39話 近づく物語の終焉
そして私の冒険は加速する。魔王の城。最後の町。ついに踏み入れる。
「お姉ちゃん……ようやく来たね」
「……うん」
この町は魔王の城に近いだけあって、その猛威にいつもさらされているらしい。荒れた田畑。魔王軍の襲撃に備えた砦。毎日続いているであろう攻防。人々は疲れ切っていた。そんな町の人々は私達を温かく迎えてくれた。
「ついに勇者様がいらっしゃったぞ!」
「これで私達も……」
「勇者様、どうか魔王を倒してください」
「お姉ちゃん……僕のお父さんの仇をとって!」
口々に今までの苦しかった想いと、私達への期待の目を向けてくる町の人々。私はこの期待に報いなければならない。そして……私とユウスケにもハッピーエンドが来ることを期待して。
「勇者様、まずは魔王の城に行く前に、砦を攻め落としてください。そうすれば私達の戦いも和らぎます」
「分かりました。あの砦ですね?」
町のそばに築かれた砦。皮肉の様にも町のすぐそばに築かれている。そこを攻略すれば町の人々の救いになる。明日はあの砦を攻略することを心に誓う。
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【魔王の命運……。】
大好きなリノンへ。
うん、待ってるよ!
……ファンファーレ・レイ……。
なんとなく予感はしてたけど……。
仲間の協力が必要な魔法だからね……。
リノンは人見知りって言ってたから、仲間を集めるのは、もう今更って感じだし……。
……前に、僕がお願いした魔王の倒し方と違うね……(汗)
……でも、こうなっては仕方ないか……。
魔王にはちょっと我慢してもらおうね?
そろそろ魔王城に着くころかな?
気を付けてね!
……レベル的には大丈夫そうだけど……。
じゃあ、またね。
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「もう……着いたよ……」
私はそっと日記に語り掛ける。そう……私の冒険の終着点はもうすぐそこ。もう目の前に見える。ユウスケ……どうか私を見守って……。
「お姉ちゃん……」
「ふふふふふふ……」
町の外に出て、依然見た光景を私達は目にしていた。そう……経験値が沢山貰えるモンスター。前よりも大きな体格。そしてそれに見合わぬ逃げ足。ついに私の目標がそこに現れた!
「いっくぞ!!」
私は大岩のモンスターに飛び掛かる。確かに素早い! でも今のレベルなら何とか回り込める! 逃げた方向に回り込み、私は毒針を急所に叩き込む。核を失った大岩のモンスターは形を崩し、中の体液をぶちまける。そして私はその体液を全身に浴びて、べとべとになる。
「……」
「お姉ちゃん?」
「あははは!」
なんだか、初めのころをを思い出す。ユウスケと……交換日記を始めたころ。そういえば私スライムと戦ってて、こんな感じになったんだっけ。
「シルビィ。ここは後回しにして砦に行くよ!」
「うん!」
砦。中に入るとやっぱり今までと同じよう。いやそれ以上に立派な造りになっていてあたかも私達が来るのを待ち望んでいたかの様だった。闊歩するモンスターも今まで見てきたよりも強敵ぞろい。今まで戦ってきた集大成の様にも感じた。トラ、骸骨、ライオン、キメラ……様々なモンスターが襲ってくるが、今の私とシルビィにとっては敵ではない。そして最深部の扉を開く。そこには人の形をした鬼ののようなモンスターが座っていた。私達が入ってくるのに気が付くと、そのモンスターはゆっくりと立ち上がり、私とシルビィを睨みながら語りだす。
「我が名はハイオーガ。敬愛する魔王様の最後の腹心。今まで散々私達の同胞を痛めつけてきたようだな。だが私は今までとは違う。覚悟しろ!」
そう言うと、ハイオーガは臨戦態勢に入る。私は毒針を両手に構えて対峙する。そして……。
「覚悟!!」
ハイオーガが動き。
「させるか!!」
私が動く。ハイオーガ、ここでファンファーレ・レイを試してみようと思う。これで倒せなければ、魔王を倒すには威力が足りないことになる。私は走り様に魔法の提唱をし、シルビィの魔力を借りる。
「ファンファーレ・レイ!!」
閃光がハイオーガを襲う。咄嗟にハイオーガは手を交差させその光を防ごうとする。そしてその閃光はハイオーガの防御を破り、轟音と共にハイオーガを突き飛ばし、砦の壁に大きな音を立ててぶつかる。少しだけ動きを止めたハイオーガ。だが立ち上がりこちらを睨みつける。
「なかなかの威力だな。だがこれに屈するほど私も……そして魔王様も甘くはないぞ!」
ハイオーガは立ち上がると、魔法を詠唱し私に向かって炎の弾を投げつける。躱し切れない!? そこにシルビィが割って入り、盾と剣で火の玉を防ぐ。
「お姉ちゃん!」
「いや、後は任せて!」
そう言って私はハイオーガに向き合い、突進する。ハイオーガもそれに応じて私に向かって突進する。大きな爪の薙ぎ。私はそれを左手の毒針でいなすと、ハイオーガの左肩に向かって毒針を突き立てる。腕の急所。捉えた。そして私は咄嗟に間合いを取る。
「くっ!!」
ハイオーガは右手で左肩を押さえ、苦痛に満ちた表情でこちらを睨む。
「トドメよ!」
私はハイオーガにもう一度突進し、今度は胸の急所、心臓を狙う。ハイオーガは毒も回っているせいか、その毒針を振り払おうとするも目算が合わず空振り。そして私はハイオーガの胸に渾身の一撃をお見舞いする。
「く、くそぉ!! 魔王様……どうかご武運を!!」
こうして、最後の魔王の腹心を倒した。あとはもう魔王の城を残すのみ。私の冒険の終焉。そこに何が待ち構えているのか。私とユウスケのハッピーエンドはあるのか。複雑な想いを胸に秘めながら、砦を後にする。
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【ついに!!】
大好きなユウスケへ☆
ふっふっふ……。
今日はすごい報告があるのだ!!
