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こたつと元暗殺者たち

監禁時代の正宗くんと、お友達の神さんのお話(※神さん視点)。

本編ちょい前くらいの設定!


【黒き死龍】【暗黒街の死神】【闇の殺戮者】

 物騒な二つ名をいくつも持ち、裏社会では最強の暗殺者とまで呼ばれた男が、俺の前でこたつに入りミカンをむいている。


 一度でも目が合ったら命はないと言われていた鋭い眼差しをミカンに向け、一生懸命白い筋を取っているこの男の名は黒龍(こくりゅう)正宗(まさむね)。俺のかつてのライバルである。


「お前、ほんっとこたつ似合わないねぇ」

「それを言うなら、(じん)も似合っていないぞ」

「俺だって好きで入ってるんじゃない」


 俺たちがいるのは、とある秘密研究所にある小さな独房だ。

 白一色で統一された部屋には必要最低限のものしかなく、唯一生活感があるのは狭い部屋の中央に置かれたこたつだけという殺風景さである。

 その部屋に、正宗はもう五年近く監禁されている。

 奴は恐ろしい力を持つ超能力者でも有り、その力を危険視されこの研究所に閉じ込められているのだ。

 

 とはいえ、もちろん彼が本気を出せば抜け出すことなど造作もない。この研究所の設立には某大国の政府機関が関わっているが、たとえどんな組織でも彼にかかればあっという間に壊滅できる。

 けれどあえて抵抗することもなく監禁されているのは、この部屋にこたつを持ち込んだ一人の少女のためだろう。

 彼女の身の安全と生活の保障と引き換えに、彼は大人しくしているのだ。それどころか、時折その力を人助けに使いヒーローのまねごとのようなことをしている。


 そして俺は、そんな彼のお目付役だった。俺も元暗殺者なので政府機関に仕えるなんてガラではないが、滅茶苦茶給料が良いので引き受けた。

 それに何より正宗の監視は楽だ。奴は日がな一日中こたつでグダグダしているばかりなので、こちらもダラダラしていればいい。

 まあ、裏社会で名を馳せた男二人が、日々こたつでミカンと格闘しているのはどうかと思わないこともないが。


「それにしても、このこたつもずいぶんくたびれてきたな」

「元々、和葉の家にあった奴だからな」

「そろそろ買い換える?」

「いや、これが良いんだ」


 言いながら、正宗はこたつの足に手で触れる。


 そこには、正宗の彼女である和葉ちゃんが「お守り」と称して彫った印がある。

 いわゆる相合い傘と言う奴だ。

 正宗はその意味を知らないようだが、それを撫でていると落ち着くらしく、一時期は同じ印を身体に彫りたいとか馬鹿なことを言って和葉ちゃんを困らせていた。



「このこたつ、本当に気に入ってるんだな」

「和葉との想い出が詰まってるからな」

「つまり、これに入りながらいちゃいちゃしたんだろう」

「否定はしない」

「今、いけない妄想してるだろう」

「今はしてない」

「でも俺がいないときはしてんだろ」

「否定はしない」


 感情が顔に出ないのでクールに見えるが、正宗は和葉ちゃんにぞっこんだ。

 愛と恋にまったく縁がなさそうなキャラのくせに、こいつは女子高生だった和葉ちゃんをたらし込み、同棲までしていたのだ。

 それを知った時、俺は正直かなり嫉妬した。

 だって女子高生である。その上和葉ちゃんは滅茶苦茶可愛いのである。

 それがよりにもよって何故この無愛想な男を選んだのか。あいつで良いなら俺でも良いだろうと思い、かつて奴に喧嘩を売ったこともある。正直に言おう、俺は女子高生の制服にムラムラするタイプなのだ。

 だが煩悩に捕らわれすぎたこともあり、俺はあっけなく返り討ちに遭った。

 あのとき和葉ちゃんがかばってくれなければ、多分俺は死んでいただろう。今でこそこたつの虫になっているが、あの頃の正宗はもう少し冷酷だった。

 まあそれも、和葉ちゃんのおかげでだいぶマイルドになったが。

 

