19話 船出
と、昨日の流れで例の灯台を散策。途中のキラーフィッシュを蹴散らしながらボスを探す。そして意外と早くボスは現れる。どうやら向こうから来てくれたようだった。
「おのれぇ!! 見つけたぞ! よくも私の可愛い手下どもを!」
「お姉ちゃん! 言葉を話す強力なモンスターです! 当然ながら怒ってます!」
怒り心頭キラーフィッシュのボス。……まぁ、可愛い手下を散々弄んだからね……怒るのも無理ないか……。怒りをあらわに構えるキラーフィッシュのボス。私に向かい痛烈な水流を口から吐き出す。私はそれをひょいと躱す。その行動にキラーフィッシュのボスは驚愕する。
「お前ら……レベルいくつなんだ?」
「えっと……私が30でシルビィが28」
「なん……だと!? それが手下を弄んだ結果か!」
「……はい、ごめんなさい」
少し愕然とするキラーフィッシュのボス。申し訳なさそうに謝るシルビィ。キラーフィッシュを弄んでた事もあり、限界以上にレベルを上げている。ボスに勝機は全く無い。しかしボスは毅然とした態度で向かってくる。
「魔王様の恩赦を受けて生まれたこの身……今、魔王様に捧げようぞ!」
ボスの決死行。しかしそれも虚しく私のナイフの餌食となり、三枚に下ろされる。その姿になってもなお気迫は衰えず、しかし命の灯は消えようとしていた。
「……魔王様、ご栄光を!!」
死に際のセリフを吐いて、ボスは命の灯を消した。そして残されたキラーフィッシュ達は散り散りに姿を消してゆく。
「手ごたえ無かったね……」
「いや、レベル上げすぎかと……」
そして、港街に戻り船着き場に向かった。しばらく前に話をしてくれたおじさんに声を掛ける。
「こんにちは! この間はありがとうございました」
「お、お嬢ちゃん!? 血まみれだけど大丈夫か?」
「はい、返り血だけなので大丈夫です。それよりも灯台のモンスターを倒しました。船は出せそうですか?」
「お、おう! 俺たちもキラーフィッシュが逃げていくのを見たよ。ちょっと待ってろ?」
そう言うと、おじさんは連絡船の方に向かう。船長らしき人と話してから、両手で頭の上に丸サインをつくり、こちらに戻ってくる。どうやら連絡船は大丈夫みたい。
「対岸の街で良いか? なら船は明日には出せるってよ。船は手配してやるから。それとお礼もしたいのだが……」
「いや、良いです。船さえ乗れれば」
「え? でも……」
「良いんです。遠慮なさらなくて大丈夫です」
「そう……か? そういえば、お嬢ちゃんもしかして勇者か?」
「はい! 成り行きでそうなりました!」
「そうか……じゃあこれだけは受け取ってくれ。世界の地図だ。なんかの役に立てばいいが……」
「では、地図だけ受け取りますね。船手配してくれてありがとうございます」
「いやなに! 魔王の事、よろしく頼むぞ!」
私達は頭を下げてお礼する。船は明日……出発の準備しなきゃ。
「シルビィ。何か準備するものある?」
「う~ん……そろそろお金が重いから……銀行に預けない?」
「そうね。そうしましょうか。銀行は……こっちね」
銀行を見つけて二人で向かう。そういえば銀行は初めて使うかも。銀行に入ると清潔な内装でしっかりとした作りになっていた。
「いらしゃいませ。ご用件をどうぞ」
「お金を預けたくて……」
「はい、でしたら、ここにお名前と金額を記入してください」
私は手渡された紙にサインをする。そういえば……。
「あの……」
「はい?」
「お金いくらあるかわからなくて……」
「あぁ、でしたらこちらで数えさせていただきますよ」
「ありがとうございます」
私とシルビィは今持っている全てのお金をカウンターに置く。布袋二つ一杯のお金。
「え!?」
「はい?」
「いや、その……大丈夫です。数えますね。しばらくお待ちください」
銀行の人が驚愕の顔でお金を受け取る。銀行の人達がざわめく。4人がかりでお金を数え、終わると銀行の人は私を呼び金額を伝える。
「えっと……4万ゴールドです。確かにお預かりいたしました。こちらが通帳になります。他の銀行でもお金は引き出せるので、是非ご利用ください」
「ありがとうございます」
通帳を受け取り、シルビィと二人で銀行の入り口に向かう。そうすると銀行の人が出てきて並び声を揃えて挨拶をする。
「「ありがとうございた!!」」
ちょっと気恥ずかしかった。お金の重みに解放された私達は宿屋の部屋に帰る。そして明日の船出の準備をする。一通り準備が終わったころ、交換日記は光りだす。ユウスケからの返事だ! 私は早速新しいページに目を落とす。
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【港町の生活知りたいな!】
こんにちは!
