神野聖美の告白
ドアが開くと、今日子は、出迎えたマークを抜かして、奥へと入って行った。
「姉さん、聖美姉さん‼」
そう、広くもない部屋の中を見渡した。
そして、聖美を見つけると、瞳から涙が溢れ出した。
「姉さぁ~ん、ごめんなさい」と言いながら、娘がいる事も忘れて、少女の様に聖美に抱きついた。
「今日子、私の方こそ、ごめんなさい。あなたを守ろうとして、却って傷付けてしまったわ」神野聖美の瞳にも涙が溢れていた。
「私、姉さんの事なんか、何にも考えていなかった。自分達の事ばっかりだった」
その時、マークに誘われ、清美が遅れて、入室してきた。
「聖ちゃん…」その瞳には、涙が溢れていた。
「し…清子?」
「聖ちゃん、生きてたのね。良かった…本当に」
「フフッ、当たり前でしょ。この私が死ぬ訳ないでしょ」その言葉とは裏腹に、涙が溢れていた。
「上杉先生?あなたね?この二人を呼んだのは」
「はい、あなたの真実の話は、このお二人無しに、あり得ないと思いました」
「あなたには、本当に負けるわ。いいでしょう、お話しします」
こうして、神野聖美の口から真実が語られ始めた。
「もう、23年になるのね。あの日は驚いたわ。
幸せに暮らしているはずの清子から、泣きながら電話があったんですもの。
しかも、私の排卵障害よりも酷い、着床障害だって言うんですもの」
「聖美さんも、妊娠し辛い体だったけど、母さんは妊娠出来ない体だったんだね」宙良が涙目で言った。
「えぇ、だからこそ清子の気持ちは痛い程、分かったわ」
「私、聖ちゃんに甘えてたのね」
「ううん、私はあなたの話を聞いて、代わりに出産する事に、何の躊躇いもなかった」
「今日子さんの事がなかったら、と言う事ですね」
上杉が口を挟んだ。
「いいえ、今日子の話を聞いたのは、それから、一週間後だったわ」
「だから始め、私の話を断ったの?」
「わからない、あなたの話は清子と違って、私の子を産むって事だったから…」
「もっとわからないのは、何で私達を同時に産む事を決めたのかって事だわ」美奈代が少し強い口調で言った。
「ゴメンね、美奈代…その事が、あなた達まで苦しめたのね」
「そんな事ないよ。そりゃ始めは戸惑いもあったけど、上杉先生もいてくれたから、今はちゃんと運命と向き合えてるよ」
「そう…上杉先生?あなたには、この子達、随分お世話になったんですね?」
「いえ、始めに言いましたが、僕は、この子達の友人として、当然の事をしたまでです。あなたと同じ様に…」
「ウフフッ、あなた本当に面白い人ね。まぁいいわ、話を戻しましょう」そう言って、聖美は、深刻な顔に戻った。
「清子に、代理出産の件を持ち掛けた後、私は出産の備えとして、検診を受けたわ。その検診で子宮筋腫が見つかったの」
「えっ?」誰から言うでもなく、声が上がった。
「お医者様の話じゃ、幸い初期段階で、部分切除すれば治るって言われたわ」
「それで手術しなかったの?」今日子が聞いた。
「さっきも言ったけど、私に迷いはなかった。手術をすれば、その分、出産が遅れるし、出産すれば、全摘出の必要が出てくるけど、私に子供を作る気は、もうなかったわ」
「聖ちゃん…そこまでして…」一度、止まった涙が、振り返す様に、清美の瞳から溢れた。
「その後、すぐだったわ、今日子がウチに来たのは。最初、すごく迷った。まさか、今日子にそんな事が起こっていたなんて」
「やっぱり私、姉さんを苦しめてたのね」今日子も再び泣き出した。
「違うわ、今日子。私には、どちらか一方を選ぶ事が出来なかっただけ。でも、お医者様がおっしゃったの。“かなりのリスクは伴うが、両方を同時出産する方法がある”って」
「それで俺(私)達を?」宙良と美奈代が言った。
「えぇ、私には選ぶ事が出来なかったわ。だから、その方法しかないって…」
「白川医院に身を寄せたのは何故です?」上杉が聞いた。
「一番の理由は、二人から距離を置く為よ。それ以外に、都会から離れ、自然のある所で、二つの希望を、ゆっくりと大切に育てたかった」
「やはり、あなたは二つの生命を愛していたんですね?」上杉の眼鏡がキラリと光った。
「えぇ、認めます。そして、その希望を、私の大切な二人がきっちりと受け継いでくれた」そう言って聖美は、宙良と美奈代を見つめた。




