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不死者狩人は、マザコンでした 《未完、更新停止中》  作者: 賢木
取り戻した後の日常
16/24

02

 





 ベッドから立ち上がり、入院着を脱ぎ捨てようとして、着替えがないことに気がついた。

 バスタオル一枚で、どうにかしろってことか。

 無理だろ!


「こちらをどうぞ!」


 憧れで輝く瞳で見られることは、居心地が悪い。

 満面の笑みとともに渡された圧縮パックを受け取りながら、こいつ、さっさと帰っちまえ、と思ってしまう。


 個人的に関わりたくないだけで、好き嫌いではない。


 看護師の格好をしたエルモに、俺が返した笑みは、笑顔じゃなかったのだろう。

 笑顔を作ったつもりの俺を見たミカが、顔を引きつらせていた。


 何年も一般人としての生活をしてきた上に、ここ数日はベッドに縛り付けられて身動きを取れなかった。

 歩くだけでも全身が重い。


 渡されたのはボクサーショーツ、アンダーシャツ。

 そして、紺の長袖シャツ、グレイのスラックス、黒のベスト、ストール。

 銀鎖のネックレス、先端に銀の装飾付きのクラシックブーツ、黒のハンチング。


 気のせいではなく、手触りには差があるものの、全てが狩人時代の懐かしい防刃素材製だ。

 完璧な対吸血鬼用の装備品とも言える。



 吸血鬼を相手取る時の服装が、防刃の理由は簡単だ。


 理由は2つ。

 この街では、拳銃の所持は違法行為になる。

 吸血鬼には、拳銃など必要ない。


 多くの人命とともに、国という大きな枠を失ったせいで、世界経済も危機的状況になり、企業の多くが失われたという。

 街の外が未だに不毛地帯だというのは、数年に一度の調査団の報告で、住民なら知っている。


 死にたくない人々が生き残り、作り上げた街に引きこもったので、その後に発展したのは医療方面ばかり。

 なんの儲けにもならない戦争を続けるより、生き延びたいと思った者が多かったということだ。


 そんな腰抜けばかりが住む〝街〟においては〝銃火器が治安を乱す〟という弱腰な意見が受け入れられた。

 太い客である国家の崩壊と共に、多くの兵器屋も商売を医療方面へと変えていたので、強い反発はなかったらしい。


 地域格差もあるらしいが、現在では、多くの街が銃火器の所持、使用を違法としている。


 元はどっかの国の生き残り達が始めた〝拳銃非所持〟活動らしいが、昨今では吸血鬼が隣人のふりをしているので、銃の一つも枕の下に仕込んでおくべきだ。


 吸血鬼どもは、人が反応できない初速で動くことができる。

 己の鋭く頑強な爪で人の喉を引き裂き、血を浴びるように飲むことができる。


 吸血鬼に銃器で撃たれる可能性は低い、からこその防刃素材なのだが、なんだ、この無駄なオシャレさは。

 どこの伊達男だ?って話になるぞ。


 もっと民間警備会社の人間のような、Tシャツにチノパンのような地味な服でないと目立つだろうに。


 そう思いながら頭を掻こうとして、違和感を覚えた。

 髪の毛が、短い。

 これ、坊主になってないか?


 部屋の奥にあるサニタリールームへ、足早に向かう。

 裸足の足裏が、合成樹脂床に擦れて痛い。


「ウソだろ?」


 鏡に映っていたのは、ある意味では見覚えがあり、同時に見覚えのない顔だった。


 俺の生まれつきの髪色は黒に近い、うねるブルネット(栗色)、瞳もほとんど同じ色だった。

 だが、今の俺は、髪型がおしゃれなクルーカット(GIカット)もどきの上に、明らかに脱色したブロンド(ボトルドブロンド)になっていた。

 瞳の色まで、見慣れないアンバー(琥珀色)に変わっている。


 似合う似合わないの前に、俺の意見とかナシで勝手にイメチェンしたのかよ。


 イメチェンだけならいいが、顔まで違う。

 正確にいうなら違わない、いや、違うのが違うというか、違ってはいない。


 ややこしい話になるが、俺が直近の14年間使っていた顔は、父親の顔だった。

 どうりで老け顔だったはずだ。


 おそらくだが、記憶の改竄をするのに、顔を変える必要があったのだろう。


 今、鏡に映っているのは、18歳の頃の俺の顔だ。

 32歳のおっさんからガキに逆戻りかよ。


 最後に培養移植用の遺伝子提供をしたのが18歳なので、当然といえば当然か。

 外見は年相応でいいってのに。


 女性なら、数年おきに若い時の顔に交換する人も多いらしいが、男で顔を若くする奴はそんなにいない。

 社会ではどちらかというと、年相応に見られずにガキ扱いされるより、おっさんに見られる方がいい。


 まあ、父親の顔で生きていきたくはないので、戻してもらったことは問題ない。

 顔に髪型、髪色や瞳色まで変えたせいで、鏡の中の俺は別人にしか見えない。


 店に、店長として戻る気はないとしても、これからどうしろってんだ?