僕はあまり夢を見ない方だけど……。
リノンの事は、告白してからよく夢で見るよ?
僕の夢だと、リノンは制服を着て学校で一緒に生活してるって感じかな?
どころで、今レベルいくつなの?
魔法ってどれくらい覚えたの?
なんか、そういうところ聞きたいな……。
船見つからないみたいだけど、今は何してるの?
もしかして、装備変えないでレベル上げしてたりしないよね?
クエストの事とかも聞きたいし、リノンの活躍をもっと聞きたいな……。
返事待ってます。
大好きなリノンへ
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この瞬間が私にとっては一番幸せな時間。胸が熱く締め付けられる。「大好き」だなんて……嬉しくって跳ねまわる。
「お姉ちゃん……はしゃぎすぎ……」
「だって、だって!!」
ベッドで転げまわる。布団にくるまりながら悶える。ユウスケ~大好き~!! 私はあふれる気持ちに呑み込まれる。その様子を見て、シルビィは微笑んで話しかけてくる。
「ねぇねぇ」
「なあに?」
「今度、交換日記見せて?」
「え~、恥ずかしい~」
「いいじゃない、減るもんじゃないし!」
「いや、ユウスケの優しい言葉が減る~」
「な、わけないでしょ?」
船出の準備も終わり、女子会トークをしながらその日の夜を過ごした。
「リノン様、シルビィ様、お待ちしておりました」
船着き場に着くと、昨日の船長らしき人に声を掛けられる。
「港を救っていただきありがとうございます。今回は私が船長としてこの船を運行させます。よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします!」
そして船に乗り込む。中は立派な造りになって居て、家が丸ごと入りそうなそんな広さだった。こんな大きな船に乗ったことが無いので、私もシルビィもはしゃぐ。
「すごーい! 広いね!」
「お姉ちゃん、甲板に行こう! 船出発するのみたい!」
「いいわね! 行きましょ!」
「わぁ~動き出した!」
「うん! 大きいのにどんどん早くなっていく!」
「でも、対岸の街、まだ見えないね」
「そうね。じゃあしばらく中で休みましょうか」
船内で休憩を取りながら、時間を過ごす。暫く揺られているうちに私は眠くなってくる。船の中で舟をこぐ私。それをみてシルビィが話しかける。
「お姉ちゃん、疲れてるなら寝てて?」
「うん、ありがとう」
言葉に甘えて、私はゆっくりと眠りについた。しばらく寝たのだろうか、シルビィの声がする。
「お姉ちゃん、起きて? 街が見えてきたよ!」
「う~ん……え? 本当?」
「うん! あそこ!」
シルビィが指さすところに視線を向けると、小さく街が見えた。
「お姉ちゃん、甲板に行こう!」
「うん!」
甲板に出て、ゆっくり近づいてくる街を見る。今までいた街よりも大きいようだ。この街ではどんな冒険になるのか、今から胸がときめく。ゆっくりと近づいて来た街は次第に大きくなり、船の速度も徐々に緩やかになる。そして船は船着き場に到着する。
「皆様、当船は到着しました。お忘れ物の無いようゆっくりとお降り下さい」
船長が船内に入ってきて挨拶をする。私達はそれに従い船を降りる。さっきの街では市場が多かったけど、ここの街は少なく見える。貿易で栄えた街なのだろうか。立派な建物が立ち並び、今まで暮らしていた街とは全然違う雰囲気だった。
「大きいね……」
「うん、そうだねお姉ちゃん」
二人で街の景色に見惚れる。程なくしてから私はシルビィに話す。
「じゃあ、宿屋探そうか」
「うん!」
宿を見つけ、しばらくの拠点とする。運んだ荷物も部屋に整えて置き、私達はくつろぐ。今回取れた部屋は窓から海が見える絶景の場所だった。夕日が海に沈んでいくところを二人で眺めながら、つかの間の休息に浸る。
「じゃあ、交換日記書くね」
「うん」
私は交換日記を手にして広げ、新しいページを追加する。
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【港町を出ました!】
こんにちわ~☆
学校? 制服?
どんな感じなのかしら?
なんか、お互いに夢で逢ってるのね♪
なんだか嬉しな~☆
私たち、運命でつながってるのかなぁ……。
そうね、私の日常も話しするね♪
今はレベル30で、今日港町から出たところなの。
武器はナイフのままよ?
だって……ユウスケが最初にアドバイスして買ったものだもん☆
投げられなかったけど……今は2本ナイフで頑張ってる!
全部で6本のナイフだけど、いちいち手入れする手間省けて
便利なんだから♪
夜中に全部磨いてる感じだよ~。
この日記の前にね☆
じゃあまたね!
夢で逢いましょ☆
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そう……想い出のナイフ……。私は何時も大切にしてるよ? ナイフを胸でぎゅっと抱きしめ想いを込める。これから私達の冒険は新たな一歩を進む。
 




