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37話 私の世界のカラオケ

「シルビィ、今日はカラオケしてみない?」

「お姉ちゃん、カラオケって何?」

「えっと……歌うた歌うらしいの。ユウスケの世界の遊びみたい」

「へぇー。でも人前で歌なんて恥ずかしいかな?」

「うん、私も……。でも楽しいらしいよ? やってみない?」

「わかった! やってみよ?」


 私は昨日考えたアイディア、カラオケをシルビィとやってみることにした。多分ユウスケの世界ではもっと違うのだろうけど、その雰囲気だけ確かめてみたい。そんな気持ちもあった。私が落ち着く事……ユウスケの世界の真似事。それをやってみたかった。


「で、お姉ちゃん、カラオケってどうやるの? この……宿屋であるの?」

「う~ん……ここだと恥ずかしいから、外でやってみない?」

「うん! じゃあお弁当も用意して行かない? ちょっとしたピクニックみたいなの」

「あ、良いわね!」


 こうして、カラオケは外でやることにして、宿屋の主人に手持ちのお弁当を用意してもらい、私とシルビィは外へ繰り出していった。しかし、モンスターの群れは容赦なかった。


「う~ん」

「お姉ちゃん!」

「ちょっと外だと落ち着かないわねっと!」


 迫りくるモンスター達を薙ぎ払いながら、シルビィに話しかけていた。私達は外で落ち着いてピクニックが出来る場所を探していた。街の外……しかも魔王の城に近いこの地域では、モンスターの攻撃は手荒い。そもそも外で落ち着く場所なんてあるのだろうか。私の無計画さが表面に出る。


「お姉ちゃん、あそこの丘なんてどう?」

「え? でも、丘にもモンスターが……」

「大丈夫! 私に考えがあるの」


 胸を張るシルビィの様子を見て、私はそれに賛同する。そしてシルビィが指さした丘までたどり着く。丘に着くとシルビィは火打石を取り出し、焚火を始める。そして鞄から薬を取り出し、焚火の中へ放り投げた。すると炎は青白い光を放ち、あたりに拡散する。


「シルビィ、今のって……」

「モンスター除けの薬を焚火に入れたの。これでしばらくはモンスターが寄ってこなくなるよ!」


 シルビィが言う通り、確かにこの方法であればモンスターは暫く薬の匂いで寄ってこない。流石シルビィ、そんな用意までしてるとは思わなかった。見習わなければならないところ多いなと思いながら、シルビィと二人で座りやすそうな岩にそれぞれ腰をかける。


「……」

「……」


 暫しの沈黙。いや、シルビィは多分待ってるんだと思う。私が言い出したカラオケ。落ち着いてみたは良いけど、どう切り出せばいいのかわからない。言い出したのは私。だからここは初めに歌うのが私の役目。と言うか、シルビィを励まそうとして私が整えた場所だから、私がやらないと。私は深呼吸して、シルビィに話す。


「じゃあ、私から歌うね」

「うん!」

「~♪」


 私は小さいころによく歌っていたわらべ歌を歌う。シルビィはそっと目を閉じて聞き入る。良く歌ってたのを思い出す。歌の意味は……確かお魚を捕り過ぎたら天罰が当たるみたいな感じだったと思う。一節を歌い終わるとシルビィはそっと目を開けて拍手してくれた。


「私聞いたことない歌だなぁ」

「そうなんだ? シルビィと故郷は同じなのに、変な感じね」

「う~ん、私は剣士の娘だから、育った環境もあるのかもね」

「そっかぁ。じゃあ次シルビィね!」

「え? 私も? なんだか恥ずかしいかも……」


 視線を落として恥ずかしがるシルビィ。深呼吸をしてシルビィは歌い始める。


「~♪」


 聞いたことの無いメロディー。でも優しく時には勇ましいメロディー。シルビィの実家で歌ってた曲かな? 私は聞惚れる。そしてシルビィは歌い終わり私に尋ねてくる。


「どう……だった?」

「うん、聞いたことなかったけど、いい歌ね!」

「ありがとう。私の実家で武芸をする前の歌なの」

「毎日歌ってたの?」

「うん、そうよ」

「じゃあ、次私歌うね!」


 お弁当をつまみながら、私達は夕暮れまで歌い明かした。とても楽しかった。ユウスケもこんな感じで歌ってるのかな? なんだかユウスケと一緒にいるような、そんな感じがした。日も落ち私は最後の歌を歌う。小さいころによく聞かされていた歌。子守歌。