なんと!!
今魔王城のそばに来てます!!
ようやくたどり着いたよ♪(^_-)-☆
そして!!
お目当てのモンスターもいっぱい!!
逃げ足は速いんだけど、私にかかれば追いついちゃうから、狩り放題~☆
暫くはここを拠点にして、レベル99目指します~☆
いまはね、レベル85まで来たんだ~。
私、頑張ってるでしょ?
褒めて、褒めて?
ちなみに、このモンスターだけど、倒すとべとべとになっちゃうのよね……(-ω-;)
……なんかさ、このべとべとも、ユウスケと最初に話したこと、思い出しちゃった……。
と、言うわけで、経験値稼ぎなのだ~☆
じゃあ、またね~☆
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「……」
「お姉ちゃん?」
「ううん。何でもない」
もう私の冒険は……物語は……カウントダウンを始めた。
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【べとべとリノン……懐かしいね……。】
大好きなリノンへ。
……ついに……だね!!
おめでとう!
頑張ったね?
うん! よしよし、してあげるよ!
目的のモンスターも居たんだね?
その様子だと、しばらくは経験値稼ぎかな?
じゃあ、僕の話をいっぱい書くから、聞いてくれると嬉しいな。
今日のところは、おめでとう!
べとべと……懐かしいね………。
確か、スライムと戦ってて……。
木刀だっけ?
暫くそれで倒してたって。
で、僕はスライム倒すのも大変なんだな……なんて、思ったなぁ……。
次に僕の話するね。
じゃあ、またね。
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ユウスケの日記を見つめ、交換日記を始めたころを思い出す。そう……私がスライムと戦っていた時。あの頃は……こんな気持ちになるなって想像もしなかったな。顔も声も知らない相手。そして私は恋をして。そして私は逢いたくて。そして切ない気持ちでいっぱいになって……。苦しい。もうすぐこの交換日記も終わりかもしれない。そう思うと魔王の城に行くのが怖くなる。終わってしまうかも知れない交換日記。消えてしまうかも知れない交換日記。私とユウスケの物語はこれで終わってしまうんじゃないだろうか。そんな気持ちに押しつぶされながら……。
「今日はちょっと戻って戦いたいかも……」
「お姉ちゃん?」
「大丈夫よ。ちょっと思い出したいだけだから」
私は毒針からナイフに装備を変えて、町の外に出る。そして一つ戻った道でモンスター達に遭遇する。私は無我夢中でクマやトラ、ライオンのモンスターを狩る。声にならない悲鳴。返り血に染まる私のドレスと地面。積み重なるモンスター達の骸。私はひたすらにモンスターを狩った。狩って狩って狩り続けて……。私の気持ちのやり場をぶつけるかの様に。
「お姉ちゃん……」
「なあに?」
私はシルビィの呼び止めに、返り血を浴びた姿で……焦点の合わない目で振り向く。その姿にシルビィは心配そうに声を掛ける。
「無理……してない?」
「……」
「無理……してるよね?」
「……帰りましょ」
私はシルビィの問いに答えることが出来なかった。
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【血まみれリノンだよ~☆】
大好きなユウスケへ☆
……なんかね、日記始めたころの事、思い出しちゃった。
そしてね、ナイフのことを思い出したの。
最初は6本……今は5本……。
今日はね、魔王城からちょっと離れてね、
クマとかトラとかライオンとか狩ってたの。
ナイフでも……今のレベルだと、1撃ね……。
この辺りは弱いのかしら?
