日記ってすごい人とつながっちゃった!? そしてユウスケは眠りの魔法を覚えているみたい。
「でも……」
またわからない単語が……。夏……バテ? 夏は分かるけど……。「バテ」って何だろう? やっぱりこの交換日記は異世界につながってるんだなぁ……。
そういえば、カジノ行ってみたいなぁ……ユウスケみたいに遊びたいけど……。でもなぁ……お金かけることになるんだよなぁ。釘刺されちゃったし。
ユウスケの日記をかみしめながら、私は眠りについた。
いつものように戦いを繰り広げ、プチデビルの惨殺をする私。日も落ちてきたころ頃合いなので、家路につく。
「ただいま!」
「おかえり。血みどろね。お風呂入って」
「はーい!」
「あ、それとね」
「……」
嫌な予感しかしない。私はお母さんの次の言葉を待つ。
「……また王様から連絡があって、いい加減次の村に行きなさいって。明日は次の村に行ってみたら?」
心配そうに……いや、ちょっと呆れられてる……。そんなお母さんに私は頷き、お風呂とご飯を済ませる。
そして、私の楽しみな時間。日記を書く時。最近はこれが楽しみで過ごしてるようなものかな。交換日記を開いて私の日記をつける。
------
【カジノ……ギクッ!!】
こんにちわ~☆
夏バテって何ですか?
新手のモンスターですか? 強そうです。
ユウスケも負けないように、頑張ってくださいね☆
カジノ……お金……(/ω\)
ちょっとだから……ね? って、言っても、まだ先の話だからね~。
兵長だったんですか?
それに眠りの魔法が使えるんですね?
間違って自分にかけてるみたいなので、気を付けてくださいね!
……なんか、ユウスケが私のパーティーに居ればなぁ……(>_<)
そろそろレベル8になりそうなので、せかされてた村に行くね~。
またね~☆
------
さて、明日は荷造りかな……。いい加減次の村に行かないと、そろそろ怒られると思うから……。私は交換日記を閉じる。私の旅立ちを祝福するかの様に、交換日記は淡く光りユウスケの元に届いたことを示す。