11話 シルビィが仲間になりました
今日もギルドに私は向かう。仲間を探して。今日こそ勇気を……そう思いながら手を握る力が入る。そしてギルドの扉を開き、話せそうな人を探す。部屋を見渡すと、ぽつんと一人私と同じくらいの女の子が座っている席があった。あの子なら……。
私は勇気を振り絞る。そしてその子に近づく……。そして……。
「あのぅ……」
「ひゃ、はい!」
「い、いや! 何でもないです!!」
私はまた逃げてしまった……。ギルドから飛び出し、街から外に出てスライムに八つ当たり。恥ずかしかった! 穴があったら入りたい! 恥ずかしくて死にたい!! 私はスライムの屍を築き上げていた。
「ただいまぁ……」
「今日もダメだったのね。気にしないの! 次があるから!」
「ありがとう……」
「じゃあ、お風呂に入って、ご飯食べて!」
お母さんに励まされた。言われるがままお風呂とご飯を食べて、私の部屋に向かう。交換日記……ユウスケ、今日は何書いてくれてるかな……。そう思いながら私は交換日記に手を伸ばす。最近は私が手にする前にユウスケは返事をくれる。今日もそうだった。ユウスケの日記を読む。
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【勇気の魔法、リノンに届け~!!!】
こんにちは!
ん……あまりすごくないような気がするけど、まぁいいや。
そういえば宿の件だけど、来週に水族館そばのホテルに
泊まることにしたよ。
リノンを見習って、一人で。
僕は魚が好きだから、ここにしようって決めたんだ。
ギルドの方、なかなかてこずってるみたいだね…。
もう少し、勇気を出して?
勇気の魔法、リノンに届け~!!!
……な~んてね(笑)
スライム、たくさん倒してるみたいだね……。
前はべたべたって言ってたけど、いまはそうでもないの?
じゃあ、また!
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「水族館……」
またわからない言葉が出てきた……。でもお魚が沢山いるところみたい。お魚いいなぁ……私も食べたい。それは置いといて。
「勇気の魔法……かぁ……」
そんな魔法は私の世界では無い。あるならとっくに使いたい。でも……ユウスケの所にはそんな魔法があるのかな? もしかしたら、本越しにその力を使えるのかも知れない。なーんて。多分言葉の魔法なんだと思う。その気持ちだけでも今は嬉しい。
「明日こそ……ね!」
ユウスケから魔法を受け取った。今度こそ話しかけて見せる。出来れば……今日話しかけて失敗したあの子に……。そう誓って私は交換日記を閉じた。
「……」
私はギルドの前に来ていた。ここ最近の日課になっている。早く仲間を見つけて日課から解き放たれたい。ギルドに入り部屋を見渡す。あの女の子を探して……居た! 昨日と同じ位置だ。私は近寄り、話しかけようとする。少しずつ、少しずつ近づいて……。その女の子が座ってるテーブルまでたどり着く。ユウスケから貰った勇気……ここで……。深呼吸して落ち着かせる。そして……。
「……」
「……」
声を掛ける前に、その女の子と目が合う。想定外……この状況で何と話せばよいのか……混乱する。気を取り直して、声を出す。
「「あの!」」
女の子と私の声が重なる。私はもう一度チャレンジする。
「「その……」」
再び声が重なる。私の中ではどうしていいかわからなくなる。混乱している私……この時間はすごく長く感じた。その時間を最初に動かしたのは女の子の方だった。
「……うふふ」
「……あ、あははは」
女の子は突然笑い出す。つられて私も笑いが出る。
「ごめんなさい、つい可笑しくなっちゃって……」
「いえ、私もおかしくなっちゃったから……」
声の重なりの連続。奇跡としか言いようがない。こんだけタイミングが合うなんて。
「初めまして。勇者様。私は『シルビィ・シュタイン』と申します。職業は剣士です。シルビィとお呼びください。以後お見知りおきを」
「初めまして。私は『リノン・ジータ』と言います。職業は……」
「勇者様。有名ですから自己紹介無しでも大丈夫ですよ?」
「あはは……そうですね」
「ところで、なんで勇者様は今までお一人で旅をされてたのですか?」
「んっと……私人見知りが激しくて……仲間を作る勇気がなかったんです」
「そうだったのね。私もそうだったんです!」
女の子……シルビィから話をしてくれて会話が弾んできた。同じ人見知りの子みたい。……でも同い年ぐらいだから敬語や『勇者様』はむず痒い。私はシルビィに提案をする。
「ねぇ、シルビィ。私達って同い年ぐらいよね? もっと普通に話さない?」
「え? 私はまだ15歳です。勇者様は16歳で年上ですので、そんな……」
「なんだ、一つ違いじゃない? ギルドに居るならみんな一緒よ! 勇者様はやめてほしいな……。違う呼び方をしてほしいんだけど……」
「……お言葉に甘えてもいいですか?」
「うん! 全然!」
「じゃあ、甘えちゃいます!」
「うんうん!」
「お姉ちゃんって呼んでもいいですか?」
私は軽く脱力する。「お姉ちゃん」……すっごいフランクにしてきたね。ちょっぴりシルビィが人見知りなのを疑問に思ってしまう。
「ダメ……ですか?」
恥じらいながら、目を伏せて訊ねるシルビィ。あ……ちょっと涙目……。その気持ち痛いほど分かる……きっと、ものすごい勇気を振り絞ったんだと思う。それを断るなんて女の子に恥をかかせる事になる。断れないけど、可愛いから許してしまう。
