22話 経験値効率最高!
「お嬢ちゃん達、着いたよ!」
「う~ん……」
「ふわぁぁ……」
御者さんに起こされ、私は唸りシルビィは欠伸をする。
「よく眠れたかい?」
「う~ん……正直あまり……」
「はっはっは、そりゃ動く馬車の中さ。仕方ないさ。宿屋で休んでおいで」
「はい……ありがとうございます……」
眠い目を擦りながら、御者さんにお礼を言う。そしてアドバイスの通り宿屋を探す。宿屋はすぐに見つかったので、入ってみる。
「いらっしゃいませ~」
「おはようございます。二人で泊めてほしいんですけど……」
「あら? 冒険者様ですね。今景気が悪くてねぇ……少し高くて、一人一晩30ゴールドになっちゃうんだけど、大丈夫?」
「はい、お願いします」
「ありがとう! ではこちらにお名前を記入くださいね」
宿屋の女主人に台帳を渡され名前を書く。シルビィにも渡して名前を書いてもらい、女主人に手渡す。正直一人30ゴールドは高い。けどため込んだお金もあるので、懐を痛めることは無い。ここをしばらくの拠点とすることとした。眠かったので部屋に向かい、身支度をしてから、シルビィと二人ですぐに眠ってしまった。
「う~ん……」
馬車の疲れが徐々に抜け、私が目を覚まして外を見てみると、夕暮れだった。奇麗な夕日が山に隠れて行くところだった。遅れてシルビィも起きる。
「ふぁぁ~、あ、お姉ちゃんおはよう!」
「もう夕方だから、おはようは無いけどね」
「え? 夕方!? 起こしてくれても……」
「いや、私も起きたばかりだから、大丈夫よ?」
シルビィと話していると、ぐぅ~っとお腹が鳴る。つられたようにシルビィもお腹が鳴る。気恥ずかしそうに二人で見つめあってから、私が先に口を開く。
「ご飯……食べようか?」
「うん……」
意見は一致したので、女主人の所に話に行ってみる。女主人は気前よく料理を出してくれた。
「はいよ~丁度できたところだよ~。今日はイノシシ肉が大量に入ってね~。どうだい? 好きかい?」
「あ、はい……好きです!」
それ、私達が狩ったものです! とは言えなかった。けど、イノシシ肉は好きなので、ご相伴に預かる。
「「いただきます!」」
「お姉ちゃん、おいしいね!」
「うん! 前食べた時と全然違う!」
前にご馳走になった時もおいしかったけど、ここのはなんか温かみがあった。イノシシの焼き肉、イノシシの煮付け……どれも温かみがあった。
「私の手作りさ! どんどん食べておくれ!」
私達はお腹がすいていたので、出されるもの全て平らげた。
「「ご馳走さま~」」
「食器はそのままでいいからね。いやぁ~若いっていいね~。見てて清々しかったよ!」
女主人はにこやかに笑う。
「ありがとうございます。そうだ、お風呂に行きたいのですが……」
「お、それならうちの浴場はとっておきだよ? つかっておくれ!」
指さす方向に暖簾がある。私達はお礼をするとお風呂を借りることにした。脱衣所で服を脱ぎ、浴場に入る。
「うわぁ!!」
「お姉ちゃん、すごいね!!」
そこには天然温泉の岩風呂があった。露天風呂になっており山の景色が見えるようになっている。絶景。こんな景色を見ながらなんて、贅沢! のんびりとシルビィと湯船に浸かる。少し熱めのお湯だけど、吹き抜ける風が心地よい。
「お姉ちゃん……」
「なぁに?」
「交換日記、順調?」
「なっ!?」
「なんか、その話をしたくなっちゃった♪」
ここで女子会トークに花が咲いた。ユウスケの事、ユウスケへの気持ち……根掘り葉掘り聞かれる。私は顔を真っ赤にさせながら、ゆでだこになる。
「お姉ちゃん、体真っ赤~!」
「くぅ……。いや、お風呂のせい! そろそろ上がりましょう!」
「あ~! 逃げた~!」
そそくさと私は浴場を抜け出し、脱衣所へ。シルビィも湯船から上がり、一緒に服を着る。そして部屋に戻りくつろぐ。布団で寝ころびながら交換日記を開く。ユウスケからの返事はすでに来ていた。新しく追加されたページに目を落とす。
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【モンスター狩り尽くすんじゃないよ?】
大好きなリノンへ。
馬車、お疲れ様!
眠れなかったんじゃない?
僕も夜行バスっていうのに乗ったことあるんだけど、その時眠れなかったのを思い出すよ。
そっかぁ、そっちのお金は重いんだね?
こっちは紙のお金もあって、持ち運びは楽だよ。
でも、大金は銀行に預かってもらうんだよ。
ボスを1ターン!?
どんだけ強くなってるの!?
今のレベル教えてほしいな……。
……経験値多いモンスター、狩り尽くしそうで怖いけど……。
じゃあ、またね!
