24話 毒針勇者誕生
ユウスケのアドバイスを受けて、私は村の武器屋に寄っていた。正直なところまだショックから立ち直ってなくて、体が重い。気分転換になるといいなぁ……。武器屋に入ると体格のいいおじさんが威勢よく挨拶してくる。
「いらっしゃい!」
「ナイフ……折れちゃったんで……」
「あぁ、このナイフか? ちょっと直せないな……」
「そう……ですか」
「ん~、この武器なんてどうだい? バスターソードだ! 自慢の武器だぞ?」
「……可愛くない……」
「え?」
「あ、私欲しいです! お姉ちゃん、良いよね?」
勧められたバスターソードにも興味は向かない。なんかごっついし……シルビィは戦士だから好きだったみたいでそれを買う。
「……お嬢ちゃん、見たところ防具も薄いなぁ……これなんてどうだい? バスターソードとセットの盾と鎧だ!」
「ごっつくて可愛くない……」
「え?」
「あ、私買います!」
とりあえず、シルビィは一式装備が整う。問題は私。ナイフが折れたショックからまだ立ち直っていない。虚無にかられながら武器屋を物色していると、なんだか手ごろそうな武器を見つける。
「これ……なんですか?」
「ああ、毒針って言ってね。刺すと相手を毒にするほかに、急所に当たると壮絶な威力になる武器だよ。この辺のモンスター専用武器って言っても良いかも知れないな。とは言っても、お嬢ちゃんの職業からすると、それは……」
私はその毒針に見入る。ナイフと同じぐらいの大きさ。取っ手がありそこを持ち手にして繰り出す武器……。そしてユウスケの言葉を思い出す。この辺りのモンスター専用武器? 急所に当たると壮絶な威力? もしかして……運命!?
「これ下さい! えっと6本!」
「え?」
武器屋の主人は驚きを隠せない。そんなのには構わず、今度は防具を物色する。
「これは?」
「ああ、しとやかなドレスさ。戦うには不向きだが、魔法が掛かってるからこの村の女の子達には人気な商品さ。でも冒険者のお嬢ちゃんは……」
「これとこれ、下さい!」
「え?」
私は白のドレスを2着手に取り、カウンターに置く。武器屋の主人は困惑する。
「え? それで戦うのかい?」
「おじさん……今は言う事聞いてあげてください……」
シルビィが武器屋の主人にそっと耳打ちしているが、聞いちゃいない。なんか運命を感じちゃう……これでユウスケと会えれば……。私はこの装備に胸をときめかせる。
「あ、ありがとうございます!」
「ごめんなさい……ありがとうございます」
釈然としない様子の武器屋の主人。申し訳なさそうにお礼を言うシルビィ。それとは裏腹に浮かれる私。早速この武器を試してみたい! 一旦宿屋に帰ると、白のドレスに着替え毒針を両手に装備する。
「行こうか♪」
「うん♪」
そして、岩のごろつく村の外に出る。手頃な岩のモンスターを見つけると、私は襲い掛かる。逃げようとするがこのレベル差。逃がしはしない。私は岩のモンスターめがけて突進する。
「はぁぁぁぁぁ!!!」
私の放った一撃は、岩のモンスター奥深くに突き刺さり、砂ぼこりと体液をまき散らし爆散する。流石このあたりの専用武器。あれほど苦労してた岩のモンスターも一撃で仕留められる。白のドレスはモンスターの青い体液と砂ぼこりで汚れる。
「うん♪ 良い感じね♪」
「そうね……でもお姉ちゃんが元気になってよかった♪」
「……まぁ、ドレスは汚れちゃったけどね」
順調♪ この調子で岩のモンスターを狩り続け、レベルもどんどん上がっていった。
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【ユウスケ、ありがとう♪】
大好きなユウスケへ☆☆☆
ユウスケ♪
ありがとうね♪
私好みの良い武器見つけたの♪
これもユウスケから貰ったアドバイスのおかげだよ☆
えっとね……その名も「毒針」♪
効果はね……なんと「毒にする」と「急所を突く」の二つの効果!!