「うん……いいよ?」
「え? 本当ですか? ありがとう! お姉ちゃん! 私、憧れてたんです! 勇者様みたいなお姉ちゃんが出来ること……。だから思いっきり勇気振り絞ってみました……」
感極まって目に涙をためだすシルビィ。いや、ちょっとここで泣かないでね? 私もっとパニックになりそうだから……。
「そ、そう言えばシルビィはなんでギルドなんかに? 私とそんなに歳が変わらないのに……。どうして?」
「あ、うちの家系って戦士なんです。で、武者修行で実戦経験を積んでこい!! って両親から言われているんです。それでギルドで仲間探しを……」
「そうだったのね……。私は一人旅だとつらくなってきたから、仲間探し。あ……もしよければだけど……私とパーティー組んでもらえない?」
「え? 本当ですか? 勇者……いや、お姉ちゃん!?」
「うん、今クエストで西のダンジョンに向かわなきゃいけなくて……一人だと心細かったからギルドに来てたの。シルビィとならやっていけそうなんだけど……どうだろう?」
「いえ、断る理由なんて一つもありません! 私でよろしければお供いたします!」
シルビィは嬉しそうに胸を張る。こうして私に初めて仲間が出来ました。あれ? そういえば……。
「パーティ成立したら、どうすればいいんだっけ?」
「あ、手続きは私がしてきます。手続きが終ったら、パーティーの解約申請をしない限り私とお姉ちゃんの行動は一蓮托生です!」
私は快くうなずいた。シルビィの漏らした「一蓮托生」と言う言葉を聞き漏らしながら……。シルビィは手続きをしにギルドのカウンターに向かう。しばらくその様子を診ているとシルビィが手招きしてくる。誘われて私もカウンターに向かう。
「ここ、お姉ちゃんのサインが居るみたい。書いてもらっていい?」
「うん、いいわよ」
私はサインをしてシルビィに渡す。こうして正式にパーティーが成立した。
「じゃあ、今日は遅いから帰りましょうか」
「はい! お姉ちゃん!」
私はシルビィとギルドを出ると、家に向かう。シルビィも付いてくる。家一緒の方角なのかな……。そう思ってなにも考えずに私の家に着く。
「私の家はここだから……」
「はい! お邪魔します!」
シルビィも家に帰ってと言う言葉はかき消された……。私が開けた扉の隙間からシルビィは先に家の中に入る。
「あら、お帰りなさい! 仲間出来たのね!」
「……ただいま」
「初めまして。私『シルビィ・シュタイン』と申します。シルビィとお呼びください。先ほど勇者リノン様よりパーティーの任を与えられました」
「シルビィちゃんね。そんな堅苦しくなくても良いわよ?」
「はい、ありがとうございます。お母様。少し崩させていただきますね」
……なんでお母さん、シルビィと打ち解けてるの? 私の頭の中は混乱する。
「あら、リノンは分かってない様子ね……ギルドで説明受けなかったの?」
「うん……」
「勇者のパーティーは特別で、もう家族の絆みたいなものよ? シルビィちゃんからそう言われなかった?」
私は記憶を探る……そういえば……。
「一蓮托生」
「分かった……」
シルビィに言われて、私が返事と共にうなずく。
「シルビィちゃん、部屋はリノンと同じ所を使ってもらっていい?」
「分かりました、お母様。大丈夫です」
いえ、私が大丈夫じゃないんですけど……。仕方ないか……。もう私はあきらめていた。シルビィと共に私の部屋に戻り、私は交換日記を取り出す。
「あ、異世界日記だ! お姉ちゃんやってるの?」
「あ……うん。お母さんがね。普通の日記と間違えて買ってきちゃったの……」
「そうなんだ。でも返事ってなかなか返ってこないって聞いてるけど、お姉ちゃんは返ってきたの?」
「うん! 返ってきたよ! なんだか男の子みたい」
「いいなぁ……私の家ってそういうのやらせてくれなくて」
「いや……家の場合、お母さんが知らなかっただけだから……」
「ねぇねぇ、後で見せてもらっても良い?」
「え? いいわよ? 返事書き終わってからね」
そう言って私は交換日記の返事を綴る。今日……ユウスケの勇気を貰って、シルビィが仲間になったことを……。そして……。
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【魔法届いたよ~☆】
こんにちわ~☆
ユウスケはお魚が好きなんだ~!
私も大好物なの♪
一杯食べてきてね☆
でも、食べすぎは良くないからね?
そうそう、ユウスケの魔法届いたのかも?
今日ね、ギルドで女の子に声かけたの。
そしたら、その子も人見知りだったらしくて……。
最初は二人でしどろもどろやってたけど、
お互いに人見知りってわかったら、笑っちゃった~☆
そして、仲間になってくれるって♪
その子はね、女剣士なの。
まだレベル1みたいだから、しばらくは実家暮らしで
のんびりする~☆
じゃあ、またね~☆
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お魚が大好きって事も。
「書き終わったの?」
「うん! これから送るところだよ」
そう言って私は交換日記を閉じる。淡く光りを放ちユウスケの元に、返事が届いた事を知らせる。
「へぇ……こういう仕組みなんだ……」
まじまじとシルビィは一連の光景を見ていた。そしてその夜は交換日記の事で盛り上がり、疲れるまでシルビィと語らった。ユウスケ……勇気をありがとう。