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34話 サンダージャベリン

 翌朝。シルビィと私は洞窟のそばにある村へ向かう。トラのモンスターの猛攻にも負けず進んでいく。このあたりのモンスターはなんだか強い。今まで経験したよりも歯ごたえがある。レベルが上限近くにもあるにも関わらず。魔導書をこの地に封印したのもうなずける。私とシルビィは若干の苦戦を強いられながらも、前へ前へと進んでいく。日の落ちるころには村へと到着し、宿を借りる。


「お嬢さん達、こんな辺鄙な村までようこそ。冒険者が来るなんてかれこれ久しいよ。目的は洞窟かい?」

「はい。そうです」

「そうか……。この辺のモンスターは強いから、苦労したろう。怪我とかはないかい?」

「大丈夫です」

「ならよかった。目指す洞窟はとても強力なモンスターが居ると聞く。辺鄙な村だが装備は充実してるよ。ここで装備を整えて、出発するのをお勧めするよ」

「ありがとうございます」


 宿屋の主人に心配されながらも、新たな情報を手にする。洞窟のモンスターは強いらしい。明日一番で武器屋に行って、新しい装備を新調することにした。……主にシルビィの装備だけど。私は装備を変えることは無い。ユウスケの……アドバイスで新調した装備だから。そして交換日記に手を伸ばす。ユウスケの返事はすでに来ていた。新しいページに私は目を落とす。


 ------

 【時間を忘れちゃったよ。】


 大好きなリノンへ。

 今日は水族館のこと書くね。


 水族館で、色々見てきたよ。

 気が付いたら、ほぼ一日ずっと水族館にいたよ。

 僕の好きなジンベイザメは、おとなしい魚で、ほかの魚の群れと一緒に飼育されてるんだ。

 群れの中をゆったり泳ぐジンベイザメは、僕には魅力的に感じるんだ……。

 リノンにも見せてあげたいと思ったよ。

 だから、一緒に行こうね。


 魔法の事、あまり無理しちゃダメだよ?

 寄り道ってことは、強力な魔法なのかな?

 そのことも教えてね。


 じゃあ、またね。

 ------


「ジンベイザメ……どんなお魚だろう?」

「お姉ちゃん、どうしたの?」

「うん、ユウスケがジンベイザメを見てきたんだって。知ってる?」

「知らないなぁ……どんなお魚だろうね?」

「もし、向こうの世界に行けたら、見に行きたいな……」

「うん! 大丈夫だよ。きっと!」


 シルビィに励ましてもらいながら、私は交換日記を閉じて眠りにつく。シルビィも同じベッドに入ってきて眠る。私の可愛い妹分。これからシルビィにも魔法使えるようにしてあげるから……。優しくシルビィを抱きかかえながら私は眠りに落ちた。


「ここ……ね?」

「うん、印の所。確かに洞窟あるね?」

「シルビィ、ちょっと待っててね」


 武器屋でシルビィの装備を新調し、地図に印を付けてもらったところに到着する。洞窟の入り口は鍵で閉ざされており、私は賢者の末裔から貰った鍵をかざす。すると魔法が発動し、鍵は外れ扉が静かに音を立てながら開く。


「準備は良い?」

「いつでも大丈夫だよ! お姉ちゃん!」


 そして私達は洞窟へ突入する。中には骸骨の剣士が無数に徘徊していた。まだ見たことも無いモンスター。毒は……効かなさそう。私は毒針を構えると、骸骨の剣士にとびかかる。繊細な毒針。骸骨の剣士はひらりひらりと躱していく。なかなか攻撃が当たらない。


「なかなか強いわね……」

「私に任せて!」


 シルビィはそう言うと、骸骨の剣士達の中に突進していく。やはり装備の違いは出るようで、シルビィは次々と骸骨の剣士を砕いていく。時には骸骨に一撃。時には剣ごと弾き飛ばし。時には盾ごと粉砕し。シルビィの活躍が見える。


「シルビィ、お見事ね」

「えへへ☆ 剣士相手ならこんなものよ?」

「じゃあ、私も……」


 私も負けじと骸骨の剣士に戦いを挑む。毒針はピンポイントでしか威力を発揮しないので、出来るだけ関節を狙って攻撃する。針先はなかなか骸骨をとらえることはできない。少しずつ戦闘で慣れていく私。毒針の先は骸骨の剣士の首辺りの骨……うなじ辺りの骨に直撃する。頭と胴体が分断された骸骨の剣士は地面に倒れ込み、動かなくなる。