「正宗が女の子の妄想しながら暮らしてるなんて、昔の馴染みが知ったら驚くだろうなー」

「昔の馴染みの大半はもう死んでるだろう」

「っていうか、お前が殺しちまったしな」

「俺も殺したくはなかったんだが……」

「まあ自業自得だろう。お前に勝てないからって、どいつもこいつも和葉ちゃんを狙ってたし」


 俺は女と子供だけは殺さないと決めていたし、和葉ちゃんと言うより制服目当てだったから助かったが、正宗を殺して名を上げたい同業者たちは彼女を利用しようとして、軒並み殲滅されていた。

 最近は正宗も手加減を覚えたが、和葉ちゃんが狙われたときの奴はいつも以上に化け物じみた強さを発揮する。

 何せ正宗は軽く手を上げただけで、ありとあらゆる超能力を使える。その上格闘術も銃の腕も規格外で、超能力を封じられていてもチャックノリス並の強さなのである。


「でもまあ、消しといて良かったんじゃないか? 敵がいない方が、ここから出たとき色々と楽だろう」

「確かに、ここから出たら今度こそ和葉と平和に暮らしたい」

「もう五年も大人しくしてるし、そろそろいちゃラブ生活が解禁されるかもしれないぞ」

「ならそのときは、このこたつを抱えて和葉に会いに行こう」

「いや、そこは指輪とか花の方が良いんじゃないか?」


 俺はそう提案したが、こたつが良いと正宗は言い張った。

 和葉ちゃんと会って頭のネジが緩んだのか、元々緩んでいたのに誰も気づかなかったのかはわからないが、正宗は思考回路が常人ともの凄くずれている。

 黙っていればいい男なのに、やることがちょっとおかしい。いや、ちょっとどころではないかもしれない。


「こたつを抱えてって、もの凄くかっこ悪いぞ」

「かっこ悪くてもいい。こたつは今の俺になくてはならない物だ」


 断言する正宗に、俺は思わず苦笑する。


「お前は変わったな。昔は銃だけが相棒ってキャラだったのに」

「銃より、こたつの方が良いだろう」

「気持ちはわかるが、あんまりだらけると腕が鈍るぞ」

 

 言いながら、俺は正宗を観察する。

 警戒心のまるでない顔を見ていると、今なら勝てるのではと言う思いが芽生える。

 俺だって、自分の腕だけを頼りに裏社会で生きてきた男だ。かつては正宗を殺し名を上げたいと思っていたこともある。

 そのときの闘争心が、どうやらまだ心の奥底には残っていたらしい。


「油断していると、俺がお前を殺るかもしれないぜ?」


 言葉と共に、俺はジャケットの中に腕を差し入れると、持っていた銃を引き抜き正宗へと向けた。

 そのまま引き金に指をかけたが――、残念ながら銃声は響かなかった。

 割と本気で撃ってやろうと考えていたのだが、それよりも早く正宗が俺の手から銃を奪ったのだ。

 どうやら鈍っていたのは俺の方らしいと気づいた直後、今度はこちらに銃口が向けられる。


「お前は俺を殺さない」


 銃口と共に向けられたのは、穏やかな微笑みだった。

 無駄にいい男なので、不意打ちの微笑みには男の俺でもドキッとしてしまう。

 和葉ちゃんはきっと、これにやられたに違いない。だからこの笑顔を写真に撮って送れば彼女は喜ぶかもしれないと、暢気な考えさえ浮かぶ。


 しかし正宗の笑顔は、長くは続かなかった。

 だらけきっていた気配をかき消し、正宗は突然部屋の入り口へと銃口を向けたのだ。


「どうやら、客が来たようだ」

「……正宗ってさ、無自覚にキザなこと言うよな」


 などというやりとりをしていると、前触れもなく部屋の扉が開き、見知らぬ男が飛び込んでくる。

 その手に銃が握られていると気づいたが、俺が動く必要はない。

 先ほどまでミカンをむいていた手で、正宗が素早く銃の引き金を引いたのだ。肩を打ち抜かれた男はばったりと倒れ、苦悶のうめき声をこぼしている。死んではいないが、あの分ではすぐには動けまい。


