MARIAの噂
「十川さんの元で働くって、どういう事だよ?」少し口調を強めて、大倉宙良は仁村清に言った
「だってさ、俺らもう三回生だぜ、廻りはみんな内定貰ってんのに、俺…まだ決まって無かったんだもん」と膨れて言った
「じゃあ何か?お前“レコーディングの付き添い”とか言って、就活してたのかよ」「違うよ、お前らがレコーディングに集中してる間に十川さんが俺ん所来て、百合ちゃんやお前らのスケジュールとか聞いてくるから答えてたんだよ、そうしたら十川さんが“三人のスケジュール管理は任せたよ”とか言って来て…」「それでまた調子こいてマネージャー気取りかよ」「だから違うって、その後十川さんに卒業後の事聴かれて、“だったら私の所に来なさい”って言ってくれたんだよ」
「……そうだったのか、悪かった、十川さんが決めたんなら間違いないな」「何だよ…十川さんが言ったら信じんのかよ?」「だから悪かったって、お前も早く十川さんみたいになれよ」「あぁ、判った…それよりさこの間十川さんから聞いたんだけど、今度アメリカから大物女性ジャズミュージシャンが来るらしいぜ」「へぇ、相変わらず情報通だな、何て人?」「確かマリアとか言ってたけど」
「えぇっ、マリア?」隣で聞いていた真田美奈代が反応した
「美奈代ちゃん、マリアって知ってんの?」「知ってるって言うか…謎の多い人なの」「謎が多い?」珍しく宙良と仁村がハモった
「うん、アメリカでは曲も大ヒットしてて、有名なんだけど…とにかくメディアへの露出が極端に少ないの」「フーン、でもそんなにヒットしてるんだったら日本でも曲くらい入って来てる筈だろ?」宙良が言った。
「それがね、日本で曲を流すためには著作権の関係で、日本の企業やレコード会社が契約を結ばなきゃならないんだけど、彼女はそのオファーを頑なに拒み続けて来たそうよ」「へぇ、じゃあそんな彼女が、何だって急に来日してくるんだ?」誰に聞くでもなく宙良が言った
「それがさぁ、十川さんもオファーし続けてた人物の一人なんだけど、十川さん自身諦めかけてた所、急にOKの返事を貰ったんだって」仁村が自慢げに言う
「急にって一体何があったんだろう?」宙良と美奈代が同時に言った。




