14話 芽生える心
気持ちがモヤモヤする……。そんな状態で洞窟人入っていた。昨日は下調べもあって散策はしないで切り上げたけど、今日は散策する日としていた。プチデビルの大群、アルマジロの大群……私はモヤモヤする気持ちをぶちまける。
「たぁぁぁぁ!!!」
ナイフが残像を置いてきぼりにしてアルマジロの胸を抉る。そして返り血を浴びる。次に。次に。次に……と。私は返り血で血まみれになる。
「お姉ちゃん、今日はどうしたの?」
「うるさい!!」
行き場のないモヤモヤ。私はシルビィにもぶつけてしまう。殲滅。流血。返り血。私は戦闘に明け暮れる。洞窟の行き止まりまでたどり着くとそこには宝箱があった。
「……お姉ちゃん」
恐る恐るシルビィが話しかけてくる。……そうか、さっきどなっちゃったもんなぁ……。私はシルビィをなだめるように話す。
「シルビィ、ゴメンね。なんか気持ちがモヤモヤして……」
「ううん。大丈夫。お姉ちゃんも無茶な戦いしないでね?」
「うん、分かってる。けど……」
「そう……じゃあ、宝箱開けるね」
私の気持ちを察してくれたのか、シルビィは話をそらして宝箱を開けてくれる。本当優しいシルビィ。私はどなってしまったことを後悔する。でも……気持ちは収まらない……なんでだろう。
「わぁ! すごい! 雷の剣よ? お姉ちゃん装備する?」
「いや……シルビィが装備して? 私はナイフが好きだから」
「そう……分かった。私装備するね!」
必死に険悪な空気を和らげようとするシルビィ。優しい……でもこの空気は私のせい。シルビィは全然悪くない。こんな優しい妹分に今優しくできない私が恨めしい。本当にどうしちゃったんだろう……。散策を続けると3つほど宝箱を見つけた。回復薬、皮の盾、木の鎧……。シルビィが装備できるものは装備してもらい、余った戦利品は武器屋に売ろうと思う。昨日より念入りに半分ほど洞窟を散策した後、洞窟から出て宿屋に戻る。
気持ちはモヤモヤしたまま。交換日記を書く気力もない。けど……ユウスケを待たせたくないから……私は日記を書き始めた。
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【……そんなにシルビィのことが気になるわけ!?】
こんにちわ~☆
ユウスケは「ジンベイザメ」って言うのが好きなのね?
こっちには居ない魚だな……。
やっぱりこっちとそっちでは違うみたいね。
ユウスケはその魚、どうやって食べるのが好きなの?
……なんか、シルビィのことばかり書いてる……。
そんなにシルビィが気になるの?
……まぁ……シルビィ可愛いけどさ……。
……レベル低くて気になるのもわかるけどさ……。
……今日のダンジョン、楽しいこといっぱいあったけど、教えてあげない!!
ベ~~~~だ!!!!
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……書いてたらムカついて来た。途中から。私は最後まで日記を書いた後タイトルを消して書き直す。これ、私とユウスケの交換日記じゃない? なんでシルビィの事ばかり書くの? おかしくない? 憤りがこみ上げてくる。
「おねえ……ちゃん?」
「あー!! ムカついて来た!!!」
「……ごめんなさい」
「いや、シルビィは悪くないの。ユウスケが悪いんだから!!」
支離滅裂な言い訳。なんだろう……この感情は……。なんだかいろんな感情が流れ込んでくる。私にはどうにも出来ない。
「落ち着いて……」
「う、うん……」
「そして、今日は早く寝て?」
シルビィに促されて、私はベッドに入る。なんだか上手く眠れない……布団に丸まりながら気持ちが落ち着くのを待ち、気が付いたら眠っていた。
洞窟探検は今日が山場。シルビィと今日攻略することを誓っていた。昨日散策した行き止まりを避けて奥へと進む。襲ってきたモンスターに当たり散らしながら。その様子をシルビィは心配そうに見てくる。……確かに無茶な戦い方だ。この調子で行って、体力が持つかは怪しい。でも、力をセーブすることは今の私には不可能だった。そして洞窟の奥にたどり着く。
「お姉ちゃん。あれ……」
「うん、そうね……」
明らかにここのモンスター達を率いるボスのような体格だった。姿は人と狼を足して割ったようなそんな感じのモンスター。奥にあった椅子から立ち上がりこちらに向かってくる。そして私達にその狼人間のモンスターは語り掛けてくる。
「よく来たな! 私は魔王の勅命を受け、村の結界である宝を……」
「うるさい!!」
「……へ!?」
「お姉ちゃん……言葉をしゃべれるのは高度なモンスターで……」
「うるさい!!」
「え?」
「能書きは良いから、かかって来い!!」
私の剣幕にうろたえる狼人間。心配そうに眺めるシルビィ。
「くっ、なめやがって!! 後悔させてやる!!」
狼人間は気をもとに戻して、私の場等に怒りを示して突進してくる。爪を振り上げて、私めがけて振り下ろそうと……。
「ユウスケの……」
私は狼人間を睨みながら呟く。
「馬鹿野郎!!!!!!」
「ギヤァァァ!!!」
両手に持ったナイフを交差させて、狼人間の胸に二閃。瞬殺。狼人間は悲鳴を上げて動かなくなる。そして返り血を大量に浴びる。
「おねえ……ちゃん?」
「足りない……」
「え?」
「まだ、足りない!!」
シルビィは村の宝を回収。私は好き放題モンスターに八つ当たりをしまくる。なんだかよくわからない気持ちだけど、こうしてないと抑えられない。感情の赴くままモンスターを殲滅する。そして、洞窟を出るころにはすっかり闇が天を覆っていた。
宿屋に帰り、私はベッドに寝転がる。今日の行動にシルビィは不安そうに私を見守っていた。今はただ放っておいてほしい。そんな気持ちが交錯する。
「お姉ちゃん……」
「今はゴメン……」
「交換日記……光ったよ?」
「今はいい……」
「そう言わずに……ね?」
本当、交換日記を見る気力もなかった。いや……なんかムカつく。ユウスケの返事も気になる……事もないか……。ただただ抑えられない感情に私は絡めとられている。どちらかと言うと、返事を見るのも怖いのかも知れない。シルビィに促されてしぶしぶ交換日記を読む。
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【本当ごめん……。】
こんにちは。
……なんか、怒らせちゃったみたいだね……。
本当にごめん……。
リノンがレベル上だし、勇者だからつい気になっちゃって……。
本当にごめん……。
ダンジョンのこと、教えてくれると嬉しいな……。
何があったんだろう?
魔法覚えたのかな?
レベルは上がった?
そういえば、リノンの装備ってナイフしか聞いてないけど、もっといい装備に変えた? ダンジョンって、宝箱とかあるのかな?
本当、ごめん……。
返事、待ってます。
追伸。
ジンベイザメは食べません。
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ほとんど頭に入ってこない。なんか余計にムカついた。私はよくわからない感情に振り回されながらふて寝をする。そんな姿をシルビィは微笑みながら見送った……ような気がする。