オファー
桜木町駅前もすっかり日が暮れ、人々は感動の余韻を残したまま散っていった。
宙良達、同好会の面々も顔を紅潮させながら、それぞれの片付けをしていた。
「ちょっと君、いいかな?」ふいに、宙良に向かって、男が話し掛けて来た。
「僕ですか?何でしょう」
「実は、私こういう者でしてね」と徐に名刺を差し出した。
名刺を見ると“ヘクターレコード ゼネラルマネージャー十川京一”と印字されていた。
「ヘクターレコードって音楽業界じゃ老舗の大手じゃないですか」
「ははっ、いやぁありがとう、それで僕はそこの新人発掘の責任者をやらせてもらってるんだが……」
「そんな方が僕に何の用ですか?」不審そうに宙良が問い掛けた。
「いやね、さっきから君達のライブをずっと見させてもらってたんだが…君、プロになる気はないかい?」
「えっ、僕がですか?」
「うん、さっきの楽曲、あれ全てオリジナルと言っていたが、君が書いたんだろ?」
「えっ、まぁ一応は…」
「君のプロデュース力は素晴らしい、それとトランペットを演奏してた女の子いただろう?彼女と組んで作品を作ってみないか?」
「美奈代とですか?」
「美奈代さん…って言うのか、彼女のトランペットも実にいいよ、君、その事判っててトランペットを活かした構成にしたんだろ?」
「はい、その通りです、実は彼女プロ志望で、その話聞いたら喜ぶと思います」
「そうか、じゃあ決まりだな」
「でも、僕はプロなんて…」
「ダメだよ、君のプロデュースじゃ無きゃダメだ、どんな名器も優れた演者が演じて初めて一流の音を奏でるんだ。
「ちょっと待ってて下さい」宙良はそう言って、十川から一旦離れ、美奈代の元へ行った。
「美奈代、これ…」十川の名刺を見せ、十川の話を美奈代にした。
「えーっ、それって凄いじゃない、私は宙良と組めるなら大歓迎よ、宙良だってプロになる才能を持っているわ」
「でも…俺…」まだ不安げに言う。
「私、思ってたの、プロになるんだったら宙良と一緒じゃ無きゃダメって、だから私は音大を蹴って宙良と一緒にN大に入ったのよ」
「美奈代…判った、十川さんの所に行こう」
こうして美奈代を十川の元へ連れて行き、十川に了解の返事をした
「判った、じゃあ細かい契約の話は後日、弊社へ来てもらって行う、また連絡するよ」
そう言って十川は去って行った。
「プロか…」二人で想いを馳せながら呟いた。




