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35話 魔力の源

 私とシルビィは無事サンダージャベリンをシルビィが覚えたので、元居た街まで引き返した。魔王の城も近く、教えてくれた人へのお礼も言いたかった。また飛空艇に乗りたかったのもあるけど……。


「今度は寝過ごさない!」

「そうね……」


 ちょっとシルビィが元気なく答える。あれ……どうしちゃったんだろう? 心配になり私はシルビィの顔を覗き込む。少し顔色が悪いようだ。


「シルビィ……気持ち悪そうだけど……」

「ううん、大丈夫だから」


 私が話しかけると、元気を取り繕う。どことなく心配になったけど、無理に聞き出すことは野暮と思い、シルビィが言ってくれるまで待つことにした。飛空艇は今まで居た街を置き去りにして、どんどん目的地に向かう。順調な空の旅になりそう。乗り込んでしばらくすると、目的地の街が近づいてくる。私は身を乗り出し着陸の様子を見る。シルビィも少し元気を取り戻したようで、私と一緒に外の景色を見る。


「すごいね……お姉ちゃん」

「うん、じゃあ、そろそろ着陸ね」


 私とシルビィは着陸の様子を見守る。どんどんと近づいてくる街の景色。そこにゆっくりと降り立つ飛空艇。またあの街に戻ってきたんだと、心高鳴る。何度乗っても飛空艇は楽しく感じた。そして飛空艇は止まり、私達は大地を踏みしめた。


「シルビィ、また乗りたいね」

「うん! でも魔王倒すまでは乗る機会無さそう……」

「じゃあ、魔王倒したら、飛空艇で私達の街に帰ろうか?」


 そんな話をしながら、宿屋をとり今日の疲れを癒す。飛空艇に乗っただけだけど、なんとなく疲れた感じがした。宿で落ち着いたところで、私は交換日記を取ろうと手を伸ばそうとした時、またシルビィの表情に陰りが見えたので、私はシルビィに話しかける。


「シルビィ、どうかしたの?」

「い、いや、何でもない!」


 シルビィは荷物から何かを取り出していたが、それを後ろ手にして私から隠す。私に見られたくないものなのだろうか?


「お姉ちゃん! それより交換日記!」


 シルビィは全力で話をそらした。仕方なく私は言われるがまま、交換日記を取り出しユウスケの返事を見る。


 ------

 【魔剣士の誕生だね!】


 大好きなリノンへ。

 そっちの近況聞けて、なんだか嬉しいよ!


 魔導書、手に入れたんだね?

 前置きしとくけど……無駄なやきもちは妬かないように……。

 シルビィ、魔剣士の誕生だね!

 リノンのパーティーも強力になったんじゃないかな?

 でも……シルビィにあまり無茶させないようにね……。


 サンダージャベリンってどんな魔法なの?

 効果とか、その世界ではどういうものなのか、知りたいな……。

 ……なんか、伝説の魔法のような気もしてきたけど……。


 じゃあ、またね。

 ------


「……」

「お姉ちゃん?」

「……」

「お姉ちゃんってば!」

「ううん。何でもない」


 明らかに機嫌の悪い雰囲気を醸し出す私。それを察して心配するシルビィ。……情けないことに機嫌の悪い理由はシルビィなんだけど。私はユウスケがシルビィの事ばかり書いててそれにヤキモチを妬く。


「あ~!! シルビィは確かに可愛いけど~!」

「え!?」

「なんでもな~い!」


 私の独り言に反応するシルビィ。私のよくわからない八つ当たり。私は心の中でゴメンと言う。意味不明だよね……シルビィにとっては……。私は交換日記を投げ出し、ベッドで丸くなる。今日はヤキモチの気持ちで眠ることにする。


