29話 止まらない想い
私達はギルドで教えてもらった通り、北へと歩みを進めていた。今回の目的地は距離があるので、戦うモンスター達はどんどん変わっていく。休憩を取るために村の宿屋をとり、交換日記を開く。
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【手料理、頑張るね。】
大好きなリノンへ。
……やっぱりそうか……。
頑張れとしか言いようがないかも……。
なんかね……ちょっと魔王が可愛そうな気もしてきたよ…。
せめて、苦しまずに楽にお願いしますm(_ _"m)
二度見は……多分違う理由だと思うけど、まぁいいか。
バイトは……いや、運び屋の方が近いよ?
注文聞いて、お客様に出す係……配膳係って言ったらわかるかな?
僕はそれほど料理は得意じゃないけど、リクエストに答えて手料理出せるように頑張るね!
僕もリノンの手料理食べたいけど……。
料理は得意なのかな?
じゃあ、またね。
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「苦しまずに……かぁ……」
ふっと、ユウスケの日記を見て微笑む。ユウスケのて手料理も食べてみたいな……。そう想いを巡らせながら私は眠る。
「いよいよ……ね」
私達は魔王の手下が作ったという城に来ていた。ここを攻略して街を開放し、次の目的地に……。城の中を徘徊するクマのモンスターを血の海と変え、私は最後の扉を開く。
「……待ちかねたぞ、勇者よ。我が名はホワイトベアー。愛しき魔王様のため、ここで……。いや、魔王軍としてここで一矢報いてやる!」
「上等ね! かかってらっしゃい!」
ホワイトベアーは鋭い爪を構えてこちらを睨む。私も毒針を構える。睨み合い。私はシルビィと一緒にホワイトベアーの隙をうかがう。レベル差があるにしても、油断はできない。その拮抗を崩したのは私。ホワイトベアーに向けて突進し、毒針で一撃を与える。浅い!? ホワイトベアーは私の狙った急所を避け、避けた先の肩に突き刺さる。
「ふっ、捕まえたぞ!」
ホワイトベアーは毒針を自ら押し込み、私を捕まえる。そして鋭い爪を私に向かって振り落とす。その瞬間シルビィが援護するように、剣で一閃。ホワイトベアーの腕を切り落とす。
「ぐ……小癪な……」
「終りね!」
私は突き刺さっている毒針とは逆に持った毒針を至近距離でホワイトベアーの胸に突きたてる。急所に当たりホワイトベアーは力を失う。真っ白だった白の毛皮は鮮血で染まる。そして、私のドレスも真っ赤に染まる。
「み、ごと……。魔王様に幸あれ!!」
ホワイトベアーは最後の言葉を口にするとこと切れた。
「やっぱり少しずつ強くなってるかしら」
「まぁ……そうだろうね」
今回は少してこずったけど、今のところは危うい場面はない。これからの戦いが厳しくなるのを予感させた。城を後にして街に戻り、ボスを倒したことを報告する。そして次の情報を得る。
「今度は……南かぁ……」
「またちょっと遠いね。どうする? お姉ちゃん」
「うん、このまま進むよ。今日はいったん休憩を取りましょ?」
一度宿屋で休んでから、次の目標まで行くことを決める。宿の部屋で交換日記を取り出し、今日の日記をつける。
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【血なまぐさい娘、キライ?】
大好きなユウスケへ☆
ちょっと、なにそれ~。
なんだか、ユウスケが魔王になったみたいな言い方して~。
大丈夫よ~☆
だって、毒針で急所狙うから♪(^_-)-☆
そうそう、私も今、寒いところに来てるの。
ユウスケの方って、今冬じゃない?
なんか、同じ季節って感じで嬉しいの♪
今はね、クマと戦ってるの~。
でも、ちょっと問題が……。
クマと戦うと、私のドレスに返り血がついちゃうの……。
まぁ……洗えばすぐ落ちるんだけどね。
……ねぇ……。
ユウスケって、血なまぐさい娘、キライ?
……あまり嫌われることしたくないから……。
じゃあ、またね~☆
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「うふふ……」
ちょっとした勇者の冗談。今の仕事は勇者。だからモンスターの返り血を浴びるようなのが仕事。それをユウスケが否定したら、私はきっと勇者を辞める。
「お姉ちゃん、今日はなんて書いたの?」
「見ていいよ~」
「あはは! 返り血を浴び続けるお姉ちゃんかぁ。それ以外のお姉ちゃんは想像できないかも?」
「それ言ったら、シルビィもそうじゃない?」
「うん、そうよ? 私根っからの戦士だし!」
冗談を交わしながら夜は更けていった。
そして……。
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【リノンらしさが一番だよ!】
大好きなリノンへ。
……本気でその装備で、魔王と戦うんだね……。
応援してる……。
でも……ドレスで、寒いところ平気なの?
寒さで凍えちゃわない?
風邪をひかないか心配です……。
クマって…ワイルドだね……。
……僕はリノンだったら、どんなでも好きだよ?
それに、リノンは勇者じゃない?
戦わない勇者なんていないし……。
……居たとしても、仲間だけに戦わせて、カッコ悪そうだし……。
だから、僕はね。
今、勇者なら勇者らしいリノンが好きだよ。
じゃあ、またね。
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私らしさ……かぁ……。そして、勇者らしさ。でもユウスケはそんな私を好きって言ってくれる。胸が熱くなる。でも、今すぐにでも逢いたい気持ちも抑えられない。
「ユウスケ……」
「お姉ちゃん?」
「ううん。何でもない……」
「隠さなくても大丈夫よ? ……そもそも丸見えだし」
「え?」
「不安……なんでしょ?」
「……うん」
「大丈夫。私もついてるから。今はお姉ちゃんらしく! ほら、日記にも書かれてるし!」
「ありがとう……シルビィ」
「うん♪」
シルビィになだめられながら私は眠る。どうしても不安で寂しくて、ユウスケが届かない存在に見えて……。不安もどんどん大きくなる。
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【ユウスケ……優しいね……。】
大好きなユウスケへ。
うん……そう言ってくれるんだ……。
ユウスケって優しいのね………。
ありがとう……。
……そっちの世界でも、女の子にこんな言葉かけてない?
だったら、承知しないからね!!(--〆)
……私は、勇者らしくするね……。
風邪の心配はないかな?
こっちだと、魔法で何とかなっちゃうから。
服とかにも魔法が入ってるの。
だから、寒くはないんだよ?
それと、今は南の方に向かってるの。
少しずつ暖かくなってきたところだよ~☆
今は岩みたいのと戦ってるの。
……ちょっと埃っぽくなっちゃうんだけどね……。
じゃあ、またね~☆
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私の冒険の物語もどんどん終盤に近づく。ユウスケに逢いたい気持ち……。交換日記が消えてしまう不安……。でもそれは私の活躍に掛かっている。私とシルビィの物語は魔王を倒すことで終わり。でも私とユウスケの物語は? ハッピーエンド? バッドエンド? でも私の今できることは魔王を倒すことだけ。そう……今は……。日記の中では元気に取り繕う私も、不安で押しつぶされそうになる。ユウスケに……逢いたい……。そんな気持ちが抑えきれなくなる。取り交わすごとに熱く加速していく恋心。もう私にはこの気持ちを止めることはできない。そして、魔王との決戦ももう少し……。切ない気持ちを抱きながら私は眠る。