30話 苦しい気持ち
私の物語は進んでいく。魔王を倒す冒険は加速してゆく。私の不安をかき消すかのように……私は無我夢中で進めて行く。そして……ユウスケへの気持ちも加速していく。逢いたい……逢えないかもしれない。私の冒険が終わると……永遠にユウスケとは……。そんな気持ちをかき消しながら。積みあがるモンスター達の骸。積み重なる私とユウスケの気持ち。私の中で交錯する。
「お姉ちゃん……」
「……」
「無理……してない?」
「……」
宿屋にて今日の戦闘を見て、心配するシルビィ。何も答えられない私。確かに無茶してるかも知れない。苦しい気持ちをかき消すように……モンスターに当たりながら……。
「ほら、お姉ちゃん、交換日記見よ?」
「……うん」
癒しであった交換日記も、私には重くのしかかってくる……。抑えられなくなってきた気持ち……止めることが出来ない気持ち……溢れ出す気持ち……。交換日記を積み重ねるごとに、気持ちは重くなってくる。
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【店長の冒険。】
大好きなリノンへ。
……リノン以外にはそんなこと言いません!!
魔法って、そういう使い道もあるんだ……。
確かに、鎧着て寒い地方に行ったら、普通考えて凍傷になるよね……。
そっちって、こっちには無い便利さがあって、僕からすると不思議に思うよ。
今はどれくらい進んだの?
魔王城の情報ってもう聞けた?
こっちの話しするね。
ファミレスでのバイトだけど、順調だよ。
店長が新しいメニューを出すって、僕に試食させたんだ。
……ちょっと冒険しすぎた味だったから、出すのやめてもらったよ……。
じゃあ、またね。
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「冒険……」
そう、私の冒険の終着点は魔王を倒すこと。そして、その道を進むこと。ユウスケの店長さんも冒険してる……。私は私の冒険を……進める事が今できること。
「元気……出た?」
「うん……」
「じゃあ、今日はお姉ちゃんを抱き枕にして寝る~」
「いやよ、暑苦しい」
「いいじゃない?」
笑みを浮かべながら、シルビィは私のベッドに入り込む。そして優しく抱きしめる。シルビィの温もり……温かい。その優しさも……。私はシルビィの優しさに甘えて眠る。
「今日も行くわよ!」
「うん! お姉ちゃん、無理はしないでね?」
私とシルビィはあれから大分南下していた。すっかり温暖な気候になり、私が見た事も無いようなジャングルが広がる。地図が無いと迷子になりそうだ。襲ってくるモンスターは巨大な蜂の姿をしている。相手も毒針を持っているけど、私も毒針使い。蜂のモンスターは素早さはあるものの私達のレベルにはかなわない。私は毒針を繰り出し、急所に打ち込み、蜂達を蹂躙してく。青い体液を一身に浴びながら……。私のドレスは青に染まっていく。
「お姉ちゃん……」
「なあに?」
「無理してない?」
「ううん。してないよ?」
私は氷の笑顔でシルビィに答える。……感情が……凍ってきてるかも知れない。そうしないと私が壊れてしまいそう……そんな気がする。苦しい。この気持ち……。苦しさを私はモンスターにぶつけていた。
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【冒険は力なり!】
大好きなユウスケへ☆
……だって、ちょっと疑いたくなったんだもん……。
ユウスケ、すごく優しいところあるから……。
ちょっと不安になっただけ。
うん、信じるよ♪
店長さんも冒険に出たの??
冒険に出た人は見守らなきゃダメ!!
だって、冒険すれば成長もあるんだから!
店長さんもきっと、成長したかったんだよ。
だから、店長さんの冒険も見守ってあげてね♪
……店長、女じゃないわよね?(--〆)
今はだいぶ暖かいところに来て、羽虫のモンスターと戦っているの!
……ここでも問題があって……。
私の武器だと、羽虫の体液浴びちゃうのよね…。
じゃあ、またね~☆
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ちょっとヤキモチを醸し出しながら、日記を綴る。やっぱり空元気。ユウスケ……私苦しいよ……どうしちゃったんだろう……。ユウスケもこんな気持ちなのかな……。私だけなのかな……。もし、ユウスケもこんな気持ちなら嬉しいかな? いや、そんな想いをさせるのも苦しい。どうすればいいんだろう……私。そんな私に優しく語り掛けてるかの様に交換日記は優しい光で私も包む。
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【店長はガチムチのおっさんだよ。】
大好きなリノンへ。
信じてくれると嬉しいよ。
だって、この気持ち、伝わらなかったら、僕は悲しいから……。
店長…ガチムチのおっさんだよ……。
年の割に無茶する人で……。
冒険って、食べ物でやったんだよ?
お客様に出したら大変なことになっちゃうし……。
……最悪、店がつぶれちゃうよ……。
でも、冒険は成長って、なんかいい言葉だね。
僕も、リノンのそういうところ、見習いたいな。
僕の冒険って何だろう……?
探すと見つけられるかな……。
戦闘の事、教えてくれてありがとう!
リノンの活躍、聞けたような気がするからね。
また聞かせて?
じゃあ、またね。
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翌日のユウスケからの返事。ユウスケも……同じ気持ちなのかな……なら嬉しいし、半分悲しい気持ちになる。ユウスケも……この気持ちを抱いてるなら……。ユウスケに逢えるヒントもまだない。焦る気持ちも募っていく。本当に……このまま進めることが私達の正しい道なのだろうか? ……いいや。私がしっかりしないとね。このまま歩みを止めない。それが今私に出来ることだから。
「我が名はキラークイーン。勇者よ、ついにここまで来たのだな。魔王に仇なすもの。ここで亡き者にしてくれよう!!」
キラークイーンの根城まで到着。キラークイーンは蜂のモンスターを呼び寄せ、大群で襲ってくる。一斉に向けられる毒針。それをいなしながら私はキラークイーンに突進する。飛び散る蜂の体液。壁や床は青い体液にどんどん染まる。突進の最中に蜂の群れも殲滅し、キラークイーンに毒針を突き立てる。そして青い体液を飛び散らしながらキラークインは最後の言葉を言う。
「魔王……様……。どうか……ご武運を……」
私は茫然とその言葉を聞く。そしてシルビィに話しかける。青い体液にドレスを染めて……。
「次、どこに行こうか?」
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【食を求めて冒険!】
大好きなユウスケへ☆
うん、信じるよ~☆
だから、ユウスケも私の事信じてね♪
料理の修行に行ったの?
それなら、なおさら応援しなきゃダメだよ!?
そうね……私としてはいい言葉いったかも♪(^_-)-☆
食を求めて冒険なんて、良くない?
私、そういうのも好きよ?
ユウスケにとっての冒険かぁ……。
それなら、一つ心当たりあるかも?
夏休みに一人で水族館行ったじゃない?
あれって、ユウスケにとっては軽い冒険だったんじゃないの?
もしそうなら、もう一度同じことしてみたら?
……まだ、魔王城の情報は入らなくて困ってるの……( ;∀;)
本当にあのモンスターいるのかな…。
じゃあ、またね~☆
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私はジレンマを抱きながら、交換日記を閉じる。ユウスケには心配されたくない……。空元気のまま交換日記を閉じる。そんな私を励ますかのように、交換日記は私を光で包み、そしてユウスケに届いたことを知らせる。私の気持ちも送り届けたかのように……。