「こう……戦えばいいのかな?」

「……多分この相手だと、お姉ちゃんの武器、相性悪いと思う」

「いいのいいの! このままいくよ!!」


 どれくらいぶりだろう。洞窟を散策するなんて。見た目以上に広い洞窟。きっと半分くらいだろう、散策を終えると村の宿屋に戻った。そして交換日記を開き私の日記を綴る。


 ------

 【水族館の話、後でいっぱい聞かせて?】


 大好きなユウスケへ☆

 うん……水族館、楽しそうね……。

 私も行ってみたいな……。


 もう少ししたらね、魔王城に着くの。

 魔王城のそばで、経験値稼ぎするから、その時にゆっくり聞きたいな……。


 そして、近況だけど、魔導書の洞窟まで来ました!

 モンスターも骨があるのばかりで、やりがいがあるの~☆

 ……骨のモンスターもいるんだけどね……(笑)

 骨のモンスターは、汚れなくていい感じなの♪


 あと、トラのモンスターは人気みたいね?

 いろんなところで出てくる~。


 血まみれのリノンちゃんを応援してね~☆


じゃあ、またね~☆

 ------


「骨だけに……ね」

「うん、そうだったね」


 私の独り言にシルビィは相槌を打つ。確かに私の武器とは相性が悪くて苦戦したけど。私は武器を変えたくない。ユウスケがアドバイスして、私が選んだ武器だから。このまま魔王の所まで行こうと思う。交換日記を閉じて、ユウスケの所に返事が届くのを見送った。


「ここが洞窟の奥ね……」

「お姉ちゃん、あれ!」


 洞窟に潜入し、最深部まで来ていた私とシルビィ。シルビィが指さす方向には、光り輝く本が置かれていた。私が近づいて取ろうとする。すると骸骨の剣士が3体、舞い降りてくる。今まで洞窟内で倒してきたモンスターよりも風格が違う。明らかに今まで居たモンスターよりも強いのがうかがえる。私とシルビィが武器を構えると、中央に居る骸骨の剣士が語り掛けてくる。


「大賢者様より預かったこの地。そなたがこの魔導書を手にするに相応しい者か、見極めさせて貰う。いざ!」


 そう言うと、骸骨の剣士が襲ってくる。武器の相性がいいシルビィは脇に居た2体を。私は語り掛けてきた剣士を相手にする。シルビィは剣術格闘に慣れており、1体を頭から両断し、もう一体を相手にしている。私は放った毒針の一撃を盾で受け止められる。シルビィはその間にもう一体を横切りするも盾ではじかれる。盾で受け止められて一時的に動けなくなった私に骸骨の剣士は剣で一撃を与えようとする。その間にシルビィは盾ではじいて体勢を崩した骸骨の剣士に一撃をおみまいし、シルビィ分の2体を平らげる。私は振り下ろされた剣を反対に持った毒針でいなして喉元に毒針を突き立てる。骸骨の剣士に隙が出来ていたので、これがヒットして骸骨は崩れ落ちる。


「お見事……私達の役目も終わった。魔導書を手にするといい」


 私の前で崩れ落ちた骸骨の剣士はそう言って、無言になる。言われた通り私とシルビィは本の前まで歩みを進める。


「シルビィ、本を取ってみて?」

「わかった」


 青白く光りを放っていた魔導書をシルビィが手にする。すると魔導書は光を放つのをやめてシルビィの手に収まる。手にした瞬間に魔法を覚えるわけではないらしい。


「シルビィ、魔導書を読んでみて」

「うん!」


 シルビィが魔導書を開くと、再び光を放ちシルビィの体を包む。そして魔導書のページがパラパラと自然にめくられる。シルビィは体が硬直したかの様に、そのページに視線が釘付けになる。最後のページがめくられ、魔導書は静かに光を放つのをやめる。硬直から解き放たれたシルビィは、目を見開いたままその場に膝をつく。


「シルビィ!?」

「……」

「シルビィ!?」

「あ、お姉ちゃん。大丈夫だよ。魔法……覚えたみたい」


 そう言うとシルビィは腕のステータスを見せる。腕のステータスはほのかに光ると新しい魔法『サンダージャベリン』の文字が浮き出てきた。シルビィが魔法を覚えた瞬間だった。私はシルビィに抱き着くと、手をシルビィの頭に回し、優しく撫でる。


「おめでとう! シルビィ!」

「……ありがとう、お姉ちゃん」


 シルビィも私を強く抱きしめる。良かった……これで、私の魔法も……。私が次の言葉を言いかけたその時、シルビィは申し訳なさそうに私に言う。


「ねぇ、お姉ちゃん。残念なお知らせが……」

「ん? どうしたの?」

「私……魔力も増えたけど、まだこの魔法使えないみたい……」


 とりあえず、シルビィは魔力を獲得したようだが、それは僅かでサンダージャベリンを使えるほどではなかったらしい。


 ------

 【血まみれのリノン】


 大好きなリノンへ。

 うん、わかった。

 水族館の話は大事に取っておくね。


 あまり無理しちゃダメだよ?

