36話 サンダージャベリンの威力
「お姉ちゃん?」
「あ、シルビィおはよう。具合はどう?」
「うん……大丈夫。昨日はごめんなさい……」
「謝らないで? 私も悪かったから」
「ううん、そんなことないよ? 私、少しでも早くお姉ちゃんの役に立ちたかったから……つい……」
「無理しないで? 今日は休みましょ?」
「……ありがとう」
シルビィは私の事になると頑張り屋さんだから。私が気を付けてあげないとダメかも知れない。『魔力の源』は当分飲ませたくないけど、シルビィから取り上げるのも忍びない。シルビィの体力が回復するのを待ちつつ、今日は宿屋で一日を過ごした。夕方ごろになると、交換日記が光りだしユウスケの返事が届いたことを知らせる。シルビィの事を気にしつつも私は交換日記に手を伸ばす。
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【あまり無茶しないでね……心配になるから。】
大好きなリノンへ。
……一体僕は何を覚悟すればいいのさ……。
でもね。
僕は一途な人だから。
リノンだけだよ?
……多分ね…「達」っていうのは、
ダンジョンの攻略の方で……。
魔導書は魔法が使えるリノンが使うと思ったんだと……。
……そっかぁ……まだ使ったことが無いんだ……。
でもさ。
シルビィって、リノンの事とっても好きなんだと思うな。
自分の体を犠牲にしちゃうのは良くないけど……。
無理しすぎちゃうタイプじゃない?
だから、リノンもシルビィの事、大切にしてあげてね。
一緒の仲間だから!
一緒にさ…魔王を倒すんでしょ?
あまり無茶せずに、ほどほどに頑張ってね。
リノンが無茶すると…僕も心配になるから…。
じゃあ、またね。
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「……」
ちょっとヤキモチ。シルビィの事いっぱい書かれてる。でもそれは仕方がない。私はシルビィに悪いことをしてしまった。そう感じている。シルビィが私の事を好いていてくれるなら尚更。私だってシルビィに無理はしてほしくない。だから……ゆっくり休んでいてほしい。そう願いながら私は交換日記を閉じた。
「お姉ちゃん!」
「あ、シルビィおはよう。休めた?」
「うん! だいぶ良くなったよ! そうそう、サンダージャベリン今日なら打てそうだよ? 試したいんだけど、良いかな?」
「うん、良いよ!」
シルビィの顔色も良くなっていることがわかる。今日はサンダージャベリンの試し打ちをすることにした。街を出てトラのモンスターが闊歩している所。私は囮になってトラのモンスターを寄せ集める。動きが素早いトラはこちらが油断すると一撃を食らいかねない。タイミングを見計らいシルビィに合図を送る。
「今よ!」
「……サンダージャベリン!!」
シルビィがそう叫ぶと、黒い雲が空を覆い帯電した稲光と発散時の音を立てる。そして無数の稲光がまるでジャベリンの様にモンスター達に突き刺さる。その光景は今まで見た雷よりも美しく、奇麗に輝いていた。数十頭いたモンスターはそのジャベリンに薙ぎ払われる。
「奇麗……だね」
「うん……そうだね」
その光景の余韻に私とシルビィは酔いしれる。雷撃を放った黒い雲はすぐに霧散して、辺りに日差しが立ち上る。今までいたモンスターの群れも静寂と焦げた匂いを立ち上げていた。ふとシルビィを見ると顔を蒼白にしてゆっくりと倒れ込むところだった。
「シルビィ!?」
私は咄嗟にシルビィを抱きかかえ、倒れないように支える。魔法を覚えていきなりこの放出だ。きっとその反動に耐えられなかったのだろう。また無茶をさせてしまった……私の脳裏に走る。
「ありがとう、お姉ちゃん」
「シルビィ。また無茶を」
「ううん。これ慣れないとだよね? 私頑張るからさ」
「頑張るのは良いけど、無茶はしないでね」
「うん、わかってる。慣れるために特訓させてね!」
シルビィの受け答えがどんどんしっかりしていく。魔法放出の一時的なショックだったようだ。私もその様子を見て安心する。でも今日このまま特訓するわけにもいかない。
「シルビィ、今日は休みましょ?」
「え? 私まだ平気だよ?」
「ううん。特訓はまた明日。これ以上体調悪くしたら大変だからね」
私はなだめるようにシルビィを説得する。説得に応じたシルビィと一緒に宿屋に向かい休息をとることにした。シルビィをベッドに休ませると、私は交換日記の返事を書くのに筆を執った。
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【サンダージャベリン、すごかったよ!!】
大好きなユウスケへ☆
……さぁ、何でしょうね♪(^_-)-☆
えへへ……なんだか、そういわれると嬉しいな♪
んっと……まぁユウスケの言う通りかも……。
そういえば、「あなたじゃないんですか?」って、言われたけど…。
私、はじめっからその気なかったからな……(-ω-;)
んで、魔法の効果だけど、全体攻撃で雷のジャベリンが一斉に飛び出してくるの~☆
いっぱいモンスターが居るところで使ったら、瞬殺で楽しかったわよ~☆
……でも、またシルビィに無理させたかも……。
なれない魔法で疲れちゃったみたい……。