今朝見つけて、2本買ったけど……気に入りすぎて、4本買い足しちゃった♪
またユウスケだと思って、大事に使うね☆
あと……「しとやかなドレス」っていうのも買っちゃった♪
着替えようで2着……。
あっ、私だけ買い物したんじゃないからね?(;´・ω・)
ちゃんと、シルビィの装備も整えてたから、そっちの方が高かったぐらい……。
って、言っても、シルビィは剣とか鎧とかだから……。
……変な想像はしないでよね!!(--〆)
じゃあ、またね~☆
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「うふふっ♪」
「お姉ちゃんご機嫌ね♪」
「うん! 運命感じちゃった♪」
「お姉ちゃん、元気になってよかった!」
「うん、心配させてゴメンね……」
ナイフは残念だったけど、またユウスケのアドバイスで手に入れた武器。毒針をぎゅっと抱きしめて、そして交換日記を閉じる。運命……私はあると信じる。
そして……私達はレベル上げの日々を送る。
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【毒針とドレスを着たリノンがモンスターに襲い掛かる姿が思い描けるよ……。】
大好きなリノンへ。
アドバイス聞いてもらえてうれしいな。
良いもの見つけれて、良かったね!
えっと……「毒針」に「しとやかなドレス」……。
……うん、なんか合いそうだね?
目を閉じると、ドレス着て毒針で経験値の高いモンスターに、襲い掛かっていく姿が見えるよ……。
……うん……意外と鮮やかに思い描けるよ……。
そういえば、今ってどんなクエスト受けてるの?
そろそろ次の町とかに行かなくて大丈夫?
港町みたいに、住民の方を待たせちゃダメだよ?
じゃあ、またね。
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翌日。
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【……ユウスケのエッチ!!!】
大好きなユウスケへ☆
やだ! 何想像してるのよ!! エッチ!!!
……でも、ユウスケになら…(/ω\)
そういえば、クエスト何だったかしら?
経験値稼ぎだったような?
……ん~っと…長老だったな? 聞いてみるね~☆
もうレベル55になったから、次の街に行く事にするね。
先に進めば、ユウスケが言ってたように、もっと効率良いかもしれないし。
最近、私の事ばかりだから、ユウスケの事も聞きたいな……。
学校の事とか聞かせてくれると嬉しいかも?
じゃあ、またね~☆
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翌日。
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【ちょっとだけ自慢話し(笑)】
大好きなリノンへ。
……なんかごめん……。
でも、ドレス姿のリノンの姿も見てみたいな……。
……クエスト、忘れたらだめだと思うよ……。
あと、使命も……。
もし、忘れてたらもう一度、始めの街に戻ってみたら?
僕の方は…学校の事かぁ……。
あんまりネタが無いかもしれないなぁ……。
先生の授業を聞いて、眠くなって……。
……あの先生も眠りの魔法を使うのかもね。
学校では一応成績は良い方で、たまに僕の事「優等生」なんて言ってくる奴もいるんだ。
……ちょっとした自慢話(笑)
じゃあ、またね。
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翌日。
「あのぉ……」
宿屋で朝食をとっていると、見知らぬ老人が私達に声を掛けてくる。
「はい、何でしょう?」
「勇者様……ですよね?」
「あ……はい」
「私、この村の長老でございます。申し訳ございませんが、そろそろ……」
……催促だった。
「お姉ちゃん」
「ん?」
「催促も受けちゃったし、そろそろ砦行かない?」
「うん、私もそう思ってたところ。レベルも上がりにくくなってきたし……」
「……そこかぁ……まぁ確かにね」
「じゃあ、明日は砦攻略で!」
「うん!」
こうして明日の指針が決まった。