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23話 大切なナイフ

「てぇぇい!!」


 今日も岩のモンスター狩りに勤しんでいた。経験値効率が良くて最高の狩場。しばらくはここで居座りたい。レベルが上がるにつれて、素早かった岩のモンスターも逃がさずに追えるようになってきた。私は調子に乗ってナイフを振り回す。


「お姉ちゃん、そんなに振り回してると……」


 心配そうにするシルビィを他所に、岩のモンスター狩りを楽しむ。レベルもどんどん上がっていく。飛んでくる岩のモンスター。私はナイフで切りつける。その時。ナイフは甲高い音を立てて、折れてしまった。


「え?」


 私はその折れたナイフを眺める。ユウスケにアドバイス貰って買ったナイフ……その一本かもしれない。私は脱離記してしまい、その場に膝をついて倒れこんでします。


「お姉ちゃん! 危ない!!」


 取りこぼした岩のモンスターが私を襲う。私は喪失状態で動けない。私に岩のモンスターが体当たりしようとした瞬間。間一髪シルビィの助太刀が間に合う。


「お姉ちゃん!!」


 シルビィは心配そうに叫ぶ。でも私には力が入らなかった。大切なナイフ……想い出のナイフ……その折れてしまったことで、私の心も折れてしまった。


「お姉ちゃん……」

「……」

「……今日はもう帰りましょ?」

「うん……」


 シルビィに促され、宿屋に入る。そして私はすぐにお風呂に入って、湯船に浸かる。大切なナイフ……折れちゃった……。大事にしてたのに……。そんな思考が私の中でぐるぐる回る。私はすっかり落ち込んでいた。


「お姉ちゃん……隣……いい?」

「うん……」


 シルビィが私の隣で湯船に浸かる。心配そうでもありそれでいて、私の心を慰めるかの様に。私は顔を湯船に向けて臥せっていたので表情は見えないが、そんな雰囲気がしてきたのを感じた。


「……」

「……」


 しばし無言。シルビィも私にかける言葉を選んでるかのように、なかなか話しかけてこない。どうしよう……大切なナイフ……。宝物だったのに……。


「お姉ちゃん」

「……」

「ショック……だったね……」

「……うん」

「今は私に言える言葉は無いけど……」

「……」

「今は一杯泣いていいんだよ?」


 その言葉に、私の目から堰を切ったかのように、涙が溢れ出す。そう……シルビィの優しい言葉で……。


「な、ナイフ、折れちゃったよぉ……」

「うん、大切にしてたもんね」

「う、うん……想い出のナイフ……だったの……」


 シルビィは無言で私の頭を撫でる。私は涙が止まらない。


「お風呂……上がりましょ? のぼせちゃうから」

「……」


 私は声を出せず、ただ頷いてシルビィの後を追った。脱衣所で服を着る時も……部屋まで行くときも……私の涙は止まらなかった。


「……」

「……」


 途中で女主人とすれ違う。ただ泣きじゃくる私をみて、あえて言葉をかけてこない。そんな女主人にシルビィも無言で返す。多分……二人とも優しい笑顔……そんな気がする。部屋に戻ると私はベッドの上で泣きじゃくった。


「う、うえぇ……」

「お姉ちゃん……」


 シルビィは声を掛けると、優しく私を撫でる。


「大切なナイフだったんだね……よしよし」

「う……うん……」

「そうね……交換日記の相手とは、今は逢えないからね……」

「うえぇ……」

「お姉ちゃんにとってはその人と同じくらい大切だったのね……」


 シルビィの優しい言葉で、涙は余計止まらない。シルビィは私の頭から手を離すと、両手を広げて私を呼び寄せる。私は臥せって泣いていた体を起こして、シルビィの体に身をゆだねる。そしてシルビィの胸で私は泣きじゃくる。


「シルビィ……シルビィ……」

「うんうん」

「ユウスケの……ユウスケの……」

「気が済むまで泣いて?」

「う、うえぇ……」

「そう……気が済むまで……ね?」


 シルビィは優しく私の頭を撫でる。私は訳が分からなくなるほど泣きじゃくって、そのうち疲れて眠ってしまった。シルビィに抱かれながら……。


「う、う~ん」

「起きた?」

「……うん」

「少し気持ち晴れた?」

「……」

「そっかぁ……じゃあ、交換日記書こ? ほら、返事待ってるだろうから」


 そう言ってシルビィは交換日記を机に広げる。私は重い体で机に着くと筆を執った。


 ------

 【大変なの!!】


 ユウスケ、ユウスケ!!

 大変なの!!!

 ナイフが1本折れちゃったの……( ;∀;)

 私の最初に買ったナイフか、ユウスケのアドバイスで買ったのか、分からないけど……。

 大事な私のナイフがぁ……( ;∀;)

 ショックで立ち直れないかも……。


 ねぇ、ユウスケ……。

 どうすればいいかなぁ……( ;∀;)

 固いモンスターに、ナイフだと折れちゃうよ……。

 もう折りたくないから、なにかアドバイスちょうだい……。


 ……せめて、夢だけは良いのが見たいなぁ……。

 ------


「……」


 私は交換日記を閉じる。優しい光が包み込み、ユウスケに返事が届いた事を知らせる。そう……夢の仲だけでも……。私はそう思いながら、ベッドで横になり。瞼を閉じた。そして隣に温かい温もりと、頭を撫でる感触。それに包まれながら眠りに落ちた。


 その日、私は夢を見る。

 ユウスケが一緒に踊ってくれる夢。

 幸せだった。

 でも、楽しい時間は終わり、ユウスケが笑顔を送ると、どんどん遠ざかっていく。

 お願い! 待って!! 行かないで!!

 声が出ない。心の中で叫びながらユウスケを追う。でもどんどん遠ざかっていく。

 そして。

 甲高いナイフの折れる音。

 その音で私は目を覚ます。


「お姉……ちゃん?」


 心配そうに私を見るシルビィ。ダメだ……立ち直れない。私はベッドでふさぎこむ。


「お姉ちゃん……今日は休みましょ?」

「うん……」


 私はふさぎ込んだまま、気が付けば日が落ちようとしていた。私はベッドから起き上がるとナイフの手入れを始める。残った5本……丁寧に手入れをしていく。5本目の手入れが終わった時、折れたナイフが目に入る。そして私はまた目から涙をこぼす。その私を知ってか交換日記が光りだす。私はゆっくり手を伸ばし、ユウスケの返事が書かれたページを読む。


 ------

 【ナイフがダメなら……。】


 大好きなリノンへ。

 とりあえず、落ち落ち着いて!!

 ナイフがダメなら、ナイフじゃないものを使えばいいんだよ?


 その町に、針みたいな急所を突くような武器売ってない?

 いくら固くても、急所を突ければ楽に倒せるはずだよ?


 それに……そもそも、ナイフじゃなくて……。

 ……って、もう何言っても聞かなさそうだからいいか……。

 とにかく、落ち着いて武器屋に行ってみてよ。

 良いものがあるかもしれないからさ。


 あまり落ち込まなくていいからさ……。


 じゃあ、またね。

 ------


「……」


 ユウスケも心配してくれてる……。そうね……私もあまり落ち込んでちゃいけない気がする。明日は気分転換に武器屋でも行ってみようかな……。


「お姉ちゃん……」

「シルビィ。明日武器屋に行こうか?」

「うん……」

「シルビィの装備も整えたいし」

「そうね……気分転換しましょ」


 私は交換日記を閉じて、眠りに着いた。


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