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「紙のお金!?」
「え?」
「ねぇ、ユウスケの世界だとお金紙なんだって!?」
「え~! それ不思議ね? 魔法の紙なんじゃない?」
「そうかも……。それとバスってシルビィ知ってる?」
「ううん。それも向こうの世界の物なんじゃない?」
「なんか、不思議な事多いね……」
と、ユウスケの日記を見つめながら、夜は更けていった。
「おはようございます!」
「おはよう! よく眠れた? 朝ごはん出来てるよ~」
「ありがとうございます」
「「いただきます!」」
朝食をご相伴にあずかる。やっぱり優しい家庭の味がする。とてもおいしい。シルビィと二人で平らげる。
「「ごちそうさまでした!」」
「いい食べっぷりだねぇ~。ありがとう!」
「そういえば、このあたりに魔王の砦があると聞いたのですが……」
「ああ、あれね。そのせいで不景気になっちゃってさ。そうだ、地図地図……」
「あ、お姉ちゃん、私持ってるよ!」
「お、物持ちいいね! 印付けてもいいかい?」
「お願いします!」
私達は女主人から情報を得て、お礼をしてから砦に向かった。砦の周りには御者さんからの情報通り、岩のようなモンスターがゴロゴロしてた。近づいてみると、すごい速さで逃げていく。たまに逃げずに残る岩のモンスターと戦ってみる。岩は弾丸のようにこちらに飛んでくる。躱そうとするがよけきれない。
「痛い!!」
久しぶりに私にダメージが入る。ちょっとこのモンスター手ごわい……。今度はシルビィが全力で殴りかかる。キーンと甲高い音を立ててシルビィの剣もはじき返される。
「お姉ちゃん、手ごわいよ?」
「うーん……」
仕方が無いので、二人で手あたり次第殴りかかってみる。そのうちシルビィの放った渾身の一撃がクリーンヒットし、岩のモンスターは崩れ去る。
「う~ん……」
「なんか、攻略方法つかめなかったね……」
そんな話をしていると、二人の腕が光る。レベルアップだ。一体倒しただけでレベルが上がるなんて……。経験値効率が良い……。
「よし! モンスターを漁って、攻略法見つけよ?」
「うん、わかった! お姉ちゃん」
次の獲物を探る。ほとんどが逃げ出してしまうけど、残った岩のモンスターに襲い掛かる。私は試しにナイフの切っ先を真正面から突き立ててみる。キーンと甲高い音と共に岩のモンスターは砕け散る。
「中心をめがけて渾身の力を籠めるのがコツ……なのかな?」
「う~ん……」
攻略方法を探りながら、一日を過ごした。岩のモンスターは血しぶきは上げない代わりに埃っぽくなる。浴場で埃を落としてから、部屋でくつろぐ。今日は大量大量♪ いっぱいレベルアップしたし♪ そのことを今日の日記に綴る。
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【レベル40になりました~☆】
大好きなユウスケへ☆
馬車の事、ありがとう♪
馬車じゃなくても眠れなかったかも?
経験値の多いモンスター目当てにしてたから、目がさえちゃった(ФωФ)
そっちには馬車は無いの?
そっちだとバスっていうの?
ユウスケも眠れなかったんだ~、揺れるもんね~。
え? 紙のお金なんてあるの!?
燃えちゃわない?
レベル……ふっふっふ~☆
今日、レベル40になりました♪
モンスター狩りまくりなのだ~☆
もうちょっと早くここに来ればよかったなぁ……って、思っちゃった……。
ここにしばらくいま~す!
じゃあ、またね~☆
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翌日。
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レベル40ってどういう強さなの?
大好きなリノンへ。
馬車はこっちにもあるけど、まず走らないよ。
公園とか観光地ぐらいじゃないのかな?
バスっていうのは、馬車を大きくしたような乗り物で、馬はついていないんだよ。
多分、馬車よりは揺れないよ?
お金……いや、紙だから普通に燃えるけど……。
火を心配する人は居ないかな……。
えっと……。
感覚がもうわからなくなってきたんだけど……。
レベル40ってどれくらいの強さなの?
なんか、後半のレベルのような気がするけど……。
もう魔王には近いの?
じゃあ、また!
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その翌日。
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魔王って、なんだっけ?
大好きなユウスケへ☆
そっかぁ……馬車は走らないんだ……。
バスと馬車って、なんか言葉似てるね♪
でも、「馬」が居ないのに、両方に「バ」が付くのおもしろ~い!(^_-)-☆
紙だったら、一番気になるのは火じゃない??
火を吐くモンスターたくさんいるから、お金が紙なんてそんなの信じられないわ!?
ふふふ……。
今日のリノンちゃんはもうレベル40じゃないのだ!!
47まで上がったのだ~☆
どお? すごいでしょ~♪
そういえば、魔王ってなんだったっけ?
じゃあ、またね~☆
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さらに翌日。
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……勇者ってこと、忘れてるだろう……。
大好きなリノンへ。
……両方に「バ」が付くのは、偶然のような……。
まぁ、こっちじゃ火を吐くようなモンスターは居ないから、みんな火は意識してないよ。
……うん……。
レベルの感覚がわからない……。
魔王って……最初の目的忘れてない?
勇者で、魔王を倒す使命を受けったって聞いたような……。
……てか、最近、リノンって、自分が勇者なの忘れてない?
なんだか……攻略レベルの2倍ぐらいで、クエストをクリアしてくスタイルを思い出すけど……。
じゃあ、またね!
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こうしてレベル上げの日々を送っていた。