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3色のビー玉  作者: 春夏秋冬
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遣らずの雨ー【雨 黒板 稲荷寿司】

【遣らずの雨】



雨の降る森で、僕は彼女に出会った。身体中傷だらけで、なのにその瞳はきらきらと、怖いほどの生命力にみなぎっていた。


「助けなさいよ。」


彼女は強い口調で言った。僕は首を振るしかできなかった。僕には彼女を助ける力なんてない。だって僕は、彼女に触れない。


「あんた、困っている人を見たら助けろって習わなかったのかい?」


僕は傷ついてなお、美しい彼女が羨ましかった。僕はひどく、醜いから。


「黙りじゃあ何もわかんないよ。ほら、さっさと行きな。もしあたしを助けたいんならそうだねえ、回転寿司でお稲荷さんでも買っておいで。」


もし助けたいのなら、というよりは助けて当たり前、買ってきて当たり前と言った彼女の態度は、強く心惹かれた。





「あんたねえ、人の話を聞いていなかったのかい?」


彼女は変わらず、同じ場所にいた。彼女を見つけてからから2日たったが、相変わらず同じ檜の木の根を枕にぐったりと横たわっていた。そして雨も、しとしとと、まるで彼女を森とともに包み込み、逃さないようにするかのように降り続けていた。


「大トロを買ってくれば女は喜ぶなんて思ってたら大間違いだよ。次はちゃぁんと、稲荷寿司を買っておいで。」


なんだかんだ文句を言いながらも、彼女はちゃんと5つの大トロ握りを完食した。そして最後に僕の方へ黄色い石の欠片を放ってよこした。それが彼女なりの御礼なのだろうと僕は解釈し、その石を持ち帰った。




2回目にあってから、さらに2日後、止まぬ雨の中、僕は今度は鰻のお寿司を持って行った。彼女の瞳は、怖いを通り越して恐ろしいほどに光り輝いていた。まるで命の火が、最後に大きく大きく輝くような、そんな恐ろしい輝きだった。彼女は憎まれ口も言わず、歯を見せずに微笑んだ。


「もう、来るんじゃないよ。」


そして彼女は、白い石の欠片を放ってよこした。彼女の体はやせ細っていた。





次の日、僕は嫌な予感がして森へと向かった。嫌な予感がした理由、それは真夜中にこの長い雨が止むと予報があったから。


「もう来るんじゃないと言ったろう。」


僕は来るときに買ってきた回転寿司のお稲荷さんを鼻の前に置いた。


「やっとお稲荷さんかい?」


食べようとする彼女からお稲荷さんを取り上げ、紙を見せた。


『遣らずの雨が止みます。あなたはもう、留まっていられない』


「遣らずの雨を知っているか、人の子や。じゃあ稲荷寿司の事も知っていたのか。」


『狐は、稲荷寿司を半分食べ、半分を稲荷神にに残してあの世へ行くと。』


彼女、老いた2尾の狐は笑う。歯を見せずに、悲しそうに。


「客人を帰さない遣らずの雨、その雨は籠となり、狐の魂も逃さない。今夜、止むのであろ、龍神様のところへ稲荷御前が行ったのかね。」


『狐の玉をお返しします。あなたを表す欠片を』


「お前さんにあげるよ、ありがとう。」


阻む隙もなく、お稲荷さんの半分は、狐の口の中に吸い込まれた。

雨が、止む。


掻き消えた彼女の横たわっていた場所には、1つの小さな割れた黒板が落ちていた。そこに描かれているのは、狐。彼女は嘆くだろうか。妖はどんどん死んでいっている。付喪神も、犬神も、その運命からは逃れられない。彼らの居場所は年々奪われ続けているのだから。


僕は2つの石のかけらとともに、かつて狐の本性であった黒板を檜の根元に埋めた。


檜の願いは、想いは、結局のところ何の意味もないのだと誰にでもなく毒づいて。

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