「おぉ、勇者様。無事に賢者様の魔法を手に入れたのですね?」

「はい! この通り、覚えましたよ!」


 私は賢者の末裔と言う老人にお礼を言いに来ていた。魔法を覚えたとの証拠でシルビィの左手をつかんでステータスを見せる。その腕のステータスを見て老人は目を丸くする。


「え……あの……」

「はい?」

「その……勇者様が魔法を覚えたのではなく?」

「そうですけど……」

「そう……ですか。私はてっきり勇者様が覚えるのかと……」

「いや、私は魔法使えるんで、シルビィに覚えてもらいたかったので……」

「えっと……女……剣士様ですよね?」

「はい、そうですよ?」

「……分かりました」


 なんだか驚きを隠せないご老人。私がその魔法を覚えるとでも思ってたのかしら? そんなわけないのになぁ。そう思いながらお礼を言って、宿屋に戻る。その道すがらシルビィは私に話しかけてくる。


「お姉……ちゃん?」

「なあに?」

「いや……何でもない……」

「気にしてるの?」

「うん……」

「大丈夫! 気にしないで!」


 シルビィは先程のご老人の事を気にしてか、申し訳なさそうな表情を作っている。シルビィが気にすることではないのに……。そして宿屋の部屋に着くと、私は交換日記を取り出して、今日の日記をつける。


 ------

 【サンダージャベリンって、伝説の魔法だよ~☆】


 大好きなユウスケへ☆

 ……ちょっと……いや、かなり…嫉妬したけど、

 まぁいいわ……。


 サンダージャベリンって魔法は、昔封印された魔法なんだって~。

 その所在は今まで誰もわからなかったけど、私達が見つけたの。

 もちろん、街とかで情報収集してだけど……。


 「簡単に魔法を覚える方法ありますか?」


 って、聞いて回ってたら、難しいけどあるって、知ってた人が居たの。

 歴代の勇者たちも見つけられなかったそうよ?


 でね~、その人にお礼に行ったらね……。

 てっきり私が覚えるものだと思ってたみたい~☆

 そんなわけないのにね!

 びっくりした顔、今でも思い出すなぁ……。


 効果は次に書くね。


 じゃあ、またね~☆

 ------


 ちょっと誇張。少しくらい良いよね? ヤキモチ妬かされたんだし。そして私は交換日記を閉じてユウスケの元へ届くのを見送る。ふと、シルビィを見ると、何やら渋い顔をしている。どうしたんだろう?


「シルビィ?」

「う、ううん。何でもない!」

「本当?」

「うん、大丈夫! 気にしないで!」


 ここの所、シルビィの様子がおかしい。何があったんだろう……。シルビィの様子を気にしながら私は眠る。


「シルビィ?」

「う、う~ん」

「シルビィ? シルビィが寝坊なんて珍しいわね?」

「あ、お姉ちゃん、おはよう!」

「シルビィ……最近様子が変だけど、大丈夫?」

「うん、平気。そうそう、もう少しでサンダージャベリン使えそうだよ!」

「おお! よかったね! シルビィ頑張ったもんね!」


 私はシルビィを抱き寄せ、頭を撫でる。あれ? シルビィ体が少し震えてる……。私はシルビィの体調を気にして、おでこに手を乗せる。


「ねぇ、震えてるよ? 風邪?」

「い、いや、大丈夫だから!」


 そう言うと、私の手を振り払い、ふせぎこむシルビィ。何度なく顔が赤くなった。やっぱり熱でもあるのだろうか?


「今日はお休みにしよ?」

「え?」

「シルビィ、具合悪そうだから。ゆっくり寝てて!」

「ありがとう……お姉ちゃん」


 こうして、今日は休むことにした。夕暮れ時になり交換日記が光りだす。ユウスケからの返事だ。私は手を伸ばし、新しく書かれたページに目を落とす。


 ------

 【その根性、分けてほしい……。】


 大好きなリノンへ。

 魔法の事、ありがとう。

 効果はまた教えてね。


 ……教えてくれた人の顔は、僕も想像できるよ……。

 きっと、リノンの実力を見込んで、教えてくれたんじゃないかな……。

 そりゃ、剣士に覚えさせたら驚くよ!!


 歴代勇者に見つけられなかった物を見つけるなんて、凄いね!

