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生物学者の検証

連休が明けた月曜日、大倉宙良も真田美奈代も、沈んだ気持ちのまま、大学へとやって来た。

「おはよう」「あぁ、おはよう」挨拶もどこか気が抜けている。

「その様子じゃダメだったみたいだな」「宙良の方もね」「どうする?先生の所へ行く(か)?」ハモりは健在だった。

「とにかく先生には、報告だけはしておこう」「そうね」二人は、まだ沈んだまま、生物学教室へ向かった。

“在室”のプレートを確認して、宙良がノックした。

今回はすぐに「ハイ」と返事がしたが上杉の声ではなかった。すぐにドアが開いた。

「どなたですか?」二人の目の前に、くせっ毛のひどい、黒縁眼鏡の、背の低い男が立った。

「あの…上杉先生いらっしゃいますか?」二人同時に言う。

「やぁ、大倉君と真田さんだね、先生から話は伺ってるよ、どうぞ」

そう言って、中へ誘ってくれた。

奥のデスクで、白い背中がパソコンをカチャカチャやっている。

「先生」と言うと、上杉はすぐにこちらを振り返り「やぁ、そろそろくる頃と思っていたよ、さぁ、こっちへ」と二つの丸椅子を指した。

「それで、どうだった?」「先生の言う通りでした」「うん、じゃ、それぞれの話を聴かせてよ、まずは大倉君から」

宙良は功を焦りすぎて、作戦を失敗させてしまった事、そしてもう二度と、この事を親に聞けないだろう事を話した。

「なるほど、でも大倉君のミスは置いておいて、まずはご両親が、知らない事があると言うのが気になるね」

「はい、僕もそれは気になっていました」

「まずは、君達の代理母が、浜松にいたこと、そして、それに伴って、白川医院も知らないと言うことだ」

「僕もそう思います」

「と言う事はだよ、大倉君のご両親は、病院関係者などから、代理出産を打診され、代理母を斡旋された可能性が高いと言う事だね」

「なるほど」

「次は真田君、頼むよ」

「はい」美奈代は母が、かなり狼狽してしまった事、そして父、英吾に、この話は二度と蒸し返してはいけない、と言われた事を話した。

「ん~っ、こちらは予想外の展開だね、そして真田君のとこも、親には期待出来ないか…」と言ったきり上杉はしばらく考え込んだ。

「つまり、真田君のお母さんの狼狽ぶりから、お母さんは、代理母と何らかの繋がりがあると考えられるね」

「何らかの繋がり?」

「例えば姉妹や親戚など」

「母に兄弟はいません、それに祖父母も亡くなっているし、母方の親類でも、そんなことできる人はいないと思います」

「なるほど、では友人関係は?」

「それは分かりませんが、友人が代理母になっただけで、そこまで感情的になるでしょうか?」

「なるほど、それは一理ある」上杉は感心して言った。

「とにかく、君達、双方の親に期待出来ない以上、これ以上の調査は、現在不可能と考えるべきだよ。

でもね、いずれ真実を明らかにする機会は、必ずおとずれる。

だから、決して諦めてはいけないよ」

「先生、何で僕達に、そこまで親身になってくれるんですか?」宙良が尋ねた。

「白川医院の一件で、僕は自分の研究に対する、覚悟の甘さを痛感したんだ。人はネズミとは違う。人を被験者として見るなら、僕の研究の性質上、その人の人生に、深く関わる必要があると思ったんだ。だからこれからも、僕に出来る限りの協力は、惜しまないつもりだよ」

「先生にそう言って頂けると、心強いです」二人が同時に言う。

「ところでDNA鑑定はどうするんだい?」

「意味無いんじゃないでしょうか、こう言っては失礼ですけど、この検査で、僕らのDNAが一致したって、先生の研究が世の中に認められていない以上、何の説得力も持たないと思います」宙良が言った。

「違うと思うよ、僕は君達の後天性DNAの一致を確かめた上で、君達自身が、今後どう生きていくのかの指針にすべきだと思うんだ。」

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