プロローグ
私の彼氏は、存在が痛々しい。
存在というか生い立ち的なものが、「中二の男子が考えた設定かよ!!」と叫びたくなるような難儀なものなのである。
まず彼は、私と出会う少し前まで、とある秘密結社で暗殺者をしていた。
そういう妄想にとりつかれているとか、現実の自分を受け入れられず心が壊れているとかではない。
事実、彼は秘密結社の元暗殺者だった。そして私と出会った頃は足を洗い、探偵業を営んでいた。
彼と出会ったのは、今は亡き私の愛猫『福助=クラーク=スプリンクラー二世』が行方不明になり、彼に捜索を依頼した時のことである。
その後色々あって仲良くなった後、私は告白されたのだ。
『俺は昔、人を殺していたんだ』……と。
最初にその告白を聞いたとき、私は凄まじく驚いた。
驚きのあまり『そういう発言が許されるのは、中二病にかかった男子中学生だけですよ!』と本人に言ってしまった。
『いい大人がそんなことを言っちゃ駄目です。そんなんだからお客さんが来ないんですよ!』とまで言ったきがする。彼の一世一代の告白を信じてあげなかったことは反省しているが、当時の私はいち高校生だったので、暗殺者なるものが実在するとは思っていなかったのである。
だが彼の言葉は、事実だった。嘘偽り無く、彼は元暗殺者だった。
おかげで色々な事件に巻き込まれ、私も結構ひどい目に遭った。
そしてそれだけでも十分衝撃的だが、その上更に、彼は人体実験により生み出された超能力者だったことが後々判明する。
彼がそう教えてくれたときも、私は混乱し『設定をもりすぎるのは駄目ですよ! 過剰なまでのてんこ盛りが許されるのは、中学生男子の妄想の中だけですよ!』と、うっかり溢してしまった。
でもコレも、事実だった。その上彼は、自分の能力を制御できないが故に、時折謎の発作に苦しんだりしていた。『力が制御できない……』と胸を押さえたりしていた。
さすがにそれを見たときは本気で心配して三日三晩看病したが、今思えばそれが彼に懐かれたきっかけだった。
その後何やかんやあって――この何やかんやを説明すると、ラノベ二十巻分相当の大スペクタクルになるので割愛するが――私と彼は付き合うことになり、今は小さな商店街でカフェを経営しながら一緒に暮らしている。
彼を狙う秘密結社やら超能力者といったラノベ的存在は全て駆逐したので、ここ一年ほどは穏やかな日々だ。
その間に、彼も『中二病』という言葉の意味を学んだ。
中二病がうずく設定のアニメを見ると「俺、ほんと、存在がアニメだったんだ……」と、何やら恥ずかしがっている。
私が過去のコードネームや二つ名を呼ぶと、顔を真っ赤にしながら悶えたりもする。
だが一方で、彼はまだ、中学生男子が夢見る人生から完全に抜け出せたわけではない。おかげで端から見ると、彼は痛々しい言動を繰り返す残念なイケメンにしか見えない。
そしてコレは、中学二年生が必死に考えた格好いい男――を地でいく『黒龍正宗』と私の、平和で甘々な、日々の記録である。