生物学者への報告
宙良と美奈代は久しぶりに生物学教室へやって来た。このところ音楽活動が忙しく、上杉に会うこと自体も久しぶりだった。しかし、入口のドアの前に立った時、二人はガッカリした。
プレートが“不在”の赤い文字になっていった。念のため宙良はノックした。すると奥から「どうぞ」と上杉の声が聞こえて来た。
「失礼します、先生、プレートが“不在”になってますよ」と宙良が声を掛けた。「ごめん“在室”に替えておいてよ」口調は相変わらずだ。
二人は奥へと歩を進め「先生、お久しぶりです」と声を掛けると、上杉はようやく振り返り「やぁ、ご両人、活躍は聞いているよ」と冷やかす様に言ってきた。
しかし、二人の表情を読み取り、直ぐ真顔になって「今日はどうかしたのかい?」と尋ねてきた。
「実は…あっ」また同時に言ってしまい、改めて宙良が続けた。
「先生、実は僕達あの時の約束を果たしに来ました」「あの時の約束?」上杉自体もこのところ、研究に忙しく、何の事を言っているのか分からなかった。
「僕達、遂に真実を明らかにする為のカギを手に入れたんです」「なるほど、聞かせてもらおうかな?」上杉は表情を変えず言った。
宙良はこのところのマリアとの出会いや経緯、パスポートの事を話した。
「うーん、しかし君達の話を聞く限り、僕はそのマリアさんと言う人、本人から聞くより君達のお母さんに聞くべきだと思うよ」「えっ、でも僕達が以前問い詰めた時、はぐらかされたり、狼狽されたりと、聞き出す事が出来ませんでした」「あの時は、だよ!僕が思うのはあの時、二人のお母さんがそのマリアさん…と言うべきか神野聖美さんと言うべきか…とにかくその人物が行方不明で会うことが出来ない状況だった事からその様になったと考えているんだよ。だから二人ともお母さんに話をするとき“神野聖美”の名前を出せばいいんだ。そして、その人に会ったと…」「なるほど‼」二人とも合点がいった様だった。
「じゃあ、お母さんとの話が済んだら、また来てよ」上杉は軽く言った。