なんかね……今日は狩りまくってたの。
そうして、たくさん返り血浴びてきちゃった~☆
久しぶりの、血で染まったリノンちゃんでした~☆
……このナイフ…宝物なんだ……。
……えへへ……ちょっと感傷に浸っちゃった♪(^_-)-☆
じゃあ、またね~☆
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私の返事を書き添えて、交換日記を閉じる。すごい虚しさ。久しぶりの空元気で日記を書いた。どうしようもない気持ちがあふれてくる。
「お姉ちゃん?」
「……」
「やっぱり。無理してるね?」
「……」
「ねぇ、お姉ちゃん。聞いて? お姉ちゃんはね。一人じゃないんだよ?」
「……」
「私だっているし……そして交換日記の人も」
「……」
「あはは、でもここに居るのは私だけか。あのね、お姉ちゃん。一人で抱え込まないで?そばにいる私が心配になっちゃうから。だからね。えっと……。その……。辛い時は泣いても良いと思うよ?」
「シルビィ……」
「ほら、おいで? 私の胸かしてあげるから」
「……うん」
私はシルビィに甘えて、体を寄り添わす。泣きたい……のかなぁ。自分でもこの気持ちわからない。どうすればいいかわからない。寂しい。切ない。そんな気持ちが交錯する。どうしてそうなるのかわからない。
「お姉ちゃん」
「なあに」
「少しずつ話ししてみて? 不安に思ってること。いっぱい話してみて?」
「わかった」
「じゃあ、今どんな気持ちなの?」
「寂しいかも……」
「なんで寂しいの?」
「ユウスケに逢えないから……かな?」
「うん、そうかもね。それよりも交換日記が消えること心配してない?」
「そう……かもしれない」
「お姉ちゃん……大丈夫だよ。きっと何とかなるから」
シルビィは私を抱き寄せ、髪を優しく撫でる。
「これは私の考え。魔王を普通に倒しても交換日記は消えないと思うの。魔王は魔力を封印して眠りにつくから。でもこの倒し方だと今まで通りだと思うの。それは交換日記も同じ。交換日記の人と逢うことはできないと思うの」
「……私もそれは考えた」
「けど……お姉ちゃんは違う。ファンファーレ・レイと言う最強魔法を覚えたんだから。これで魔王を倒した時にどうなるか。考えたことある?」
「ううん」
「私はね。もしかするとだけど……交換日記は消えちゃうんじゃないかって思った事があるの。魔王は消えてしまうから。もしかしたら魔法も消えてしまうのかもってね」
「私も……考えてた……」
「でもね、よくよく考えてみたら、魔王がこの世界に現れる前にも、魔法は存在してたみたいなの」
「え? そうなの?」
「うん。魔王がこの世界に現れる前。人は争いもなく魔法と調和して暮らしてたって。御伽噺の知識だけどね」
「……」
「けど、思ったの。お姉ちゃんの魔法……ファンファーレ・レイって、浄化の魔法でしょ? これで魔王にトドメをさすと言う事は、魔王を浄化することになると思うの」
「魔王を浄化?」
「うん、もしかするとだけど、浄化すると魔王が魔王じゃなくなるかも知れないってこと。もしかしたら、カッコいい神様みたいになって、願いを叶えてくれたり……ね。でも本当にそうかも知れない。私は裏エンディングに何かあると思うの」
「シルビィ……」
「話それちゃったけど、お姉ちゃんはお姉ちゃんで無理しなくていいと思うの」
「……」
「だから……今は素直になろ? お姉ちゃんの気持ちに。寂しかったり、切なかったりするなら、今は泣いていいよ? 私が居るんだから。お姉ちゃんだって一人の女の子でしょ? 勇者なんて重い肩書、苦しくない? 今は普通の女の子に戻って?」
そしてシルビィは私の頭を優しくなでる。温かい。シルビィの温もりも、言葉も。私のこの気持ちってなんだろう? ユウスケに逢いたい気持ち? 交換日記が消えてしまうかもしれない不安? 本当に魔王を倒すことが私とユウスケにとってハッピーエンドになる? うん……一人で抱え込みすぎたと思う。本当は……本当は……。
「シルビィ!!!」
「うん♪」
私はシルビィの名前を呼ぶと、目から堰を切ったかの様に涙があふれてくる。そう、私は、ずっと不安だった。寂しかった。切なかった。苦しかった。今はシルビィに甘えてその気持ちに素直になれる。
「本当は……本当は……ユウスケにすっごく逢いたいの! 今すぐ逢いたいの!」
「うんうん♪」
私の気持ちを吐露する。シルビィは頷きながら聞いてくれる。
「でも、逢えないかも知れないじゃない? 私……私……頑張ってるのに……」
「うん、頑張ってるよ。私いつも見てるもん」
「うっ、うう……」
「うん、今日はお姉ちゃんが甘える日。泣きたい時は一杯泣いていいんだよ?」
私はシルビィに優しく抱きしめられながら、声も出せずにひたすら泣いた。あふれる涙は私の心を洗い流すかのように、少しずつ少しずつ心が癒えていく。そして、私はシルビィの腕に抱かれながらいつの間にか眠ってしまった。




