13話 胸に刺さる事
そして何時ものようにプチデビルを殲滅。こんだけ毎日やってもプチデビルは湧いてくる。シルビィのレベルアップも頭打ちになってくる。幾多の戦闘を繰り返していると、シルビィの腕が光り、レベル9になったことを知らせる。
「シルビィ、レベルアップ早いね!」
「お姉ちゃん、そろそろレベルアップも難しくなってきたよ……」
「そうね……そろそろ洞窟に行っても良いかもね」
シルビィと話をしながら、またプチデビルを索敵する。サーチアンドデストロイ。ちょっと勇者である自信を失ってきたかも……。日が暮れて私達は宿屋に入り、宿泊している部屋でくつろぐ。私は交換日記を手にすると新しいページが追加されている事に気が付き目を落とす。
「私も読んでいい?」
「いいわよ~」
シルビィと二人で読む。
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【仲間はシルビィって言うんだね。】
こんにちは。
魚……僕は刺身かな……。
魔法使い……まぁ、自分に眠りの魔法をかけたりするのは、得意だけどね(笑)
仲間になったの、シルビィって言うんだ?
村の装備だと楽々じゃないかな?
基準は分からないけど、シルビィがレベル10になったら、クエスト行ってみたらどうだろう?
リノンは回復魔法使えるし、念のため回復薬も持っていくと、良いかも?
クエストは洞窟だっけ?
僕からすると楽しそうだけど、そうでもないのかな?
じゃあ、またね!
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……なんだろう。ちょこっと胸が痛い感じがした。その原因は分からないけど、なんだか気分が乗らない。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「ううん。何でもないわ……それよりシルビィは刺身って知ってる?」
「いや……知らない」
「だよね」
心の違和感を感じながら、魚の食べ方に話題をそらす。どうしちゃったのかわからないけど……寂しいというかなんというか……。心の違和感を持ちながら、今日もシルビィと一緒に眠る。
毎日のように繰り広げられるプチデビルの殲滅。次から次へと湧いて出てくる。私はほんの少しの心の違和感を覚えながら、戦闘に身を投じる。日も落ちる時、シルビィの腕が光りレベル10になった事を知らせる。
「シルビィ、おめでとう!」
「ありがとう! お姉ちゃん!」
「じゃあ、良い時間だし帰ろっか」
「うん!」
宿屋に入り、寝る支度をして泊まってる部屋に向かう。私は交換日記を取り出しユウスケに返事を書く。なんだろう……ちょっと気が乗らない……。
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【私は焼き魚が好き~☆】
こんにちわ~☆
ユウスケは刺身?っていうのが好きなんだ?
刺身って知らないなぁ……どんなの?
ユウスケはどんなお魚が好きなの?
私は「カワカミ」ってお魚が好きなの~☆
塩焼きにして食べるとおいしんだよ♪
うん、今日でシルビィがレベル10になったから、明日クエスト行ってみるね~。
クエストはね、洞窟のダンジョンなんだ~。
シルビィも明日行くって、張り切っているわ!
装備買っちゃったから、今金欠……( ;∀;)
明日はダンジョンで少し稼いでくるって感じかな?
じゃあ、またね~☆
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お魚の話題と今日の日記を記して筆をおく。ちょっと空元気。交換日記を閉じてユウスケの元に返事が届くのを見送った。
今日は洞窟探検の日。武器屋で回復薬を買い込む。そして洞窟まで向かう。その間のモンスターは相変わらずプチデビル。今の私とシルビィにとっては手ごたえは感じられない。洞窟の中……久しぶりに現れるであろう新種のモンスターに心は弾む。でも昨日の違和感は抜けない。
「お姉ちゃん、洞窟ってここ?」
「そうみたいね。気を付けて入りましょ!」
洞窟の中に入ると薄暗かった。目が慣れてくると視界としては十分な明るさがあった。外の光は閉ざされているけど、中に自生している苔が光を放ち、明るさを提供していた。私達は警戒をしながら洞窟の奥深くにもぐっていく。最初に現れたモンスターは……。
「キシャァァ!!」
もう見慣れたプチデビルだった……。内心ここにもいるんだと思いながら、手に取ったナイフでプチデビルを捌く。返り血が飛んでくるがもうそれは慣れた事。シルビィも一刀両断してプチデビルを撃退する。
「ねぇ……プチデビルばっかりなのかな……」
「ん~違うと思うよ? ほらあそこ」
シルビィが指さす方向を見る。そこにはアルマジロのようなモンスターが居た。体は岩に囲まれて丈夫そう。ナイフが刃こぼれしないか心配になる。
「じゃあ、行くよ!!」
「はい! お姉ちゃん!」
私はアルマジロに突進する。アルマジロは体を丸めて突進してくる。そこにナイフを当てて弾道をそらす。その逸れた弾道の先にはシルビィが待っていた。渾身の力でシルビィはアルマジロに剣を叩きつける。シルビィの一撃は重かったようで、アルマジロは血しぶきを上げて倒れる。戦い方に慣れるまではシルビィに任せた方がいいだろうか? 私は跳んでくるアルマジロをシルビィに向けて飛ばす。
「お姉ちゃん!お腹を狙って!」
シルビィが叫んでアルマジロの弱点を伝える。私はシルビィに視線も送らず、丸まる前のアルマジロの腹に向けてナイフを突き立てる。するとアルマジロは体液をぶちまけてその場で倒れる。なるほど……この戦い方ね。コツはつかめてきた。
「シルビィ! ありがとう!」
モンスターを睨みながら私はシルビィにお礼を言う。そんな戦闘を繰り返して、洞窟の半分ほどまで攻略する。時間的にはそろそろ日が落ちる頃合いだろうか? とりあえず今日は下見なので、シルビィに帰る旨の合図を送る。洞窟の外に出ると日が落ちていた。村に戻り宿に着き、浴びた鮮血と洞窟の埃を洗い流して、部屋でくつろぐ。
「お姉ちゃん、交換日記見ない?」
「あ、うん」
ちょっとした心のわだかまり。なぜか拭えない。私は交換日記を手にするとゆっくりとユウスケの書いた日記を読む。
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【シルビィ助けてあげてね!】
こんにちは!
えっと……刺身は魚をさばいて生で食べるものだよ。
「カワカミ」はこっちには居ない魚かな?
僕が好きなのは「ジンベイザメ」って魚なんだ。
大きくて、雄大で……大好きなんだ。
この日記を見るころはダンジョンからの帰りかな?無事だった?
シルビィのレベルとか大丈夫だった?
シルビィに装備買って金欠だったんだね……。
でも、シルビィは強化されてるから、大分楽じゃない?
リノンは回復魔法使えるから、シルビィがピンチの時は、助けてあげてね。
じゃあ、またね!
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この日記を読んで、私の心のわだかまりに一層溝を作った。それでもなぜだか理由は分からない。なんでこう……胸が痛むのだろう?
「お姉ちゃん?」
心配そうに顔を覗き込むシルビィ。なぜだか私の心のわだかまりは大きくなる一方。どうしてだろう……。
「シルビィ、ゴメン。今日は一人で寝かせて?」
「うん……わかった」
心のわだかまりを抑えきれないまま、私は眠りについた。