21話 初めての馬車
この日もイノシシの屍を積み上げてた。倒しても倒しても減らない。どこから湧いてくるのかしら? やっぱりイノシシのボス倒さないとダメかなぁ……。でも経験値効率は良くて、特にお金の効率は良い。しばらくの狩場にしようと思う。そして夕日になり自衛団にイノシシの屍を預けて、宿屋に戻る。イノシシで血まみれになった体をシャワーで流す。シャワーを浴び終えると、交換日記は光り、ユウスケの返事が返ってきたことを示す。私はゆっくりと交換日記を広げ、ベッドで横になりながら新しいページを読む。
------
【カラオケ行ってきたよ!】
こんにちは!
そういえば前に、僕がそっちの世界のこと聞きたいって言ったけど……。
僕の話もしないとだよね。
今日はゲーセンの対戦ゲームで負けました……。
最近調子よかったんだけど……。
あと、友達とカラオケ行ってきたよ!
久しぶりに歌ったら、のどが痛くなっちゃって…。
今はかすれ声だったりするんだ……。
そっちでは歌ってどんな感じなの?
リノンは歌ったりするの?
町……4つ目でレベル30なの!?
早く進めたほうが、経験値の効率も良いよ?
じゃあ、またね!
大好きなリノンへ。
------
「~~~~!!」
大好きなリノンへ。だって♪ 交換日記を閉じて抱きかかえながら、ベッドの上を転げまわる。シルビィがシャワーから出てきてその姿を生暖かく見守る。
「で、今回はなんて?」
「ユウスケね~、カラオケってところに行ったみたい」
「カラオケ?」
「うん! なんだか歌うみたいだけど、知ってる?」
「知らないなぁ……でも楽しそうね!」
交換日記の内容を観察するシルビィ。浮かれる私。そして今宵も更けていった。
「今日もお願いします!」
「はい……あの……リノン様?」
「はい?」
「そろそろ……あの……馬車道の奪還を……」
言いにくそうに自衛団の人は話題を切り出そうとする。確かに……ここでのんびりもしてると前みたいにしびれ切らされてしまうかも……。明日にでも討伐しようかな……。受け取ったお金を銀行に預け、宿屋に入り、くつろぐ私達。
「お姉ちゃん、言われちゃったね……」
「そうね……。そろそろやる?」
「うん……その方が良いと思う」
シルビィと方針を立てる。そして私は交換日記を広げて、今日の日記を綴る。
------
【私もカラオケ連れてって!】
大好きなユウスケへ。
持ち金半分は噂に聞いたことがあるだけよ~(^_-)-☆
今のところ私はお世話になってないわ。
銀行あるわよ~。
私もお金は銀行に預けてるの~☆
今5万ゴールド預けてるよ~!
カラオケって、「歌う」ところなのね……(;´・ω・)
私、つい勘違いしちゃった☆
勇者だからかしら?
歌はあるよ~。
私、そっちの歌もあんまり得意じゃないけど……。
そっちの世界だとそんな遊び場があるんだね~。
もし、そっちに行けたら、一緒に歌お?
魔王……なんか、そんな感じもしてきたわ……。
港町のクエストも、住民がしびれ切らしちゃってたわ(*^▽^*)
じゃあ、またね~☆
------
「よしっと♪」
日記を綴り終えると、交換日記を閉じて、ユウスケの元に届くのを見送る。今日も夢で逢えるといいなぁ……。
「シルビィ、地図見せて」
「はい、お姉ちゃん。この先みたいよ」
「じゃあ、行きますか!」
イノシシの群れを骸に変えて、一路イノシシのボスの元に急ぐ。イノシシと戯れながら進むと、群れの数がどんどん多くなってくる。ボスの根城も近いらしい。私達は群れを惨殺して進む。その先にはとても大きなイノシシがドーンと構えていた。
「ブヒヒィ!!!!」
「あ……」
「お姉ちゃん……相当、怒ってるね」
まぁ、同胞をあれだけ惨殺されたのであれば仕方がない。イノシシのボスは私を睨み突進してくる。遅い!!! 私はイノシシの突進を躱し、横からナイフで抉る。鮮血が辺りを染める。しかしイノシシの急所をかすめる程度。肉が……厚い!?
「ブヒィィィ!!!」
今度はシルビィに突進する。シルビィは真っ向勝負に出るが、牙ではじかれる。
「お姉ちゃん!」
「流石に強いね……」
今度は私に向かって突進してくる。その突進にタイミングを合わせて、イノシシの下に入り込み、ナイフで腹を抉る。これは……効いた! 腹から出る血しぶきと臓物が私の上に落ちてくる。イノシシのボスは悲鳴を上げて、その場に倒れ動かなくなる。
「やった……かな?」
「うん! お姉ちゃん、お見事!!」
ボスが倒されたことを知ると、イノシシ達は散り散りに山の中へ逃げて行く。こうして馬車道はイノシシの群れから解放された。
「お疲れ様です!」
「お疲れ様です。今日はどうでしょうか?」
「はい、イノシシのボスを倒してきました」
「おぉ!! なんと!」
「ここに骸がありますので、回収お願いします」
「分かりました。では手配しますね。ありがとうございます。ご協力に感謝いたします」
自衛団に引き渡して宿に戻る。返り血と汗をシャワーで流して私はくつろぐ。そうしていると交換日記は光りだす。私は交換日記に飛びついて、ユウスケの返事を見る。
------
【連れていくよ!】
大好きなリノンへ。
今のところやられてないんだね?
