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路上ライブ

土曜日の桜木町駅前は人々でゴッタ返していた。

ギター等を持って1~3名で隅の方で路上演奏をする者もいたが、こちらは総勢10名にも及ぶ路上ライブである。

もし上杉誠基うえすぎまさきの計らいがなければ、直ぐにでも警察が来て、騒ぎとなったであろう。

大倉宙良おおくらそら達N大ジャズ同好会の面々は、警察より許可を得た場所で、それぞれのセッティングを行っている。

「やっぱ緊張するよな」ビオラの野村浩二のむらこうじが恋人でもあるクラリネットの木下綾音きのしたあやねに言った。

「うん、だって見て人がいっぱいいるよ」

「だから、そういう事言うなよ、余計に緊張するだろ」

ここで宙良が皆に話した。

「皆な、用意は良いか?曲順は一応先に渡しておいた通りだけど、これはライブだ‼お客さんの雰囲気や自分たちのモチベーションにっては変える事もあるから」

「えーっ、曲順変えられたら失敗しちゃうよ」仁村清が不安げに言った。

「大丈夫、俺達はプロじゃ無いんだ、上手くやろうとか失敗せずに出来るかなんて、考える必要ないよ、ただ俺達の演奏でお客さんを巻き込んで楽しめば良いんだ」

「オーっ‼」一同は声を上げたと同時に緊張も取れていた。

「やはり、大倉君は天性のリーダー気質を持っている様ですね」横で見ていた上杉が呟いた。

「えーっ、僕達はN大ジャズ同好会です、土曜日の昼間にこの様にお騒がせして申し訳ありません、これから演じる曲は全て僕達のオリジナルで構成されています、もし宜しければ少しだけでも足を止めて聴いていって下さい」宙良が冒頭挨拶をした。

「では、まず一曲目“Youthful Day”」

宙良が自分達のキャンパスライフを楽しんでいる事を表現した曲だ。このアップテンポの陽気な曲に人々が集まって来た。

「続いては“”YOKOHAMA Drive」

今度はジャズらしからぬ、ポップなサウンドが流れる。この曲により聴衆は一気に乗り始めた。

「何?これ、ヤバイんだけど」女子高生らしい女の子が言った。

「続いて“Look at the Sky”」

この曲は、宙良が初めて即興で作った曲だった。ここで聴衆もこのバンドに酔いしれる。

次に“Tea Time”と言う曲で午後の一時ひとときをまったりと過ごす雰囲気をかもし出す。

「いいぞ、兄ちゃん達」中年のサラリーマン風の男が言った。

「なんか、懐かしい感じがするわ」主婦らしき女性が呟いた。

「続いては僕達の恩人に捧げる曲です“Professor”」

上杉はドキッとした。まさに自分の事を書いてくれた曲なのだ。

「最後になります、これは僕の大切な人を表現した曲です“First encounter”」

美奈代との初めての出会いを綴った一曲で、トランペットソロの多い楽曲だった。

曲が終わり拍手の波が押し寄せて来る。

「ブラボー、アンコール、アンコール」宙良はこう来ることを想定し、もう一曲用意していた。

皆の方を向き、一同の顔を見渡し、アイコンタクトで「皆、大丈夫か?」と確認する。

一同も覚悟を決めた様に頷く。

「では、もう一曲やらせてもらいます。ただ、これは出来たばかりで、練習も余り出来てませんが、精一杯やらせてもらいます。聴いてください“Mother”」

これは宙良の母に対してでなく、まだ見ぬ産みの母に対する想いの一曲だった。しっとりとしていながら、情熱的な一曲を、練習不足でありながら、皆、必死に宙良のタクトについて行く。

結果、稚拙ながらかえって聴衆の心を動かした。

こうして大歓声の中、路上ライブは幕を閉じた。

そんな聴衆の中、一人、後ろの方で冷静に演奏を聴いていた男がいた。

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