狼の目(金目)だよ、気に入ったかね?」

「潜伏させるために、わざわざ変えさせたのか?」

「いいや、眼球()損傷してたからね、培養の際に、虹彩の色を変えてもらっただけさね」


 まあ、目の色が変わったからといって、何が変わるわけでもない。

 眼球もと言っているが、他にはどこを交換したんだ?

 記憶にないが、相当暴れたらしい。


 髪や瞳の色を変えたからと言って、親から受け継いだ遺伝子が破損するわけではない。

 狩人として行動する上で、外見を変えるというのは、有利になる。

 少なくとも、吸血鬼どもが探している〝店長〟とは、似ていても別人だからな。


「まあいい、目立つ顔でなければ何でも」

「手間をかけた甲斐があったかね」


 叔父貴の得意満面な顔を見て、首を絞めてやりたい、と思いながら、店長の頃にも同じように思っていたことを思い出した。

 案外、変わってないのか?




  ◆




 シャワーを浴びてから、手足についた拘束ベルトの傷跡を手当てしてもらった。

 着替えを済ませ、叔父貴とミカと共に車に乗り込む。


 エルモは病院に残るらしい、助かった。


 店長の時に趣味で所持していた軽トラもそうだが、移動手段ではあっても、生活必需品ではない4輪駆動車は維持費がかかるので、街の中ではあまり見かけることがない。

 明らかに装甲車らしい形状の4輪車を走らせたら、目立つだろうに。


 今の俺だと、叔父貴に何かあった時に助けられないかもな、と思いながら、促されるままに反対側のスライドドアから車を降りて——すぐ隣に停められていた、2人乗りの小型4輪車に乗った。

 窓は任意で色を変えられるらしく、すぐに緑がかった半透明の黒に変わった。


 後からついてきていたミカは、装甲車の中に残っている。


「囮を頼む。

 最悪の場合は車を放棄していいからね」

「はい、先生」


 ミカは悲壮感を隠そうともせずに、覚悟を決めた男の顔になった。


「歩いた方が、目立たないってことはないか?」


 病院を出るだけで、貴重な狩人を一人失うわけにはいかない。

 これから、地道に吸血鬼共を狩る生活になる以上、手駒を減らすのは得策ではない。


 せっかく髪色と瞳色、服装まで別人になったんだ。

 叔父貴と2人で歩いても、吸血鬼に職質されることはないだろう。


「後方支援が後方にこもっていると、前衛の士気が落ちるんですよ。

 人数が少ないものですから」

「へえ、それならミカ、先に行って待ってるからな」

「は、はい!!」


 まあ、これが叔父貴なりの組織運営だというなら、口を出すのはやめておくべきだろう。

 14年以上狩人の本陣から離れていた俺が、いきなり知ったかぶりで口を挟むべきではない。


 これが、前哨戦であり実戦経験になるのなら、ミカの未来のために、見守ってやろう。

 頭首らしく、どっしりと腰を据えてな。




  ◆




 かつての俺の愛車(軽トラ)とは違い、内燃機関の音を再生する装置などついてない2人乗りは、微かなモーターの音さえさせずに走っていく。

 もちろん運転しているのは叔父貴だ。


 車内に2人きりとなって、待ち望んでいた時が来た。

 あまり聞きたくないが、頭首としてけじめをつけておくべきだ。


 エルモは、俺に武器を渡さなかった。

 それが、わざとなのか、偶然なのかを知るには、ここで叔父貴の意思を知っておく必要がある。


アンドレ(叔父貴)、教えてくれないか?

 どうして〝店長()〟を舞踏会に行かせた、こうなる未来(吸血鬼達との正面衝突)が見えていただろう?」

「記憶の改竄が解けてしまうのは、時間の問題でしたから、頭首様に道を決めていただきたかったのですよ。

 このまま先細りに吸血鬼に滅ぼされるか、最後に徒花を散らすか」

「歳とって弱気になってんのか?

 俺がいるのに滅ぼされるなんて未来、ありえない」


 俺は作戦を考えるのは得意じゃない。

 根っからの考えなしの前衛だ。

 面と向かって対峙した吸血鬼を殺せる、稀有な狩人だ。


 現在、この街にどれだけの吸血鬼がいるにしろ、駆除する方向性は変わらない。


 運よく、この街の駆除が終われば、他の街に活動拠点を移してもいい。

 俺の生きている理由は、吸血鬼を殺すことだけだ。


 あとは、適当なところで種を蒔いて、次に血を残す。

 結婚も恋人も必要ない。


 俺は、俺以外になることは出来ないし、変わろうとも思わない。


「ははは、とても心強いです。

 他の街の狩人達にも、そのように通達をしておきますね」

「ああ、そうしてくれ」


 ミカに敬語なんていらないと言ったが、そもそも俺は敬語自体が得意ではないらしい。

 狩人としてより、オーナーとしての付き合いの方が長かったアンドレ(叔父貴)に敬語を使われると、違和感しか感じなかった。



 

老け顔の32歳のおっさんが、外見18歳の伊達男?になったー

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