それでも、薬は毎日飲むって決めてるみたいで……。
……頑固なのよね……あの娘……(-ω-;)
少し休ませてあげたいけど、なかなか……ね……。
じゃあ、またね~☆
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まだ『魔力の源』を飲み続けているシルビィ。本当に無理させたくないけど、私の事になると頑固で無茶するから。少しずつでも魔法の反動を慣らしていかないといけないこともよくわかる。けど無茶だけはしてほしくない。そう思いながら私は交換日記を閉じる。優しい光に包まれながら、交換日記の内容がユウスケに届くのを見送った。
「シルビィ! 今よ!!」
「サンダージャベリン!!」
私達は街のそばで、シルビィの魔法特訓をしていた。特訓と言っても魔法の放出に耐えられるように繰り返し魔法を打っているだけ。回復薬も買い占めて魔力が空になったら回復して魔法の放出を感覚で覚える。そんな事を繰り返していた。幸い回復薬はさわやかな飲み心地なので、気分転換にはうってつけかもしれない。
「それにしても……すごい威力ね」
私は雷で焦土と化した周りを見渡す。この辺のモンスターであれば一網打尽に出来るほどの威力。確かに使い方を間違えれば脅威になりかねない。長年封印されていた理由もよくわかるような気がする。
「お姉ちゃん、だいぶ慣れてきたよ!」
「うん! でもシルビィ、顔に疲れが出てるよ? 今日は休みましょ?」
「ありがとう。ごめんなさい……」
「なんで謝るの? シルビィは頑張り過ぎだから。少しは休みましょ?」
「は~い」
ちょっと不満そうなシルビィと宿屋に戻る。気丈に振舞っているとは言え、宿屋に着くとシルビィはすぐに眠ってしまった。疲れ、溜まってそうだな……。なんかいい方法でもないかと考えながら、ユウスケから返事の届いた交換日記を広げる。
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【息抜きにカジノ……は、ダメかぁ……。】
大好きなリノンへ。
……気になるけど、まぁ、いいや……。
それにしても、サンダージャベリン、すごいね!
さすがに伝説なだけあるね……。
……どんな魔法か想像できないよ……。
……誰かさんも頑固だと思うけど……。
でもさ、たまには息抜きしたら?
前にカジノ行きたいって言ってたけど……。
……お金かかわるからやめた方がいいかな……。
なんだか、リノンも落ち着く事をすれば、シルビィも休めるんじゃないかな?
リノンが頑張っちゃうと、自分も頑張ろうって……。
だから、二人で息抜き出来ること考えてみて?
じゃあ、またね。
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カジノ……お金に余裕はあるけど今はいいや。私の落ち着く方法かぁ……ユウスケの交換日記の内容を思い浮かべながら、私の落ち着く方法を考えながら眠る。
「お姉ちゃん?」
「あぁ、シルビィ、おはよう!」
「って、もうお昼じゃない?」
「そうよ。だってシルビィ疲れてたみたいなんだもん。ゆっくり寝かせてあげたかったから」
「でも、特訓……」
「いいのよ。未だつかれてるなら休んでも良いよ?」
「ありがとう。でも私特訓したい!」
ゆっくり寝かせてあげたこともあって、シルビィの顔色は良い。今日ならもう少し特訓してみてもよさそう。シルビィの願いに応えて街の外で特訓を開始する。そして日も落ち辺りが暗くなったころ。
「サンダージャベリン!!」
シルビィの放ったサンダージャベリンは闇に浮き出て、昼間見たよりも奇麗に輝く。無数の光を帯びたジャベリン。まるで流星が降り注ぐかの様に……。
「シルビィ、凄い!! 奇麗ね!」
「うん! 夜だと光が無いから、映えるね!」
私達はその景色を目に焼き付けて、宿屋に帰る。今日見た景色はユウスケとも一緒に見てみたい。そんな想いをはせて。今日もシルビィは『魔力の源』を渋い顔で飲み干して、布団で眠る。そんなシルビィが疲れが溜まっているように見えて仕方がない。シルビィが休める方法……私が落ち着く方法……。そうだ!
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【今はカラオケやってみたいなぁ……。】
大好きなユウスケへ☆
そうなのよ!
ちょっと試しに、夜にサンダージャベリン使ったら、
キラキラ光っててきれいだったよ~☆
ユウスケのところは、雷の日じゃないと、こんな景色見れないのかな……。
見せたいけど……難しいわよね?
カジノ……前は行きたかったけど、
今はどちらかというと、カラオケに行きたいな……。
……まぁ、こっちにはないけどね♪(笑)
そうだ!
シルビィと歌でも歌ってみるね。
昔聞いた歌を二人で歌ってみる~☆
ちょっとしたカラオケかもね♪(^_-)-☆
じゃあ、またね~☆
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ユウスケから聞いていたカラオケって言うのをやってみたい。明日の予定はこれで決まり。私は交換日記をそっと閉じ、光を見送った。少しだけ。少しだけ、ユウスケと同じことをしてみたい。そんな気持ちもあった。