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こたつとダークスカルさん

和葉(19歳)と謎の暗殺者のお話。


 窓ガラスが割れ、黒い影が室内へと飛び込んできたのは、冬コミの原稿に精を出していたときのことだった。

 なかなかエッチな絵が書けたなと自画自賛していたのに、買ったばかりのタブレットを、黒いブーツが踏みつける。


「……貴様が、和葉か?」


 低い声がして、私は慌てて上を見上げる。

 こたつの上に立っていたのは全身黒づくめの男だった。その上、ドクロをかたどった黒い仮面をつけている。


「うわぁ、だっさい……」


 思わず声を上げた瞬間、ドクロの男はぎこちなく動きを止める。


「な、名前を聞いている」

「そういう場合は、先に名乗りなよ」

「……ダークスカルだ」

「名前も、だっさいね」


 ダークってベタすぎるだろうと考えながら、私はブーツの下からタブレットを引き抜く。

 こういう事態に備えて強度のある保護シールを貼ってあったが、ディスプレイは綺麗に砕けていた。

 それにため息を溢していると、ドクロ男――ダークスカルさんが私の顎に手をかけ上を向かせる。


「俺を見ろ」

「いや、見たら笑っちゃうし」

「何故笑う」

「だって、服装も仮面もあまりに厨二要素満載過ぎて」


 ダークスカルさんの名誉のために言うと、決してかっこ悪いわけではない。

 だが黒いロングコートに銀髪に加え、目元を隠す仮面がドクロなんてあまりにベタすぎる。


「よくわからんが笑うな。それに、貴様の命は俺の手の中にある」

「……台詞も――」

「だまれ」


 私が言いたいことを察したのか、ダークスカルさんが素早く言い放つ。


「それより質問に答えろ。貴様はあの、『黒き死龍』の恋人なのか?」

「それ聞いてどうするの?」

「だとしたら、俺は貴様を殺さなくてはならない」

「いや、そこは素直に言っちゃ駄目だよ。殺すって言われて答えると思う?」

「……」


 ドクロの仮面の下で、ダークスカルさんの目が泳いだ。


「まあ、私は優しいから教えて上げるけどね。……恋人じゃないよ、残念ながら」

「嘘をつくな。恋人でもなければ最強の暗殺者であるこの俺に、お前のような小娘の抹殺依頼がくるわけがない」

「自分で最強って言っちゃうんだ」

「そ、組織から、そう言えと言われている……だけだ……」

「あ、恥ずかしいんだ」

「……だまれ」


 そしてさっさと答えろと銃を突きつけられたので、渋々茶化すのをやめる。 


「恋人じゃないけど狙われる理由はあるかな。私、彼に相当依存されてるから」

「依存されているなら、やっぱり恋人だろう」

「いや、それが色々複雑なのよ」


 そして長い話と愚痴になるから、とりあえずこたつに入りなさいと私はいう。

 顎を捕まれたままだと話しにくいというと、彼は渋々と言った様子でこたつに入った。

 もの凄くシュールな光景だったが、それは言わずにおいてあげた。


 それから私は、『黒き死龍』こと正宗くんと自分が何故恋人同士でないかを説明する。


「もうね、絶対あの人私のこと好きだと思うの。でも気づいてないの。もう何十回とエッチなことしたのにぜんっぜん気づいてないの」

「……」

「むしろね、正宗くんを狙う人たちの方が先に気づいてるわけ。だから私、めっちゃ命狙われるんだけど、そのたび『どうして和葉を狙う!』とか言うわけ。いや、お前のせいだろ。お前が私への好意を垂れ流してるからだろって思うんだけど、本人無自覚なの」

「……」

「そこに若干腹立つけど、まあ私も女の子だし、自分で言うのも悔しいじゃない? だから気づくまでずーっと待ってて、だから厳密には恋人じゃないの」

 

 愚痴を交えながら、その後も私はダークスカルさんに正宗くんとの関係を語った。

 そうしていると、ダークスカルは段々苦しそうな顔になり、ついには「うっ」と頭をさえた。


「なぜだろう。お前の話を聞いていると胸が苦しい」

「それはたぶん、身に覚えがあるからじゃないかな」

「そんなわけがない……俺は恋など……」

「してると思うよ、現在進行形で」


 ビシッと言い放つと、彼の苦しげな表情が濃くなる。


「馬鹿を言うな……。それに何故、お前が俺のことを……」

「実は私、あなたのことは何でも知ってるの。それにこの展開、もう4回目だし」


 言うと同時に、私は身を乗り出し、ダークスカルの仮面を外す。

 抵抗するタイミングを逃したのか、彼は唖然とした顔で私を見つめていた。

 

「私、悪堕ち展開ってわりと性癖に刺さるんだけど、4回もやられるとさすがにイラッとくるんだよね」


 イラッと言う気持ちを込めて、私はダークスカルの唇を強引に奪う。

 最初は抵抗していたが、唇を優しく吸い上げてやれば、彼の方が私を抱き寄せてくる。


「なぜ……俺は……」

「抵抗できなくなるか、知りたい?」


 尋ねると、彼は小さく頷いた。


「その理由は、自分の身体に聞いてみるといいよ」


 言ってから、なんだか悪役みたいな台詞になってしまったなと気づく。

 いやでも、悪役にもなりたくなる。

 だってこちとら、コミケの締め切りまで5日を切っているのだ。なのに原稿のデータが飛んだのだ。

 それにそもそも、こんなギリギリになってしまったのはどこかの誰かが敵に捕まったあげく、洗脳なんぞされたせいだ。

 そして私のことをすっかり忘れてしまったことが悲しくて、一週間ほど泣いて過ごしてしまったからなのだ。


「……かず、は……」


 ダサイ名前の男が、戸惑った声で私を呼ぶ。

 いや、もしかしたら今のはダサイ名前の男の中にいる、もっとダサイ男の声だったのかもしれない。


「思い出したら、その格好でコミケで売り子させるから覚悟してね」


 言い放つと、私はこたつの上に乗り上げ、先ほどより荒々しい口づけをした。



 そしてその翌日――、私は原稿のアシスタント兼売り子を無事取り戻した。

 コミケの新刊は無事出たが、割増料金で頼むことになってしまった。

 もちろん追加の費用は、ダークスカルさん持ちである。


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