 横道で強力な魔法なら、敵も強いと思うから……。

 気を付けてね?


 それに、リノンの装備もちょっとこころもと無いから……。

 レベルの強さに頼りっきりにならないようにしてほしいな。


 ……骨……、ちょっと笑っちゃった……。

 なんか、リノンが生き生きしてるところ見ると、こっちも元気が出るよ。

 血まみれのリノン、応援してるよ!


 じゃあ、またね。

 ------


 その夜に来たユウスケの返事。大丈夫。レベルにかまけておろそかにして無いから……。そして私の冗談を笑ってくれて嬉しい。無理はしてないよ? 大丈夫だから心配しないでほしい。応援……嬉しい。私、きっとユウスケの世界にいくからね! 待っててほしいな……。


「え?」

「だから、私、魔法をを覚えたんです!」

「は、はぁ……」

「魔力が欲しいんですが、何か方法はありますか?」


 私はシルビィと街のギルドに来ていた。シルビィのステータスを半信半疑で見るギルドの人。魔力を上げる方法を聞きに来ただけなのに……ちょっと面倒なことにになっている。ようやくギルドの人は納得してくれたようで、私達の疑問に答えを出してくれる。


「でしたら……この『魔力の源』を飲んで、増やすことが出来ます」


 ギルドの人が持ち出した魔法の小瓶を見ると、魔力の源と書かれていた。私はこれに飛びつく。


「これ、あるだけ下さい!」

「え? これ結構お高いですけど……」

「お金ならたくさんあります!」


 私は今まで戦闘で蓄えてきたお金を見せ、ギルドにある『魔力の源』を買い占めた。これで……シルビィにも魔力が……。ギルドの人にお礼を言うと、宿屋で試飲会をする。まずはシルビィが『魔力の源』を一気に飲み干す。そして、渋い顔をして私を見る。


「これ……苦い……」

「そう……なの?」


 渋い顔をしたシルビィに手渡され、私も一気に飲み干してみる。!? とても苦い……。これを買い占めただけシルビィに飲ませるのは、心忍びない。そう思っていると、シルビィはもう一本飲み干す。


「シルビィ、無理しなくてもいいから……」

「いいの! 私、頑張る!」


 苦い『魔力の源』をシルビィは我慢しながら飲み干していく。


「シルビィ、あのぉ……」

「だ、大丈夫!」


 10本ほど飲み干した時、シルビィは倒れこんでしまう。そんな……無理しなくてもいいのに……。


「シルビィ……」

「……大丈夫。これもお姉ちゃんのため、世界のためだから」


 そんなに使命感を負わなくても……私はそう思いながら、シルビィの根性に感服する。シルビィはうなされながらベッドの布団にくるまる。私はシルビィの頭を優しく撫でながら、シルビィに寄りそう。


「お姉ちゃん、良いよ。交換日記書いて」

「でも……」

「交換日記の人待ってるから。お願い」

「ありがとう」


 シルビィに言われて、私は今日の事を交換日記に綴る。


 ------

 【シルビィ、魔法覚えました!】


 大好きなユウスケへ☆

 うん♪

 今日はこっちの話をするね☆


 えっとね……一応、魔導書は手に入れたの。

 そしてね、シルビィに読んでもらったの。

 なんと、「サンダージャベリン」って、すごい魔法を覚えちゃったの!!

 街でギルドにプロフィール渡したら、シルビィ2度見されてたわ(笑)


 でも、魔力はちょっとしか上がらなかったから、

 今シルビィに、頑張って「魔力の源」って薬を飲んでもらってるの。

 魔力アップする薬なんだ~☆

 でも、味がとても苦いらしくて、

 うなされながら飲んでる~(^_-)-☆


 じゃあ、またね~☆

 ------


 ……。ちょっと軽いけど、あまりユウスケにシルビィの心配をしてほしくない。これは私とユウスケの日記なんだから! シルビィには申し訳ないけど……こんな内容で、ユウスケに返す。交換日記を閉じると、いつもの光りのはずなのに、なぜか憐れむように見えたのは気のせいだろう。


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