顧問
翌日以降も、練習の合間を縫っては、宙良と美奈代は、浜松周辺を捜索し、産みの母と思われる人物の情報を得ようとした。
しかし手懸かりが、20年前に白川医院の患者であった事と、美奈代に似ていることだけだった為、大した情報は得られなかった。
途方に暮れて、練習場所として借りている、公民館に戻った二人は、目を疑った。
白川医院の一件で、気分を悪くしていた上杉だったが、メンバーに対して、アドバイスを送っているのだ。
「オーボエの山口茜君、もう少し音を抑えた方が、いいんじゃないかな?全体に音が重く聴こえてしまうよ」
しゃべり方は相変わらずだった。
「上杉先生って、音楽に興味ないんじゃなかったっけ?」美奈代が困惑した表情で、宙良に訊いた。
「うん、でも的確な指摘だ」そう言うと宙良は、上杉の元へ歩き出した。
「先生、只今帰りました」「やぁ、で…何か進展は?」「いえ、それより先生、正式に同好会の顧問になって頂けませんか?」
「えっ、僕がかい?冗談はよしてくれよ、僕は研究に忙しいし、何より音楽に、ましてやジャズになんて興味ないよ」
「音楽は興味でも知識でもありません、センスです」「僕には音楽のセンスも…」
「ありますよ、先生は今、山口さんに、的確な指摘をされていました。音楽を聴くのは、殆どが音楽の知識がない人です。その人たちは音楽を感じて、いいか悪いか判断します。知識じゃありません。先生はそのセンスを既に持っています」
「フフッ、学者の僕が、学生の君に、論破されるとはね…」
「研究を疎かにしてまで、見てくれとは言いません。気分転換の時間等に見てくれるだけでいいんです」
「解った…解ったよ、まぁサンプルの君達に絡める、大義名分が出来たとでも、思うことにするよ」
そう言って上杉はニヤリと笑った。
宙良も苦笑で返し「ありがとございます」と頭を下げた。




