20話 イノシシジビエ
そよぐ海風、日差しの強い太陽。新天地での生活が始まる。
「お姉ちゃん、これからどうする?」
「そうね……とりあえず、情報収集かしら」
「じゃあ、街を散策ね」
最低限の持ち物で街に繰り出す準備をして、街に繰り出す。初めて見る建物の真新しさを感じながら、私達は観光を楽します。そうしていると、何やら人だかりが見えた。
「あれ、何だろうね?」
「見たところ馬車の行商人みたいだけど……」
「行ってみましょうか?」
「うん!」
私達は人だかりを縫って、前に出てみる。すると馬車屋の人と行商人の人が何やら口論しているようだった。
「馬車が出せないだと? どうゆうことだ!」
「それが……イノシシのモンスターが大量発生してて……馬が怯えてしまうので出せないのです……」
「そんな……私達は次の街に行かなければならないのに……」
何やら、馬車が出せなくて困っているらしい。
「次の目標かなぁ……」
「そうね。じゃあ今度は私が行ってみるね!」
人見知り属性の二人。前回は私が話をしたので、今度はシルビィが話に立ってくれるようだ。心強い妹分のおかげで、私の旅も捗る。
「あ、あのぉ……」
「何だい? お嬢ちゃん。見たところ冒険者のようだが……そうだ、良ければこの先にイノシシのモンスターが大量に出て困っているんだ」
「あ、はい……」
「ごめんな……ここの所、冒険者も魔王の出現で忙しく飛び回っているんだ……お嬢ちゃんに頼るのも心苦しいんだが……良ければ頼まれてくれないか? 報酬は弾むから」
「え、ええ……」
「じゃあ……この地図を渡すよ。ここが例のモンスターが出るところなんだ。すまないがよろしく頼むよ?」
そして、すごすごと引き返してくるシルビィ。
「頑張ったね! よしよし♪」
「ありがとう、お姉ちゃん……怖かった……」
「うんうん♪」
「それで、モンスターはここで出るみたい。どうする? お姉ちゃん」
シルビィから手渡された地図を見ると、馬車のチラシで使っている地図の様で、大きく丸印が付けられていた。今回の目的地は決まった。
「よし。じゃあ、この近くまで行ってみましょうか?」
「うん!」
街を出て散策してみると、確かにイノシシのモンスターが大量に馬車道をふさいでいた。これじゃあ確かに馬車も出せないのは頷ける。
「じゃあ、やろっか♪」
「うん♪」
シルビィと私でイノシシの群れに襲い掛かる。イノシシはこちらを見かけると、すぐに臨戦態勢になり、角をむき出しにして突進してくる。私はその突進を躱し、通り抜け様にナイフで片側を抉る。シルビィは真っ向勝負を仕掛け、イノシシを分断する。鮮血の雨。地面はイノシシの群れが残した血だまりを作る。
「う~ん、経験値効率良いけど、なんか物足りないわね」
「……多分、レベル上げすぎかと」
「ねぇねぇ。これ食べられると思う?」
「う~ん、モンスターだけどイノシシだし……街の人に聞いてみる?」
「そうね。じゃあ、日も暮れたし、一頭持ち帰って聞いてみようか?」
手ごろな大きさのイノシシを持ち帰り、街へと入る。そして街行く人に血まみれの姿で話を聞いてみる。戦闘の後なのでテンションが上がってるせいもあって、簡単に話をすることが出来た。
「すみません~」
「はい? ……って? 大丈夫ですか!?」
「はい! イノシシの返り血なので大丈夫です。それでこのイノシシなんですが、食べられたりしますか?」
「これ……お嬢ちゃんが倒したの?」
「ええ、街の外には山積みになってます」
「……。あ、いや、心当たりはあるよ。ちょっと待っててね」
その人は優しく、街の自衛団を紹介してくれた。そこでイノシシを見せると、害獣扱いで引き取ってくれるとの話しだった。私達だけでは運べない量だったので、そのまま引き取ってもらうことにした。
「街の外だね。わかったよ。明日また自衛団に寄ってもらえば、報奨金を渡すよ」
「ありがとうございます!」
そして、宿に戻り、シャワーを浴びでくつろぐ。久しぶりの地上戦。ちょっとはしゃぎすぎたかな……疲れて瞼が重くなる。そうしていると、交換日記は光りだしユウスケの返事が届いたことを知らせる。私は交換日記を手に取り、ユウスケの返事を見る。
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【また校長が魔法使ったよ?】
こんにちは。
そっちには学校が無いのかな?
いや、あるんだっけ?
こっちはね、みんな学校に行く仕組みになってるんだよ。
僕も夏休みが終わったから、今は学校に行っているんだ。
学校初めの校長挨拶では、体育館が暑くて15人倒れちゃったんだ。
それで少し問題になってたなぁ……。
リノンは港町を出たんだね?
もうレベル30になったの?
そうしたら、もう町も何か所か回ってきたの?
リノンが早く魔王を倒せることを祈るね。
……えっと……まだナイフだったんだ?
そろそろ変えないとつらくない?
それでは、またね!