「惚れ惚れするほどの早撃ちだな」


 ひとまず危機は去ったと判断し、俺はこたつに入ったままのんびりと言った。


「いや、やはり大分鈍った。それにミカンの汁で指が滑った」

「それでも十分早いだろ」

「しかしあと一歩遅かったら、こたつに穴が開くところだった……」


 銃をくるりと回し、俺に返すその仕草は格好いいのに、口にした台詞はどこまでも情けない。


「こんな奴に、銃を向けた自分が馬鹿らしいな……」


 完全に気が抜けてしまい、俺はそのまま昼寝でもしたい気分になる。

 だが残念ながら、また元のようにダラダラとこたつに入っているわけにはいかないらしい。


「銃は返さなくていい。たぶんもう少し使うことになる」


 何やら外が騒がしい事に気づき、俺は銃を押し返した。

 こんな物がなくても正宗の超能力なら敵をすぐさま殲滅できるのだが、残念ながら研究所の中では奴の力は封じられている。

 そしてそんな正宗の状態を知り、こうして敵が襲撃してくることがまれにあるのだ。


「それにしても今回はそこそこの手練れっぽいな。他にも敵がいそうだし、今頃正宗狙いの敵さんが、研究所を制圧してたりして」

「おい、フラグを立てるな」


 呆れたような声に、俺は小さく首をかしげる。


「フラグって何だ?」

「俺もよく知らないが、和葉が時々使う言葉なんだ。これから起こりそうな事象を口にしたり、死にかけたときに愛の告白をすると、よくそういって怒られる」


 なるほどと頷いたとき、今更のように襲撃を告げるけたたましいアラームが鳴り響いた。

 その上『自爆装置が作動しました』などという物々しいアナウンスまで聞こえてきて、俺は今更フラグの意味を察する。


「……予想以上に騒がしいが、和葉は無事だろうか」

「安心しろ。彼女は今日、何かのアニメの応援上映があるとかで出かけてる」

「なら慌てなくて良いか」

「いや、慌てろよ」


 さすがに建物ごと爆破されたら死ぬ。

 正宗はうっかり生き残りそうだが、俺は死ぬ。


「とりあえず逃げるぞ正宗」

「わかった。では、そっち側を持て」

「ん? そっち?」

「こたつの足だ」

「まさかお前、これ持ってくのかよ!」

「当たり前だろう」

「敵に占領されてるんだぞここは」

「そんな場所に、大事なこたつを置いていけない」


 絶対に一緒に行くと正宗は豪語する。

 そんな調子で逃げられるのかと質問しようとしたが、その必要はなかった。

 そうこうしている間に現れた新たな五人の敵を、正宗が凄まじい早撃ちで倒してしまったのである。

 その姿は暗殺者時代を思い起こす凜々しい物だったが、左手でさりげなくこたつのコンセントを抜いているのを俺は見てしまった。

 まったくもって器用な奴である。


「よし、逃げるぞ神」

「くそっ、仕方ねぇな……」


 どこからか聞こえてくる自爆までのカウントダウンを無視できず、結局俺は折れた。


「この貸しはいずれ返して貰うからな」

「わかった、もしここを出られたらお前のためにケーキでも焼こう」

「そういうお礼はいらねぇよ! それに今の、脱出に失敗するフラグっぽいぞ!」

「安心しろ。フラグは折ることも出来るらしい」


 だから頑張ってこたつを守ろうと言われてしまえば、もう何も言えない。

 そして文句を言いつつも結局こたつを担いでしまうあたり、どうやら俺も正宗の同類になりつつあるらしい。


「ここからでたら、今度は俺がお前を振り回してやる」


 そんな言葉をつぶやいてはみたが、正宗の耳に届いているかは定かではなかった。



このあと、こたつを担いで滅茶苦茶ドンパチした。

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