幼少時代
クラスにもすっかり馴れてきた美奈代は、気になっていた事を、宙良に聴いてみた。
「大倉君っていつ頃から、マイルスに興味を持つようになったの?」「う~ん、いつからだろう?俺の母は昔、音大に行ってたらしくってさ、俺が物心付く前から、玩具と言えば、やれラッパだの太鼓だの与えられてたんだけど、母さんは同時に、クラシック音楽も俺に聴かせてたんだ」
「それが何でまた、ジャズになるの?」「よくは解らないんだけど、俺に聴かせる音楽が急にジャズに、しかもマイルス・デイビスになったんだ」
「よく解らない話ね」「うん、それより君の方は?」
「私の方もよく解らないんだけど、私が3~4才の頃かな、TVでマイルスが演奏しているのを見て、これがしたいって、言ったらしいの」
「へぇ、まさに運命って感じだね」「ところがね、当時、母は大反対だったらしいの」
「何で?」「解らないけど、とりあえず父の説得で、何とか折れたらしいわ」「ふ~ん、そんなことがあったんだ」
話が盛り上がって来たところへ、田代真由美が割って入ってきた。「ねぇ、何の話?」「あぁ、ちょっと昔のことをね」二人が同時に言う。
「何?それ、ハモるってキモいんですけど~」「ほっとけよ(いてよ)」少し違うがまたハモる。
「プッ、あ、ごめん。それよりさ、昨日、見付けちゃったんだけど」と真由美は言って雑誌の様なものを取り出した。
「これが何?」「このページ見て」真由美は徐に雑誌を開き、写真つきの記事を指差した。
“長野に天才少女現る”の見出しと共に、トランペットを吹いている見覚えのある、少女が写っていた。
「こ…これって真田さんじゃん?」「でしょでしょ?美奈代って本当に凄かったのよ、天才だったのよ‼」
「こんなの昔の話よ、小6の頃、ふいに出たコンクールで、いい結果が出ただけだわ」美奈代は少し照れて言った。
「いや、大したもんだよ。次は俺たちのコンクールだ。期待してるよ」
吹奏楽部のコンクールは一ヶ月後に迫っていた。