大好きなリノンへ。
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「~~~~!!」
最後の言葉だけ見て、私は悶絶する。ユウスケ~私もよ~!! 好き好き好き~大好き~♪ 布団にくるまり悶える私。
「お姉ちゃん、心の声が漏れてるよ?」
「え?」
「嘘よ♪ でもそういうお姉ちゃん見れると私も幸せだなぁ……」
優しく微笑むシルビィ。いじられる私。
「そういえば、シルビィって学校行ったことある?」
「私は無いなぁ……。どうしたの?」
「ほら、ユウスケは学校行ってるんだって?」
「へぇ~凄いね! 頭のいい子しか行けないのに。魔法使いなのかしら?」
「うん! ユウスケ眠りの魔法使えるんだって! でも自分に掛けちゃうみたい」
「え? 自分に!?」
「きっと校長先生譲りね。ほら15人倒しちゃったんだって!」
「うわぁ~凄い!」
「ユウスケは自分に掛けちゃうらしいけどね。意外とドジなところも、私は好きだなぁ……」
「また、お姉ちゃんの惚気が……」
また、連日のように女子会トークで盛り上がる。ユウスケ……好きよ……。
「リノンおはよう」
「おはよう! ユウスケ!」
「じゃあ、学校に行こうか」
「うん!」
私はユウスケの手を握り、学校へ向かう。
「今日の授業なんだっけ?」
「えっと、一時限目が炎の魔法で、二時限目が風の魔法かな?」
「そうだったか……僕、眠りの魔法しか使えないからなぁ……」
「そうね……でもユウスケの眠りの魔法は凄いから!」
「ありがとう。そういえばリノンは予習してきた?」
「ぎく!!」
「……リノン、ちゃんと予習はしないとダメだよ?」
そんな会話をしていると、一陣の強風が吹く。スカートがなびく。
「きゃっ!!」
「リノン、大丈夫?」
「……見えた?」
「え? いや、その……」
「……見たのね……」
「……あ、リノンの頭に葉っぱが」
「話しそらした……」
「ほら、こっちにおいで。葉っぱを取ってあげるから」
「こう?」
「……」
ユウスケは不意に抱きしめる。私は驚いたけどそのぬくもりに身をゆだねる。私もユウスケを強く抱きしめる。
「お姉ちゃん苦しい……」
「リノン……」
「ユウスケ……」
「苦しいってば!!!」
シルビィに突き放されて目が覚めた。シルビィを見ると、ちょっと怒ってる様子。でも次には悪戯な笑みに変えて、私をいじる。
「ねぇねぇ、どんな夢見てたの?」
「え、いや、何にも……」
「嘘。寝言で『ユウスケ~』なんて言ってたよ?」
「え!?」
「うんうん! 幸せで良いこと♪」
思いっきりシルビィにいじられる。私は夢の事を思い出しながら、顔を真っ赤に染める。
「……そうだ、自衛団の所に行きましょ!」
「あー、話しそらした~」
シルビィの言葉を置いてきぼりにして、準備をして二人で昨日の自衛団に向かう。そういえば、人見知り……だいぶ慣れてきたかも。
「おはようございます」
「あ……お嬢ちゃん……」
「イノシシどうでした?」
「えっと……本当にこんなに倒したの……?」
「はい! こういうの慣れてますんで!」
「そうですか……これ報酬です……」
「え? こんなに?」
「はい……イノシシは肉にもなるし、毛皮も取れるので……」
「そうなんですね。あ、お金預かっててもらっていいですか? 今日も倒してきますんで!」
「あ……あまり無理しないでくださいね?」
そして、今日もイノシシ狩りに興じる。日も暮れてきたので自衛団にお世話になって、宿屋に向かう。
「あ、お嬢ちゃん」
「はい?」
「せっかくだから昨日作ったお肉もどうだい?」
「え? 良いんですか?」
「ちょっと……さばききれなくて……。おいしいから是非ね」
「ありがとうございます」
イノシシのお肉を受け取る。結構な量なので、宿屋に寄贈して夕食に出してもらうことにした。一休みしてから食堂に降りると、今日のイノシシ肉料理が沢山並んでいた。
「うわぁ!! すごい!!」
「リノン様、寄贈いただいた肉ありがとうございました。今日は沢山お食べください。腕を振るいましたので、力作ですよ!」
「ありがとうございます!」
「お姉ちゃん、私これ食べたい!」
「あ、おいしそうね。じゃあ、私も♪」
存分にイノシシ料理を堪能して、部屋に戻る。そして今日の事を日記に記す。
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【シルビィの事書いたら、本破くからね(--〆)】
こんにちわ~☆
……やっぱり校長って、強いのね……。
私たちでもそんなにすごくないわ……。
こっちにも学校はあるけど、私は行ったことないの。
主に魔法を勉強する子が行ってる感じなの。
私から見ると、レベル上げれば魔法覚えるのに……って、思っちゃうんだけどね。
なんか、それって特別みたい。
シルビィもスキル身に着けるのに、ダンジョンで覚えてた感じだったわ。
……あ、シルビィの事考えたら、この本破くからね!?(--〆)
町は今4つ目なの。
新しいモンスターがいっぱい居て、はしゃいじゃった♪
ここでしばらくレベル上げする予定なの。
じゃあ、今夜も夢で逢いましょうね♪
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「……」
書いてる途中で、シルビィへのヤキモチ発動。タイトルを書き換えて交換日記を閉じる。また、シルビィの事、気にしたら許さないんだから! 交換日記を閉じて、光りに包まれる姿を見送る。私の想いも一緒に届けて。