15話 シルビィのイタズラ
今日は昨日とり返した村の宝を村長に返しに行く日。昨日から全然落ち着かない。気持ちのわだかまりが一向に晴れる気配がない。宝はシルビィに委ねて私はぼーっとしながら着いていく。
「村長様、これを」
「おお! これは! ありがたや、ありがたや。早速元の位置に祭って……」
シルビィが村長に宝を手渡し、村長がお礼と何か言っている。私の耳には届かない。なんとも言えない気持ちから解放されずにいる。今日は……何もしたくない。
「お姉ちゃん」
「……」
「お姉ちゃんってば!」
「あ……?」
「しっかりして? これからどうするの?」
「今日はもう帰りたい……」
「分かった……じゃあ、宿屋に戻りましょ?」
私はシルビィに連れられて宿屋の部屋に戻る。そしてベッドに体を委ね、布団にくるまる。なんだろう……この気持ち……。ユウスケは嫌いじゃない。いや……今は嫌い。でも……。自問自答が続く。そうしている間に疲れていたのか眠ってしまった。
「お姉ちゃん!」
「……?」
「起きて? もう夕方よ?」
シルビィに起こされる。寝起きもスッキリしない。私……どうしちゃったんだろう……。モヤモヤとした気持ちを引きずったままベッドから起き上がる。
「お姉ちゃん……」
「……」
「ねぇ、せっかくだから交換日記に返事書こ?」
書く気が起きない。でもシルビィはそんな私にお構いなしに、机の上に交換日記を広げる。椅子に座らされ、私は筆を握る。
本当、書く気力も起きない。いや……交換日記を見ていたら、ムカムカしてきた……。私は勢いに任せて日記を綴る。
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【無題】
べーーーーだ!!!
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もう、見たくない。そのままベッドで横になる。そして机に背を向け眠る。
「お姉ちゃん……」
「……」
「じゃあ、私が交換日記閉じちゃうね?」
「……」
どうにでもなれ。私はそう思っていた。でもなんとなくだけど、シルビィが少し微笑んだ……そんな気がした。
「うりゃぁぁ!!!」
翌日。村の周りでプチデビルに八つ当たりをしていた。本当であれば村の北側にある道が村の宝が戻って通れるようになっているので、そこに向かえばいい。でも今の私は次の街に進む気力が出ない。まだモヤモヤした気持ちを引きずっていた。その晴れない気持ちをプチデビル達にぶつける。
「お姉ちゃん……」
心配そうにつぶやくシルビィ。私は晴れない気持ちをプチデビル達にぶつけ続ける。あはは……こんなことをしていたら、魔王と私、どっちが勇者なんだろう。心の中で自身を嘲笑いながら、今はほぼ無害なプチデビルに当たり散らす。繰り返し。繰り返し。そうしていると何時の間にか日は落ちようとしていた。
「もう帰ろう?」
「……うん」
シルビィに促されて私は宿屋の部屋に戻る。そしてベッドで横になる。そして少し時間をおいて交換日記が光りだす。
「お姉ちゃん、返事来たよ?」
「……いい」
「そう言わないの。ほら起きて?」
シルビィに無理やり起こされる。そして交換日記が手渡される。正直内容は見たくない。怖い……。ユウスケからの返事が……。その内容が……。私をもっと不安にさせる……そんな気がしてしまう。意を決して交換日記を開き、ユウスケの書いた日記を見る。そこには私の予想もしない内容だった。
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【大好きなリノンへ】
こんにちは。
前回はごめんね?
許してほしい……。
えっと……。
リノンの事、好きだよ?
……僕、女の子に告白したの初めてだから……。
僕の気持ち、伝わるといいな……。
そうだ、宿の話しだけど、明日から一泊することになったよ。
日記は持っていくから、ダンジョンの事教えてくれると嬉しいな。
僕も水族館の話し書くから。
水族館はね、いろんな魚が展示してあるんだよ。
見てきた魚書いていくからね。
だから……返事が欲しいな。
返事が無いと、僕も寂しいから……。
明日はちゃんと書いてくれると嬉しいな。
大好きなリノンへ。
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「!?」
あ、愛の告白!? な、なんで!? 私はパニックを起こす。一呼吸置いて、もう一度交換日記を見る。その告白内容を見ていると、今まであった心のわだかまりが消えていく。そう……私。シルビィにヤキモチ妬いてたんだ……。私の素直な気持ちを見つけ出すとわだかまりが消えていく。そして……心の中で何かがはじける音がした。そんな気がした。
「ユウスケ……」
何だろう……不思議な気持ち。なんだか心が温まっていく。けど、同時に胸も痛く感じる。「大好き」……本当はこの言葉を待っていたのかも知れない。ユウスケが……あまりにもシルビィの事を書くから……。もっと私の事を見ていてほしかったから……。不思議な気持ちはあふれ出す。ユウスケが……愛おしい……。
「お姉ちゃん♪」
「……」
「元気、出た?」
「う、うん!」
「よかった♪」
なぜだか私の目から涙が伝う。悲しいから? いや嬉しいから……。そんな顔を見られまいとシルビィから視線を逸らす。あれ? でも……。顔をそらしたままシルビィに問いかける。
「ねぇ、シルビィ。こうなる事、わかってたの?」
「うふふ……どうでしょうね? おめでとう! お姉ちゃん♪」
シルビィはクスクス笑う。なんだろう……この違和感は。私は交換日記をもう一度見る。今度は昨日私が書いた方を。
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【無題】
べーーーーだ!!!
私のこと、好きって言うまで許してあげない!!!!
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「……」
「……♪」
「シルビィ!!!!」
シルビィになんか書き足されてた……。でも許す。本当の私の気持ちを知れたから。きっと……あのままだったら私ダメになってたと思う。
「……ありがとう」
「え? なあに?」
意地悪な笑みをするシルビィ。まったく……こんなこと洒落た事するなんて……。可愛くも頼れる妹分が居ることに、幸せを感じた。