 ……人見知りっていうけど、それを補うだけの根性が、リノンにはありそうだね……。


 どんな魔法か聞きたいな。

 もう使ってみたの?

 威力とかも聞いてみたいかも?


 じゃあ、またね。

 ------


 ……まぁ、確かに……。魔力の無いシルビィに魔法を覚えさせたら驚くよね……。そういえばシルビィ、『魔力の源』どうしてるんだろう? 気になりシルビィを見ると、苦い顔をしていた。『魔力の源』を握りしめて震えてる。……もしかして。


「シルビィ?」

「ひゃい!!」

「『魔力の源』無理して飲んでない?」

「だ、大丈夫!! 多分今日飲めば、明日にはサンダージャベリン使えるから!」

「そ、そう? この薬って、ものすごく苦くなかった?」

「そ、そうだけど……大丈夫!」

「本当に?」

「うん! 大丈夫だから、お姉ちゃんは休んでて」


 表情的に全然大丈夫じゃなさそう……もしかしてここ最近の不調って、『魔力の源』のせいかも知れない。シルビィもこうなったら強情なので、無理に止めることはできない。仕方なくそんなシルビィを私は見守った。


「う~ん……」

「シルビィ?」

「お姉ちゃん……大……丈夫だよ?」

「全然大丈夫に見えないから!! 今お医者さん呼んでくるから!」

「いや……大丈夫。休めば何とかなるから……」

「……いや、私お医者さん呼んでくるから待ってて!」


 シルビィの容体が悪そうなので、私はギルドのお医者さんを連れてくることにした。シルビィ……待っててね。ギルドに行き事情を話して、お医者さんに来てもらう。そしてシルビィを看たお医者さんはその内容を口にする。


「『魔力の源』を飲みすぎですな。この薬は魔力の底上げはしますが、無理やり上げる形なので、体に負担が生じたのでしょう。飲みすぎもよくないですよ?」

「そう……ですか……」

「一日休んでください。それと飲む量はちゃんと見ること。無理して飲まない事。いいですね?」

「分かりました……言って聞かせます」


 予想的中。シルビィは『魔力の源』を飲みすぎて、体に負担が出てしまったようだ。シルビィも頑固だから、そう言う無理はしてしまう。分かってはいたけど……。お医者さんがギルドに戻ってから、シルビィは話しかけてくる。


「お姉ちゃん……ごめんなさい……」

「ううん。気にしなくていいのよ。それより無理はしちゃダメよ?」

「は~い……」

「……本当、ちゃんと言ってくれればよかったのに」


 私はシルビィの横になって居るベッドに寄り添って座り、シルビィの頭を撫でる。本当、無茶しちゃう妹分だな……と。そういうところがどことなく私にも似ている。最初は人見知りから。今は頑固者。どこまで行っても私達は似た者同士なのかも知れない。それが二人を引き寄せる絆なのかも知れない。シルビィが眠りにつくまで、私はシルビィの頭を撫でていた。


 ------

 【シルビィに無茶させたかも……反省……。】


 大好きなユウスケへ☆

 へへへ☆

 私ね。

 執念深いの。

 だから、ユウスケ、覚悟しててね♪(^_-)-☆


 ……うん、確か教えてくれた人、「勇者様達なら」って、言ってたよ?

 「達」だからシルビィでもいいと思うけど……(-ω-;)


 サンダージャベリンはまだ使えないの。

 シルビィの魔力がやっと、使えるようになったところだけど……。

 ……薬で寝込んじゃった……。


 シルビィって、私をお姉さんのように慕ってくれてて、私のためなら無茶しちゃったりする娘なのよね……(-ω-;)


 今回は無茶させちゃったかな……。

 ……反省……。


 だから、効果はシルビィが使ってみてから、教えるね~☆


 じゃあ、またね~☆

 ------


 今日の日記。シルビィに無茶させたのを猛省……。気が付かなかったとは言え、私に責任がある。優しくて私の事になると、無理して頑張っちゃうシルビィ。愛おしいけど無理はしないでほしい。そういう想いを込めて、私は交換日記をユウスケに送る。


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