10話 ギルドに来てはみたけれど
「今までありがとうございました!」
「いや、また来てくださいね!」
宿屋の人に挨拶をして街に向かう。ギルドに向かうために。流石に勇者を輩出するだけあって私の街にはギルドがある。ついでに実家でお世話になろう。道中はプチデビルとスライムに遭遇、殲滅する。……うーん、やっぱりこのレベルだとこのあたりのモンスターは敵では無いような気がしてきた……。返り血で血みどろになりながら、街に到着。私の実家に帰る。
「ただいま~」
「あら、早かったわね? お帰りなさい」
「うん、ちょっとクエストこなすのに、仲間が欲しくて……ギルドに行こうと思うの」
「そうね……仲間は居たほうがいいわよ? って、今まで仲間無しでやってたの?」
「……そうだけど?」
ちょっと呆れた顔をするお母さん。
「まぁ、今日は遅いから明日行ってみなさいね? 洗濯物は出して頂戴」
「はーい!」
久しぶりの実家。なんだか居心地が良い。お風呂と食事を済ませてから私の部屋に戻る。これも久しぶり。出ていったままの状態で残されてた。私は荷物の中から交換日記を取り出して中を見てみる。ユウスケの返事は……あった!
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【ユウスケはエアコンを手に入れた!】
こんにちは!
こちらは夏バテ解消のためにエアコン作戦、完了しました!
エアコンあると快適です。
……宿題がはかどるって言ったから、しっかりやらないとだけど……。
ん……まぁ、言われると確かにクエストを、一杯こなしてるような感じかな?
でも、お客さんの御用を聞いて運ぶだけだから、そんなに負担じゃないかも?
人見知りのリノンにはつらい仕事かもしれないけど……。
僕は楽しんでやってるよ。
仲間だけど、もしかするとリノンみたいに人見知りの人もいるかもね?
ここは頑張って!!
じゃあ、また!
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私と同じ人見知りの子……ねぇ? そんな子いるかしら? ユウスケの日記を見るとやっぱり理解できない単語が並んでいる。エアコン……手に入れたんだ……。ユウスケもお仕事するのか……私も頑張らないと……。
明日、ギルドに向かう事として、今日は休む。
「リノン。リノン! 起きて!!」
「ん~、もう少し寝かせて~」
「しょうがないわね……」
・・・・・・
「リノン~、そろそろ……」
「うーん……」
「もう、しょうがないわね……」
・・・・・・
「……」
あれ? もう日差しが……。
「お母さん?」
「ああ、今起きたのね? 疲れてたみたいだから休んでもらったわ」
「うん……ありがとう」
たっぷり寝かせてもらっちゃった……こんなに落ち着いて眠るの久しぶりだと思う。やっぱり実家は最高! ……っと、明日こそギルドに行かなきゃ……。私は交換日記を広げ私の日記をつける。
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【実家最高~☆】
こんにちわ~☆
おぉ!! ついにエアコンを手に入れたのですね!
ユウスケはエアコン使いこなせてる?
ファミレスって、運び屋っぽいもの?
なんか、クエストの話を聞いてると、ほんと、
ユウスケが勇者ならいいのに……って思えちゃう……(-ω-;)
今日は久しぶりの実家です!
実家っていい感じだね~、落ち着く~☆
明日はギルドに行ってみようと思うの。
だから、ユウスケも応援しててね♪
私みたいな人見知りの人って、ギルドにいるかしら?
とにかく、明日ね~。
またね~☆
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「エアコンいいなぁ……」
よくわからないけど、ユウスケが喜んでるのを見ると、ちょっとうらやましくなってきた……。私は私。明日はギルドに行かないと……。交換日記を閉じてユウスケの元に届くのを見送った。
「……」
なんか、ギルド行く気しない……。私人見知りだから、やっぱり声かけるの怖い……。お母さんに相談してみる。
「ねぇ、お母さん」
「どうしたの?」
「ギルド……行きたくない……」
「あぁ……人見知りだしね……今日もゆっくり休んでみたら?」
「……うん」
「焦らなくていいわよ? じゃあ、好きなように過ごす!」
お母さんに言われて、少し落ち着く。今日は……やめておこう。そう思ったら急に体が軽くなったように思えた。存分に遊ぶ! 私は一日中部屋でごろごろしていた。日もすっかり沈んだ頃。交換日記がほのかに光りだす。ユウスケからの返事だ! 私は交換日記に手を伸ばし、ユウスケの日記を読む。
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【リノンが勇者でよかったと思うよ!】
こんにちは!
エアコン、使いこなしてるよ?
ぴっ、ぴって。
エアコンあると快適です!
夏バテも何とかなりそう。
僕が勇者でも、スライムも倒せない気がするよ?
だから、リノンが勇者なんじゃないかなって思う。
自信をもって!
実家暮らしもいい……かぁ……。
うちは両親がうるさいから、早く出たいな……ってるよ。
僕は旅してるリノンが羨ましいと思う。
仲間探し、応援してるね!
じゃあ、またね。
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「ぴっ、ぴっ?」
またよくわからないことが書いてる。けど……。
「今日のタイトル……」
少し心が温まる。私が勇者でよかったと……。それだけでも嬉しい。そして仲間探し。これをすることに私は力を注ぐことを決める。明日こそは必ず……。
お気に入りのクッションに囲まれながら、私は眠りにつく。
「……ギルド……仲間……」
私はギルドの建物に来ていた。まだ入る勇気が出ない。でも……。
「ユウスケ……」
そう、ユウスケが励ましてくれたんだ! 私は勇気を振り絞って中に入る。中は広間になっていて、テーブルと椅子が並べられていた。冒険者達は思い思いの席に座って語らっている。今日の獲物の話し。これからの作戦。仲間のスカウト。それぞれ。
「うーん……」
私は一人唸る。この雰囲気で話しかけろと? むりむりむりむり!! 私は硬直したまま時だけが過ぎ去っていく。
「あのぉ……」
「ひゃ、ひゃい!!」
「あ、やっぱり勇者様ですね!? よろしければ、私をパーティーに……」
「しぃ、失礼します!!」
私はギルドを飛び出してしまった。うーん……なかなか難しい……もう無理なんじゃないだろうか……。悔しかったので街の外に飛び出す。
「うりやぁぁぁ!!」
スライムを見つけた片っ端から倒していく。八つ当たり。なんの? 私の頼りなさ。思う存分スライムに八つ当たりしていると、日が落ちていた。時間も時間なのでとぼとぼと家に帰る。
「ただいまぁ……」
「おかえり。落ち込まないの! 焦らなくていいんだからね?」
「ありがとう……」
お母さんに励まされる。そして私は部屋に籠って交換日記を綴る。
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【ギルドで声かけれなかった……( ;∀;)】
こんにちわ~☆
エアコン、ぴっ、ぴっ?
よくわからないけど、ユウスケすごいね!!
使いこなしてるんだ……。
今日はギルドに行ったけど、全然声かけられなかったの……。
なんか、先行きが不安~(-ω-;)
仲間作れるかなぁ……。
お金も必要だったから、久しぶりにスライム狩ってたの。
前は1日に4~5体が限界だったけど、
今日は軽く2桁行っちゃった♪
……と、言っても経験値もお金も少ないけどね……( ;∀;)
旅、ユウスケとなら楽しそうなんだけどなぁ……。
じゃあ、またね~☆
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本当、ユウスケとだと旅は楽しそう……。そう思いながら交換日記を閉じてユウスケに送り届けてもらう。がっかりするかなぁ……。