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プロローグ

 煙が上がり、炎にのまれていく。大好きな服も、アクセサリーも、お菓子も、ぬいぐるみも、ぜんぶ、ぜんぶ、のまれていく。


「どうして、こうなってしまったのでしょうね」


 全てを諦めた瞳を向けても、相手は一切動揺しなかった。炎に呼応するようにその美しい金色の瞳を煌々と輝かせ、こちらを見ている。


「お前が怠惰すぎた、それだけだ」

「そうですわね。お兄様はいつも正しい。正しくて、強くて、優しくてーー大嫌いでしたわ」


 同じ両親から生まれたはずなのに自分より優秀な兄が、ずっとずっと大嫌いだった。


全ての期待は兄の元に、

全ての愛情は兄の元に、

全ての権力は兄の元に、

全ての才能は兄の元に、

全ての名誉は兄の元に、

私の手のひらにはなにもなかった。


 兄を恨んで、羨んで、嫉妬して、奪おうとして、結局なにも手に入らなかった。


「そうか、私もお前が大嫌いだったよ」


 優しい兄にそう言わせてしまうほど、私は彼を追い詰めていたのだろう。つくづく罪深い妹である。


「お前はいつも俺をお前に重ねていた。俺が持ってるものを奪おうとした。奪おうとして奪えるものではないと、どうして気づかなかった。己で努力をして、勝ち取ろうと、なぜ思わなかった!

挙げ句の果てに、謀反を企てるなど!」


「なぜ、でしょうね…」


 自分で努力するのが嫌だったから、だろうか。いや、与えられることに慣れて、勝ち取ると言うことすら知らなかった。

 熱い、熱い、熱い。喉が渇き、焼け付くような痛みを訴える。

 このまま私は死んでいくんだろう。これは私への罰なのだ。努力もせずに全てを欲しがり、周囲のことを傷つけた。


「兄様は、知らないでしょう。私の孤独も、不安も、苦しみも、悲しみも、痛みも。優秀な兄様だからこそ、気づかなかった。

 私が幸せだったと、お思いですか」


 兄が初めて、表情を崩した。それがひどく心地いいと感じる。歪んでる。いつの間にか、歪んでしまった。兄はいつも、私の前で無表情だった。感情を一切表に出さず、私に接していた。


「は、ははっ…初めて君の本心と話している気がする」

「私もそんな兄さまを見るのは初めてです」


 十年間も一緒にいて、最後の最後で本心で話し合うなんて。もっと幼い頃から兄と話をしていれば、この結末は変わっただろうか、なんて。今更思ったところでどうしようもないことは、自分が一番わかってる。


 私たちはもう、戻れない場所まで来てしまった。


「愚かな兄妹だな、俺と君は」

「えぇ、本当に」


 赤が散って、美しい兄の顔を汚した。兄の顔はひどく苦しげに、歪められていた。



意識を失う間際、一筋の涙が頬を伝った。

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