「~♪」

「お姉ちゃん、この歌私も知ってるよ!」

「え? そうなの? じゃあ一緒に歌お!」

「うん!」

「~♪」

「~♪」


 小さいときに聞かされた歌。シルビィも知っていた歌。二人で歌う。一人で歌うよりも気持ちがいい。意味は今日は早く寝てまた明日あそびましょうって感じだったかな。最後の歌にはぴったりだと思った。なんだか落ち着く歌。まるで今冒険をしている私達を慰めるかのように。歌い終わり、シルビィと顔を見合わせて笑う。シルビィもすっかり元気になったようだ。私も嬉しい。


「じゃあ、カラオケはおしまいね」

「お姉ちゃん、最後に……」


 シルビィはそう言うと、サンダージャベリンを唱え放った。辺りには青白い閃光で流れ星を見るかのように無数の光を宿したジャベリンが降り注ぐ。この間も夜に見たけど、一段と輝き奇麗に見えた。


「私、最後にこれやってみたかったの。どう?」

「うん、奇麗だったよ。ありがとうね! シルビィ」


 こうして、私達のカラオケは幕を閉じた。


 ------

 【花火って知ってる?】


 大好きなリノンへ。

 夜のサンダージャベリン、きれいそうだね?

 僕も見てみたいよ。


 う~ん……こっちで似たようなものって言ったら、

 花火かイルミネーションかな……。

 花火はそっちにはあるのかな?

 火薬を使って、打ち上げるの。

 色とりどりの花が夜空に咲くんだよ?


 イルミネーションは……そっちにはないかな?

 カジノがあるなら、あんなキラキラしたイメージだよ。

 それがもっときれいに、見えるように作られたものなんだ。


 そっちでのカラオケ、良いかもね!

 二人とも、息抜き出来ることを祈るね。


 じゃあ、またね。

 ------


 その日の夜のユウスケからの返事。やっぱりわからない単語が並ぶ。


「シルビィ、花火って知ってる?」

「ううん。知らないよ」

「う~ん、火薬は分かるけど、あれ奇麗じゃないよね?」

「見方によっては奇麗な感じもするよ?」

「でも、シルビィのサンダージャベリンの方が奇麗な感じがするなぁ」

「うふふ、ありがとう」

「イルミネーションって言うのもわからないなぁ」

「ん~、日記の書き方からすると、私のサンダージャベリンみたいなのかもね」

「そっかぁ……ユウスケの世界でもああいうのあるんだね。見てみたいな……」

「うん! きっと見れるよ!」


 軽くシルビィに励ましてもらい、今日のカラオケの興奮に酔いがさめない二人で夜遅くまで語らった。


 ------

 【こっちの世界でカラオケ~♪】


 大好きなユウスケへ☆

 花火……は、こっちにはないかな?

 火薬はあるけど、白や黄色に光るだけ。

 夜空に花が咲くって、なんだかきれいそうね……。


 それに、イルミネーションっていうのも、

 どんなものか想像できないかも……。

 ユウスケが言うように、きっときれいなんだろうな……。


 ……ねぇ……。

 もし、そっちに行けたら、見せてほしいな……。

 一緒に行こうね☆


 こっちの世界のカラオケ、楽しかったよ!

 シルビィもそうだけど、私も結構歌知ってて……。

 二人でいろんな歌うたったよ!

 ユウスケのカラオケってこんな感じなのかな……って。

 なんだか、元気が出ちゃった♪


 じゃあ、またね~☆

 ------


 翌日の私の日記。声も顔も知らないユウスケ。私はやっぱりユウスケの世界にいきたい気持ちが募る。ユウスケに逢いたい気持ちが募っていく。もう私の気持ちは止められない。絶対待っててほしい。ユウスケの世界に行くのを。そんな想いを巡らせて私は交換日記と閉じる。私の行けない世界に交換日記は私の文字を乗せてユウスケの元に旅立って行く。


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