4話 魔法使い校長先生
私はいつもの戦闘を終えて家路を急ぐ。交換日記の返事が気になってしょうがなかったから。べとべとになった体を流して、部屋について交換日記が光るのを待つ。そうしていると交換日記がほのかに光りだす。すぐさま交換日記を私は手に取り、新しく追加されたページを読む。
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【校長先生は魔法使いですね。】
こんにちは。
お返事ありがとうございます。
名前の呼び方はそれでいいですよ!
じゃあ、僕はリノンって呼ばせてくださいね。
目的は魔王を倒すことなんですか?
もしよろしければ、詳しく聞けると嬉しいです。
校長先生は……確かに魔法使いかもしれませんね……。
校長の呪文で、今日は10人倒れました。
魔法はまだなんですね。
スライムを倒すだけで、レベル10になりそうですか?
早く魔法を覚えて、べとべとから解放されるのを祈ります。
どんな魔法を覚えたかも教えてもらえると嬉しいです。
また、お返事もらえると嬉しいです。
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なんだか面白くなってきた。最初はただの遊びの息抜きで考えていたけど、こうしてお返事もらえるのはなんか嬉しい。私はユウスケの書いた日記を読む。
「校長先生……すごいなぁ……」
「そうね……まだ魔法は覚えてなくて……」
ユウスケの日記に独り言がつい漏れる。そうだ……明日は何を書こう……。そんなことに思いを巡らせながら私は眠る。
翌日。交換日記の相手ユウスケに良いところを見せたくて、張り切ってスライムの虐殺……もとい、退治をする。相変わらずべとべとは慣れないけど、徐々にスライムを一撃で倒せるようになってきた。……倒したら倒したで精神的ダメージは入るけど。
しばらくスライムと戯れていると、腕に書かれたレベルの文字が仄かに光りだす。今現在のレベルは6。そろそろ日も暮れるところなので家に帰ることにした。
正直なところ、早く日記の返事を返したかった。体を洗い自分の部屋に向かう。そして交換日記を手にして白紙のページにペンを落とす。
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校長先生パーティーに欲しいです!
こんにちわ~☆
お返事ありがとう☆
そういえば、そっちの世界っていうのも知りたいな。
今度ユウスケの日常も聞かせてくれるとうれしいな~。
校長先生、是非私のパーティーに入れたいです!
呪文で10人も倒しちゃうんですか?
そうそう、仲間なんだけど、なんかギルドってところで探せとだけ言われたの……。
私、人見知りだから、そういうの苦手……( ;∀;)
レベル10にはスライムだけじゃ無理そう……。
今は、レベル6になったんだけど、レベルが上がると次のレベルになりにくいみたいで……。
今は少しずつスライムの倒し方、覚えてきたかな?
また、お返事くださいね☆
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「よしっと♪」
校長先生って、高度な魔法使いみたいね……私のパーティーに入れてみたい。私は人見知りだけど、この相手のユウスケからなら紹介受けてもよさそう。
スライムの倒し方も覚えてきたし、明日も張り切っていこう! そうして交換日記を閉じてユウスケの所に届くのを見送った。
この日は早めにスライムの殲滅を切り上げて、街の武器屋に居た。目的は……そう、ナイフ! ついにお金が貯まったのだ! 私は心躍らせながら武器屋のおじさんに話しかける。
「おじさん! ナイフください!」
「おお。リノン様。お金が貯まったのですね。では代金は240ゴールドになります」
「はい! ありがとう! あとこの木刀も引き取ってもらえますか?」
「分かりました。こっちは10ゴールドで引き取りますね」
「ありがとう!」
念願のナイフ! やっと手に入れた! これで明日からの戦闘が楽になる。期待に胸を躍らせながら家路を急ぐ。いつものようにべとべとを落としてから部屋に入る。交換日記を開いてみるとまだ真っ白なままだった。大人しく待っていると交換日記は光りだす。ユウスケからだ!
私は交換日記を手にすると、新たに追加されたページに目を落とす
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【宿題がまだ終わりません……。】
こんにちは。
お返事ありがとうございます。
僕の日常ですか?
今は夏休みでゲーセン行ったりして遊んでます。
遊ぶお金もほしいので、バイトに行ったりもしてます。
宿題がありますが、まだ半分も終わってません……。
仲間はギルドで集めるんですね?
人見知りでも大丈夫だと思いますよ?
試しに話しかけてみてくださいね。
レベル6、おめでとうございます。
一人でスライム倒してたんですか?
最初のうちこそ、仲間が必要だと思いますよ。
道中でやられないように気を付けてくださいね。
また、返事待ってます。
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「宿題……夏休み……ゲーセン……バイト?」
よくわからない単語が並ぶ。流石に異世界につながってるからかな……向こうとこっちでは全然風習が違うみたい。そしてギルドの話し。やっぱり仲間作った方がいいのかな……。
そう思いを巡らせながら、交換日記を閉じて私はベッドに着いた。
翌日。ナイフの試し切りがしたくて、スライムの虐殺に赴く。もうこのあたりのモンスター……と言ってもスライムしかいないけど、私の手に掛かればイチコロ。獲物のスライムを見つけ、私は躍りかかる。
「たぁぁぁ!!!」
スライムをよく見ると、透明の中に小さな丸い球を見つける。きっとこれが弱点。そこめがけてナイフを滑らせる。勢いに任せてスライムの後ろに立つ。スライムはあの体液をまき散らして消える。あれ? あのべとべと今回はかぶらなかった!?
「よし! この調子で!」
私は独り呟きながら次の獲物に向かう。さっきと同じ要領で……できた! スライムのべとべと体液を食らわずに勝つことが出来た。調子づいてこの日沢山スライムの屍を築き上げた。
そして頃合いも夕方。私は街に入る。すると街人に話しかけられる。
「あの……リノン様?」
「はい? 何でしょう?」
勇者になったからだろうか。面識のない人から名前で呼ばれる。ちょっと有名人になった気分。
「恐縮ですが、そろそろお仲間を集めて、次の村に……」
あぁ……そろそろ進めてほしいのね……。確かにスライムばっかり狩ってたからなぁ……。でもこのレベルで一人次の村に向かうのは心もとない。
「すみません……もう少しこの街に居ようかと……」
そう私が言うと、街人は渋そうな顔をして去っていった。いやね。人見知りの私だから話せただけでも偉いでしょ? なんて自分で自分をほめてみる。
そしていつものように家でお風呂に入ってから、部屋に向かう。次は日記を私が書く番。今日は色々あったからネタには尽きない。それにわからない言葉も聞いておきたい。私は筆を執る。
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【武器がナイフになりました♪】
こんにちわ~☆
お返事ありがとう☆
宿題って何でしょう?
ゲーセンって、楽しいところなんですね!
カジノみたいなところですか?
バイトって、ギルドみたいなところ?
人見知りな私からは、凄く尊敬します!
今、周りの人たちから、「早く次の村に行け!」ってせかされてるの( ;∀;)
今の私じゃ、次の村は当面行けなさそう……もう、ソロで行こうかしら?
スライムは倒すのに慣れてきて、べとべとにならないようになりました☆
この調子で、進めていきたいなぁ…。
それと、武器が木刀からナイフになりました!
ナイフ便利♪
また、返事するね~☆
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「これで良しっと♪」
思った事と今日の出来事をまとめて、私は交換日記を閉じた。優しく光り、ユウスケの元に届いたことを知らせる。