それ聞いて、安心したよ!
銀行に5万ゴールドかぁ……。
町にたどり着いた数から数えると、多くない?
いい装備買えばいいのに……。
カラオケはこちらの世界に来れたら、案内するね!
って、こっちの世界の歌、歌えるのかな?
まぁ、来れたらこっちで練習するといいよ。
港町……大丈夫?
ゆっくりめぐりすぎじゃない?
本格的に魔王が怒って、そっちに行くかもよ?
あまり待たせないようにね。
そして、早めに今のクエストも終わらせてね。
じゃあ、また!
------
「あっ……」
そろそろ魔王の事、忘れるところだった……。ユウスケの忠告にはちょっとだけでも耳を貸さないと……。
「カラオケかぁ……」
どんなところなんだろう? もし、ユウスケの世界にいけるなら、行ってみたいな……。……。そういえば、ユウスケの世界に行くことってできるのだろうか? 少しだけ不安と寂しさを感じる。せっかくできた彼氏……逢えるかわからないとなると、悲しさが貯まっていく……。
「お姉ちゃん……どうしたの?」
その様子を見て、心配そうに顔を覗き込んでくるシルビィ。
「ううん。何でもない」
「……うん、分かった。些細な事でもいいから、私に相談してね」
優しく微笑むシルビィ。……あはは……これじゃあどっちがお姉さんかわからないや。一途の不安を抱きながら、私は眠りにつく。
「こんにちは」
「やあ、こんにちは!」
「あのぉ……馬車に乗りたいんですけど……」
「おう、そうか。今自衛団が安全を確認してるところだから、夕方まで待ってくれるか? そのころには馬車も出せると思うから」
「ありがとうございます」
私達は馬車屋に来ていた。馬車に乗れるのは夕方ぐらいらしい。シルビィと私で次の町に行く準備をする。
「お姉ちゃん、次の町ってどんなところだろうね?」
「馬車に乗った時に聞いてみる?」
「うん! そういえば私、馬車乗るの初めて! お姉ちゃんは?」
「私も~」
「そっかぁ~。なんだか楽しみだよね!」
「うん!」
旅の準備も終わり、馬車やに向かう。そろそろ馬車も出せる頃合いだろうか? 馬車やに行くと、行商人達でにぎわっていた。
「おう、お嬢ちゃん。馬車の準備出来たよ!」
「本当ですか?」
「ああ、そうそう、自衛団に聞いたよ? この馬車道を取り戻してくれたのは、お嬢ちゃん達だって。お礼と言っちゃなんだが、一番の馬車を用意したら乗ってくれ!」
見ると、豪華な造りの馬車が用意されていた。貴族が乗ってもおかしくはなさそうな立派な馬車。馬車の御者さんが馬車の扉を開け、そこから中を見るとフカフカなソファーと机が用意されていた。なんだかお姫様になったみたい。
「「ありがとうございます!」」
二人でお礼を言うと、馬車に乗り込む。そうだ……次の町ってどんなところだろう? 馬車の御者さんとは会話ができるように窓が据え付けられていた。そこから御者さんに次の町について聞いてみる。
「この馬車の目的地ってどんなところなんですか?」
「それが……今魔王軍の砦がそばにあってね……。ずいぶん廃れちゃってるところではあるんだよ……」
「そう……なんですか?」
「あぁ。そして砦の前には固い岩みたいなモンスターがゴロゴロいるんだよ。何回も討伐しようとしたらしいが、固い上に素早いやつで……全然歯が立たなかったらしい」
「そうですか……まだ私達が見てない新しいモンスターですね」
「そうだな。あの地にしかいないらしいぞ? しかも沢山。まぁ、倒すと経験値とかはおいしいらしいけどな。運よく冒険者の一人が倒して、結構レベルアップしたとか、風のうわさで聞いたなぁ」
経験値……その言葉に私はときめく。また新しくレベルアップできると思うと、心が弾む。それを悟ったのか、シルビィは少しあきれた顔をしている、ような気がする。
「ありがとうございます!」
私は御者さんにお礼を言うと、交換日記を取り出し、日記を綴る。馬車は初めてだけど、日記を書くには差し支えないくらいの揺れ。馬車全般がそうなのか、それともこの馬車が特別なのかはわからないけど……。
------
【馬車に乗ってます!】
大好きなユウスケへ☆
今日はクエストが終わったので、街に向かってる馬車に乗ってるの。
ちょっと距離があるから、馬車で一晩過ごすことになっちゃった……(>_<)
銀行はね、お金を持ち運ぶのが不便だからあるの。
5万ゴールドって言ったら、持ち運ぶの大変で……。
装備はまだいいかも?
この間のクエストのボスも、1ターンで倒せたから。
な~んか、手ごたえ無くてね……(-ω-;)
この先の街には、固いけどたくさん経験値を落とす、モンスターが居るんだって~☆
私、もうわくわくして……。
早く、街に着かないかな……。
じゃあ、またね~☆
------
まぁ、イノシシのボスはちょっとだけてこずったけど……いいでしょう♪ 夜も深くなってきたので、私とシルビィは馬車の中で眠りに落ちた。