第三話
時が少し遡ってフィア視点です。
お父様、お母様。お元気ですか? 私は元気です。あの日、叔父様に連れられて鳥籠のような場所から脱出した私は森で平和に暮らしていました。
叔父様が畑で育てた魔力草を往復半日する村にまで売りに行って、野菜を買い、そして動物を狩って物置のような家に帰ってくる毎日。
私は小屋ですることもなく。掃除をして、魔力草を育てて、叔父様が持って帰って来た食料を料理して……。そんな繰り返した毎日ですが、あの監獄のような息苦しい場所とは似ても似つかないほど、とても楽しい日々を送れました。
……今日までは。
まだ日が昇っている時間帯。小屋の扉が開けられてばたりと倒れ込んでくる音に気が付いて小走りで近づくと、そこには腹部から血を流している叔父様の姿があったのです。
「叔父様!?」
小走りから走り出して倒れている叔父様の元へとたどり着くと、部屋の中へと引きずりながら回復魔法を唱えます。
「我が身に宿る神々の奇跡よ――彼の者に救いの光を」
淡い光が叔父様の傷口へと集まり輝いていきました。ですが、傷口が深いのかなかなか治りません。いつもだったらこれくらいすぐに治るはずなのに、治る気配がありません。
はやる気持ちを抑え、広いところに寝かせようかと移動させようとすると叔父様の体に力が入る。
「ぐ……フィ……ア……」
「叔父様! 誰にやられたんですか!? 大丈夫ですか!?」
とたん、バンッと激しい音が鳴って扉が開かれた音がしました。
その音を聞いて叔父様が体を起こして近くのイスを破壊して足の部分だけを持つ。それで抵抗できるわけがないのはわかっているのでしょうが、周囲に武器になりそうなものなんて他にはありません。
「ダメです叔父様! 私……叔父様がいないと何も……ッ!」
「いいから行くんだ!」
「――ッ!」
すると部屋に入ってくる男二人。
それと同時に叔父様が横腹の深い傷口なんて無いかのような足取りで向かっていきます。
「おぉぉおおおおおおおお!!!!」
「こいつまだ動けたのか!?」
「まぁいい! 毒で弱ってるはずだ! 一刺しで殺してやる!」
毒? まさかそれが治癒魔法の回復量を阻害していたというのでしょうか。なら毒を治せば……。
「我が身に宿る神々の奇跡よ――彼の者を蝕む害を払え!」
これで毒は大丈夫なはず。私はすぐさま回復の魔法を唱えようと魔力を込めます。
しかしそれをする前に唐突に叔父様の隣りに覆面の男が現れると、手に持ったナイフで叔父様の首へと……。
「え……お、叔父様……?」
「やれやれ。まだまだ元気でしたか。まぁさすがに喉貫かれて生きてるなんてありえませんし」
「お、叔父……様……? いや……いやぁぁああ!!」
「私は一足先に帰っていますよ。後を頼みます」
「「「へい!」」」
神様……私が一体何をしたというのでしょうか。毎日お祈りを欠かしたことはありません。
ただ平和に暮らしていたい。そんな小さな願い事すら叶えてもらえないだなんてあんまりではありませんか。
ほんの少し手にした自由。それだけが……たったそれだけが私の唯一の救いだったのに……。
私は縋りつくように叔父様に近寄って回復魔法をかけました。
狂ったようにかけ続けます。
数秒、いや、何分唱えていたかわかりません。起きてほしくて……私を一人にしないでと魔法を唱え続けます。
いつの間にかいない覆面男以外が私へと近寄ってくるのに気にも留めずに。
そしてふと、視界の端の男たちの後ろに誰かが現れました。
奴らの仲間が増えたのだろうか。私はそんなことを考え、少し冷静になって周りの状況を掴もうと顔を上げます。
そして……どういう事でしょう。無詠唱で放たれた氷魔法が男を貫き、もう一人を蹴りで気絶させたのです。
仲間割れ……? そんな考えが頭をよぎり、とっさに振り払いました。
外から新たな足音がしてきて新手かと思ったがすぐにその誰かが片づけました。
手際よくすべて片づけてしまった誰かに興味が湧き、その人物を注意深く見てみました。
そこには長く蒼い髪を優雅に揺らし、少し眠そうな感じの碧眼をこちらへと向けている大人の女性が立っていました。背は女性にしては高く、刺繍の入っている高そうなローブを肩から掛けており、手には何も持っておらず、腰当たりに何やら綺麗な柄の剣がチラリと見えたがローブですぐに隠れてしまう。
そんないかにもこんな森奥に居なさそうな人物に対して私は警戒心を上げて話しかけました。
「あなたは……?」
「たまたま通りかかった一般人です」
人気のない森の中でこんな事言われたので、状況も考えずに私は初対面の彼女に怒鳴ってしまいましたが、後悔はしていません。なんでもいい。叔父様の死から目をそらしたかったのだから。
でもそれは彼女が許さなかった。何やら声をかけたと思うと、叔父様の墓を作ろうと言い出した。
もう本当にめちゃくちゃだった。とりあえず、敵ではない事が分かったが、不思議な人であることに変わりはありませんでした。
叔父様のお墓は簡素なもので、女の人も簡単なお祈りをしてくれました。私がそのお墓から離れないでいると女の人は気を使ってくれたのか、私一人残して小屋の中に入っていきました。
老い先短い叔父様でしたがこのような形でお別れになってしまったことに涙し、私は泣き続けました。
泣いて泣いて、涙が出ないほどに泣き続けたのです。
……それも唐突に終わりを告げてしまいました。
「なかなか来ないかと思ったら……あいつらはどうしたんですか?」
「!?」
「まぁ、良いですか。遅いですし運んでしまいますか」
次の瞬間。私は何か堅い物を頭に強く受けて視界が暗くなってしまいました。