浜松合宿
9月中旬、急に飛び出した合宿の話にも、不平を言うものはなく、他の9名のメンバーも、続々と集まってきた。
流石に美奈代がいるため、トランペットを諦め、トロンボーンを担当することになった仁村清は、初秋にも関わらず、麦わら帽子にアロハシャツの、出で立ちで現れた。
「なんだよお前、その格好?バカンスじゃねーぞ」宙良が呆れ顔で溜め息をつく。
「ところでこの合宿って、お前ら二人で企画したんだろ?」仁村が茶化す様に言ってきた。
「あぁ(えぇ)そうだけど」「相変わらずだなお前ら、で…何?合宿利用してシッポリ旅行ってやつ?」
「俺(私)達、そんなんじゃねぇよ(ないわ)」「その息のあった処、見せられて、納得するかよ。じゃあ俺、美奈代ちゃんにコクッちゃおかなぁ?」
「好きにしろよ」「私にだって選ぶ権利くらいあるわ‼」と宙良と美奈代が、同時に言う。
「おっ、珍しく意見が違ったな、まぁどっちにしろ、俺なんか美奈代ちゃんに相手されねぇか」仁村がふてくされた様に言った。
「おはよう!」と言ながら、珍しくベージュのチェック柄スーツを着た男が現れた。
「おはようございます」と一同が、元気に返す中、宙良一人“ハァーッ”と溜め息をつく。
生物学者の上杉誠基だった。
「君達、準備は出来てるね?じゃ、行こうか」と先導を始めた。
「先生って音楽とかお詳しいんですか?」フルートの野中圭子が訊いてきた。
「ははっ、僕は音楽に興味を持った事もないよ、あるのは生物だけさ」「じゃ、何で顧問を引き受けられたんですか?」
「顧問なんか引き受けてないよ、あくまで合宿の付き添いだけさ」
「合宿に託つけて、旅行気分ってやつですか?」メンバーで唯一、上杉の講義を受けている、パーカッションの山本義晴が言った。
「旅行?とんでもない。僕はただ、浜松に興味があるだけさ」
「浜松に何かあるんですか?」「あっ…いや何でもないよ、さぁ駅に着いたよ」
東海道新幹線の新横浜駅に着いた一行は、8:16発、新大阪駅行こだまに乗り込んだ。
その後浜松駅で乗り換えて、舞阪駅で下車する。ここからバスで20分ほど行ったところに宿はあった。
「わぁ!綺麗、やっぱ海は最高ね」クラリネットの木下綾音が言った。
「バカ、これ湖だよ。浜名湖って言うんだ」ビオラの野村浩二が言った。二人は同じ高校出身で、高二の頃から付き合っている。
「アーッ、うなぎ喰いてぇ」仁村が言った。
「仁村くんって本当、食いしん坊ね」バイオリンの中野百合が微笑しながら言った。
「ゆ…百合ちゃん、そりゃねぇよ」実は仁村は、百合に惚れていた。
「なぁ仁村」宙良がふいに話し掛ける。
「何だよ、俺、別に百合ちゃんの事…」「そうじゃねぇって、お前だけには言っとくけどさ…」宙良は合宿の目的を話した。
「えっ!そんな…要のお前ら二人が」「シーッ、声でけぇよ。なっ、頼むよ、安心して任せられるの、お前しかいないんだよ」
お調子者の仁村は“んー”と唸った後「しゃあねぇな、解った安心して行ってこい」と簡単に躍らされた。
「悪いな、じゃ頼むよ」こうして、ホテルにチェックインした一行から離れ、宙良と美奈代は脱け出した。




