31話 魔王の情報
温暖な地域。私はトラのモンスターをひたすら狩っていた。来るもの来るもの全てを。私のドレスは鮮血で染まっていく。そして私の頭の中も不安の色で染まっていく。私はトラの鮮血を浴びながら、無心に殲滅して行く。不安で染まる心を鮮血で洗い流すかのように……。
「このあたり、そこそこ経験値効率良いわね。暫くここで狩りしようか?」
「お姉ちゃん……」
「ん?」
「……何でもない♪ ほら、次の街見えてきた! 急ご!」
今の私。少しおかしいのは一番私が理解している。シルビィに余計な気を遣わせながらいるのが心苦しい。街の宿をとりシャワーで今日の汚れを落とす。返り血で真っ赤に染まるシャワーの水。それをぼーっと見て複雑な気持ちを交錯させる。排水溝に流れていく返り血は透明な水へと変わっていく。私の心と裏腹に……水は澄んでいく。お風呂から上がるとシルビィが心配そうに私を見る。私はそれを横目に交換日記を手にする。ユウスケ……今日は何を書いてくれたかな……。新しいページに目を落とす。
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【僕の冒険……。】
大好きなリノンへ。
うん、僕も信じるよ……。
食を求めて冒険……なんかかっこいいね!
でも、うちの店長のは、リノンの想像とは違うよ……。
だって、「甘い物としょっぱい物、交互に食べるとおいしいなら……!」
とか言って、混ぜちゃったんだよ?
試食した僕の身にもなってほしいよ……。
……まぁ、僕もちょっと味を期待したんだけどね……(笑)
冒険……そっかぁ……。
バイト代でどっか行ってこようかな……。
魔王城、目指して頑張ってね!
そのうち、きっと情報入るからさ。
じゃあ、またね。
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「うふふ……」
固まっていた気持ちが少し緩む。もしかしてユウスケも私と同じように空元気なのかも知れない。けど一生懸命励ましの言葉をくれる。少しだけ。少しだけ勇気を貰ったような気がする。
「ユウスケの……冒険かぁ……」
ユウスケも頑張っているんだと思う。自分の冒険を探している。私は私の使命がある。ユウスケに同じような使命があるのかはわからない。けど……私の使命を果たすことで見えてくることもあるかも知れない。ユウスケも……自分の冒険を果たしてほしい。そんな願いを私は胸の中で祈る。
「お姉ちゃん。少し元気になったみたいね」
「うん……心配かけてゴメン……」
「……良いんだよ? それもお姉ちゃんなんだから」
「……」
「いつでも相談してね? 私待ってるから」
「ありがとう……」
「そうそう、明日なんだけど、この街のギルドに行ってみない? 魔王の情報あるかも知れないし」
「そうね。そうしましょうか」
「うん♪」
翌日。私とシルビィは情報を仕入れるために街のギルドに向かった。魔王の情報を求めて。私の物語も終盤だろうから、そろそろ情報が欲しい。一途の期待と、終盤に向かうにつれて大きくなる不安を抱えながら、ギルドの門を叩く。
「ようこそ! 冒険者様。こちらにサインとレベルを記入してください」
「これでよろろしいですか?」
「はい! ……え? ちょっと腕のレベルを確認させてもらっていいですか?」
「はい、どうぞ」
前にもこんな事があったと既視感を抱きながら、腕を見せる。ギルドの人は確認するとやっぱり私の事を二度見してきた。そんなにレベル上げすぎたかなと首をかしげながら、ギルドの人の対応を待った。
「失礼しました! 勇者殿。魔王の情報ですよね?」
「はい、そうです」
「我々も調査した結果、魔王の拠点を断定しました。えっと……」
「あ、地図ならここに。印付けてもらえますか?」
「分かりました。ここになります」
ギルドで最有力な情報を得て、ギルドを後にする。シルビィが少し興奮した様子で話しかけてくる。
「お姉ちゃん……ついに……」
「うん、そうね……」
「……これからどうする?」
「もう少しこの街に居ましょうか? 少しここに居たいから」
「うん、わかった」
そうして、私達は街の外で戦闘をした後、宿屋に戻る。私は交換日記が消えてしまうことに大きな不安を感じていた。そして、ユウスケに逢えるかの情報は依然として入ってこない。このまま私とユウスケのエンディングは来てしまうのだろうか。私は交換日記を広げて今日の日記を綴る。
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【魔王城の情報、入りました!】
大好きなユウスケへ☆
……試食、お疲れ様です……。
……でも、なんか興味があるな……その料理……。
なんか、怖いもの見たさって感じ?
……ちょっとユウスケのお店に入るの怖くなってきた…(笑)
冒険、なんかいいの思いついたら教えてね☆
私もユウスケの冒険話聞きたいな……。
そうそう、ついに魔王城の情報が入ったの~☆
もう少しのところまで来たかな……。
今はね、トラみたいなモンスターと戦っているの。
素早いんだけど、私にかかればイチコロ♪
急所を狙って一撃なんだから~☆
……でも、返り血がね……( ;∀;)
じゃあ、またね~☆
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相変わらず空元気の日記。でもユウスケを同じ気持ち……同じ不安を抱かせたくない。私はそっと交換日記を閉じると、その想いを届けるかのように交換日記は光を放ち、そして儚く光が消えていった。




